uparupapapa 日記

今の日本の政治が嫌いです。
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お山の紅白タヌキ物語  第9話 日本海海戦

2024-02-01 06:14:27 | 日記

 1904年10月15日にバルチック艦隊がリバウを出航してから北海事件(ドッガーバンク事件)にてイギリス漁船を砲撃し多数の犠牲者を出し、イギリスの憎悪を受ける。

 その結果、早々にその後の航海が前途多難を極めた。

 当然おせんタヌキがたち一行も旗艦「スワロフ」(クニャージ・スヴォーロフ)に潜入していたため、極東・日本海(正確には目指したのはウラジオストック)への苦難の航行に付き合う事となる。

 

 彼らバルチック艦隊はその北海事件のイギリスから受けた憎悪のせいで、当時の最短距離の地中海ルートを通るスエズ運河渡航を許されず、アフリカ大陸・喜望峰を迂回しなければならなかった。

それは非常に厳しい。何故ならその航海ルートの制海権を握っていたのはイギリス。

当時の軍艦は蒸気を用いて駆動する蒸気船である。

その燃料は石炭であり、常に石炭の補給が必要。そんな蒸気船の大艦隊を戦闘状態(武器弾薬を満載)でヨーロッパの北の奥から東アジアまで航海するのは前代未聞の無謀な作戦なのだ。

 

 大西洋の赤道を抜け、アフリカ大陸西側の大西洋航路を渡る際や、アフリカ大陸最南端、喜望峰を抜け大陸東側インド洋に入り、ようやく同盟関係にあるフランス領マダガスカル島まで到達し物資の補給が出来ても、その後の航海での中継地点が見つからない。

 しかも艦隊は外洋航行が可能な戦艦だけではなく、近海での活動用の駆逐艦も含まれていた。

 用途の異なる長距離用・近海用で隊列を組むと当然航行速度は低下し、無駄に日数を要する結果となる。

 

 おせんタヌキはともかく、尚五郎タヌキと庄吉タヌキはそんな過酷な航海に不満を漏らし続けた。

 赤道を通過する時は、特にその暑さで辟易する。

 

「おい、尚五郎タヌキ、この暑さは何とかならんかなぁ。こんなところで汗だくになっていたら、直ぐにバレちゃうだろ?」

「そうだな、お前が居る棚の上が汗で濡れちゃっているぞ。ちゃんと拭いておけよ。

 (ロジェストヴェンスキー)提督が気づく前にな。」

「そう言うお前も何日も風呂に入って無いだろ?ケモノ臭いぞ。」

 それを聞いていた おせんタヌキが、 

「私が術でお二人の身体をきれいにしてあげましょう。

 ついでにこの暑さが気にならないよう、常に涼しく感じられるようにもしてあげます。だから任務完了まで我慢してくださいね。  ポン!」

「・・・あぁ、涼しい!ボクの身体もさっきまで汗で気持ち悪かったけど、風呂上がりのように気分爽快だよ!おせんタヌキさん、ありがとう。」

「僕もだ!生き返るようだよ。感謝、感謝!」

 そう言って喜ぶ二人だったが、少し経ち おせんタヌキが今までずっと涼し気だったことに気づく。

 彼女は最初から自分だけ涼し気の術と身を清める術をかけていた事実に。

「酷いよぉ~!もっと早く術をかけてくれたらよかったのにぃ~。」

「だって、この術はとても疲れるんですもの。かける時はともかく、その後もずっとその状態を維持しなければならないでしょ?とても体力と気力を消費するのよ。

 ホントなら私がおふたりにかけてあげるのではなく、それぞれがご自分にかけられるよう、術のスキルを上げて貰えると助かるんですけど。」

 そう言ってため息をつく。

 ホントはぼやいてばかりいるオジサンタヌキたちに辟易し、面倒くさいと思っていただけだった。

 やはり年頃の娘とオジサンがコンビを組むのは、人間もタヌキも難しいようだな。

「ハイハイ、済みませんね。」

 肩をすくめる形無しのふたり。頑張れ!尚五郎タヌキと庄吉タヌキ!

 

 食事の時間が近くなると、船内キッチンからボルシチやピロシキの匂いがする。

 漂うその匂いに誘われて、食いしん坊の尚五郎タヌキが落ち着かない。

 いよいよ我慢できなくなるとハエに化けキッチンに向かい、小さなネズミに化けコッソリ食事にありつく。

 ホントは人間のものを盗み食いするのはご法度だが、戦争中の作戦行動を遂行しているのだから仕方ない。

 深夜おせんタヌキが黒パンをせしめて持ち帰るだけでは、満足できないらしい。

 でも尚五郎タヌキも庄吉タヌキも術の完成度が低く危なっかしいので、あまり頻繁にキッチンに通わないで欲しい。バレたら命の危険に晒されるから。

 

 

 艦隊がマダガスカル島で補給を受けた後は、多分もうウラジオストックまで補給を受けられないだろう。イギリスの縛りはそれほどきつかった。

 次第に食材が乏しくなり、おせんタヌキ一行も食事を我慢しなければならない程ひっ迫しだす。

「腹減ったなぁ~。」

「あぁ、腹減った。」

「・・・・腹減ったなぁ~。」

「あぁ、腹減った。」

 数年前のお山の飢餓以来の虚しい会話が続く。

 

