小学校から帰ると、
母方の祖母がなぜか家にいた。
祖母は私の顔を見るなり悲壮感のある声で叫んだ
「お父さん、死んじゃったんだよ!」
その瞬間、世界が止まってしまったのを覚えている。
え?
一粒の涙も出なかった。
(どうして、もっと早く教えてくれなかったの?
こんなことなら学校を早退したかった。
なぜおばあちゃんからこんなことを聞かなければいけなかったの?
お母さんから教えて欲しかった。)
何故かそんなどうでも良いことばかりを考えていた。
ポストに届いていた進研ゼミの封筒を開けていたら、
こんな時に何遊んでるんだ!と怒られた。
そんな瑣末なことばかりがなぜか思い出される。
しばらくすると、父の遺体が母屋に運びこまれていた。
顔に被せられている白い布を取るのが怖くて仕方なかったが、
側にいた大人に促されて布を取った。
まだ若くて血色の良かった顔は、作り物の様に白く、
入院生活が長かったためか、髪の毛も伸びていた。
私が生まれて初めて見た、人の遺体だった。
人間だとは思えず、ましてや父だとは思えなかった。
これは誰か他の人なのではないか?
当時TVでやっていたドッキリカメラが家に来て、私を騙しているのではないか?
そんなことを本気で考えていたのだから
、7歳の私は本当に幼かったのだと思う。
母は泣き疲れて呆然として、
何もできずだらしなく壁に寄りかかっていた。
顔は涙でぐしゃぐしゃになり、目の焦点が定まっていない。
子供の私から見ても、母が明らかにおかしな状態だということがわかった。