父を亡くした母は、義父母と同じ敷地内で生活する意味を見出せなかった。
義父母と上手く行かずに出ていってしまった長男夫婦が
本来この家の跡を継ぐのが順当ではないか、
義父母にとっても、子供を含めて自分達は邪魔者でしかないのではないかと悩んでいた。
母は実家の両親に、子供達を連れて実家に戻りたいと相談したという。
しかし、母の父はそれを許さなかった。
「お前はもうこの家を出て、〇〇家の人間なんだぞ?」
そう言って母が戻るのを拒んだという。
家を一度出た人間なのだから、
娘といえどももう他人であり、援助も一切しないのが当たり前という考えだった。
働こうにも子供はまだ小さく働けないし、それ以前にこの辺鄙な田舎に、なんの資格もない女がまともに働ける場所などなかった。
遺族年金だけでは、義父母の家を出て住む場所を探し自立することは難しい。
帰る場所もなく、行く場所ない。
針の筵のような義父母のいるこの家にとどまるしかない。
母は30代半ばにして、人生の袋小路に迷い込んでしまった。