みなさま、いががお過ごしでしょうか。日本列島各地で大雨が降り、大変な
思いをされている方も多いと思います。被害地域にお住まいの方には心よりお
見舞い申し上げます。
一方、私たちが関わりを持ってきたアフガニスタンですが、事態は風雲急を
告げています。タリバンが各地を制圧し首都に迫っているというニュースを目
にされた方もいると思います。
米軍の撤退後、非タリバン地域だった北部諸都市がほとんど落ち、西の最大
都市ヘラートも陥落、首都の南方にある都市ガズニも落ちました。南部のカン
ダハール陥落も時間の問題かと思います。首都突入も考えられますが、指導部
ははやる気持ちを抑え、周囲を全て落とした後で、政府要人への国外退去を許
し、その後の無血入城を目指すのではないかと思います。タリバンのスポンサ
ー国である隣国のパキスタンもそう勧めるはずです。人口 420 万を抱える首都
に進撃すれば、多数の市民の死傷者も出ますし、難民が溢れ、国際非難を浴び
るからです。その場合、ガニ大統領はすぐにも国外に逃れると思いますが、誰
かが救国のための臨時政府を組織し、抵抗する可能性もありますが、その可能
性は少ないと思います。こんな時、「マスードがいたら」と思います。それは無
理としても「マスードのような人間が現れてくれたら」と心から願わずにはい
られません。
政府が瓦解すれば、タリバンが政権を握ります。そうなれば 20 年前の悪夢が
再現するかもしれません。すでに制圧した地域では女性や児童虐待、市民の処
刑などが行われているからです。かつてのように女子の教育と就業は禁止され、
人権抑圧が広範に行われます。
私たちが支援している学校があるパンシールはまだタリバンの手に落ちてい
ませんが、そうなれば、住民への激しい弾圧が行われることは間違いありませ
ん。また、タリバンを構成するパシュトゥーン人が目の敵にするハザラ人への
弾圧も強まります。ハザラが多い、北の最大都市マザリシャリフと中央のバー
ミヤンが陥落していないのはハザラ人が頑張っているからだと思います。
タリバンの横暴を止めることができるのはタリバンを育て上げ、いまも軍事
顧問や志願兵を送り込んでいるパキスタンです。タリバン幹部の家族はパキス
タンで暮らしていますし、タリバンの武器の補給などもパキスタン国境を抜け
て搬入されています。そのパキスタン外相が数日前のインタビューで「米国が
リーダーシップを発揮すべきだ」と語っていますが、パキスタンこそが圧力を
加えるべきなのです。アフガニスタンは内陸国で、イラン、タジキスタン、ウ
ズベキスタンは反タリバンですから、パキスタンがタリバンの生命線なのです。
今回のタリバンの攻勢の背後にはパキスタンが「米国が中国包囲網のためにイ
ンドを重視していることに危機感を覚えている」ことが挙げられると思います。
パキスタンは裏庭に当たるアフガニスタンを自分たちの影響圏に収めるために
この 40 年以上、軍を中心に人士支援と政治工作を重ねてきました。それがアフ
ガニスタンの混乱の主要な原因です。国際世論を前に、シラを切るパキスタン、
「今回の戦闘は政府軍が仕掛けてきたものだ」と主張するタリバン。どちらの
嘘も許してはならないと思います。
この間にも多くの非戦闘員が戦火に巻き込まれ、あるいはタリバンの暴虐で
傷つき、命を落としていることに深い悲しみを覚えます。マスードが懸念して
いたようにアフガニスタンは大国や周辺の国々に蹂躙され続けるのでしょうか。
いつそれが終わるのでしょうか。一刻も早く戦闘が止むことを心から祈ります。
このタリバンの横暴もいつか止む時が来るとは思いますが、それまでの「闇」
を人々はどうくぐりぬければいいのか。私たちは無事を念じ、平和を祈ること
しかできません。しかし、それも一つの力になるはずです。私は必ず天に通じ、
多くの人の心に伝わっていくと信じています。
2021 年 8 月 13 日 長倉洋海
アフマド・シャー・マスードと息子
マスード2世