 だが、艦隊乗組員である水兵たちの方が過酷な扱いを受けていた。

 その劣悪さは想像以上で、食料を減らされるだけならともかく、航海時の作業や船内居住環境が劣悪で、ロシア陸軍と同じ主人と奴隷のような扱いだったから。

 当然士気は地に落ち、暑さ寒さが目まぐるしく変わる環境下、多数の乗組員が命を落とした。

 日本海軍との決戦前に、既にヘロヘロな状態のバルチック艦隊。

 負けたら亡国の運命にある日本の連合艦隊は訓練も十分、気合も十分、士気はめっぽう高かった。

戦う前に勝負は決していたのかもしれない。

 

 

 1905年5月23日、バルチック艦隊東シナ海到達。洋上にて石炭運送船にて燃料の補給をうける。

 補給を受け石炭を満載し黒い煙りを濛々と上げた艦隊は、ここに居るよと云わんばかりに進撃する。

 

 5月27日未明、信濃丸がバルチック艦隊発見。

 報を受けた三笠から、あの有名な電文「本日天氣晴朗ナレドモ浪髙シ」を大本営に発する。

 

 同11時42分戦闘開始。

 

 おせんタヌキ一行は直ちに船体を離れるべく光速移動の術を使い、日本側連合艦隊旗艦『三笠』に乗り移り秋山参謀長に密かに接見、作戦命令を受ける。

 おせんタヌキの使命は幻術を使用し、バルチック艦隊から見た日本艦隊の正確な位置情報を攪乱、砲撃から味方を守る事。

 こうして安全な環境を確保し、T字戦法が実行された。(正確にはT字及び乙字戦法の併用)

 おせんタヌキの幻術の効果もあり、戦闘は30分ほどで勝敗が決する。

 その時の損害は旗艦「三笠」が敵艦隊の集中砲撃により多数被弾、日本側第2戦隊所属の装甲巡洋艦「浅間」戦列より離脱。ほぼこれだけの損害で済む。

 一方、バルチック艦隊は「オスリャービャ」「クニャージ・スヴォーロフ」など、主力多数が戦列から離れた。

  この約30分の激戦で撃沈を辛くも免れた残存艦船は、艦隊編成を維持する事ができずチリジリに敗走した。

 これにより、以降日本艦隊は追撃戦に移る。

 

「三笠」に移乗していた尚五郎タヌキと庄吉タヌキは、おせんタヌキの目覚ましい活躍を見て、自分たちも何とかしなければ!と強く思った。

そして秋山参謀長に直訴、特別に水雷艇への乗船と戦闘参加を許可される。

 

 水雷艇は主に夜戦用。

 夜の闇に乗じて敵艦にできる限り接近し、至近距離から魚雷を発射、すぐさま反転退避の戦法を旨とする。

 いわば命の危険を顧みない肉弾戦用兵器なのだ。

 ある意味特攻に近いその戦法は、無謀にとも云えるが、遠方からの砲撃より格段に命中率が高く、その効果は大きい。

そこに尚五郎タヌキと庄吉タヌキが搭乗したが、彼らにはとっておきの秘策がある。

 得意の幻術でその身を霞で隠し自らの正確な位置情報を攪乱、被弾を避け、他に真似できないできる限りの接近戦を展開できる強みがあるのだから。

 ふたりのタヌキは果敢に敵船に接近、魚雷の発射チャンスを伺うが、何故か敵船からの迎撃が激しい。

 自分の位置を攪乱している筈なのに、どうしてそんなに正確な砲撃ができる?

「オイ!庄吉タヌキ!何だかおかしくないか?やたらと弾がかすっていくんだけど。」

「そうだな、本当なら幻術で僕らは見えていない筈なのに。変だな?」

「アレ?庄吉タヌキ!お前の尻尾が見えているぞ!それもそんなに巨大化して。

 それじゃぁ、此処を撃ってくださいって言ってると同じじゃないか!

 お前の尻尾を的にしてどうする!」

「ありゃ?ホントだ!直ぐに隠さなきゃ!」

 慌てて尻尾を幻術で隠す。

 

 そんなこんなで、何とか数隻撃沈できたふたり。

「どんなもんだい!」と大威張りで凱旋した。

 

 この海戦は史上稀に見る一方的な勝利だったが、勝因は陸軍・海軍の奮闘が一番だった。

 また影のタヌキたちの力添えも効果を発揮している。

 

 だがそれだけではない。

 

 国に残る人々やタヌキたちの必死の祈りが力になった事は、あまり知られていない。

 

 この海戦を以って辛くも勝利した戦争。

 多くの者たちがホッとした。

 

 郷里に帰るタヌキたち。

 多くの者が歓喜で出迎えた。

 おせんタヌキも喜び勇んでおミヨちゃんの前に現れ、無事の帰還を報告する。

 もちろん似非お地蔵さまの姿で。

 

 本物のお地蔵さまの隣に鎮座する姿を見ただけで、おミヨちゃんは全てを察し、心から喜んだ。

 

 

 

 だがこの勝利が人々に増長と慢心が忍び込み、高慢な意識が芽生え始めた。

 あれだけ慎重に準備して、奇跡的にようやく勝てた戦争。

 だが国力が10倍以上もある大国ロシアに戦勝した事で、その増長が40年後、無計画・準備不足の無謀な対米戦に突き進む要因を作った。

 

 暗雲が立ち込めるまでまだ間がある。

 

 つかの間の平和で幸せの時間が。

 

 

 

 

 

      つづく