母は父と出会う以前、
付き合っている男性がいたという。
その男性は母のことをとても大切にしてくれ
真剣に母との結婚を考えており、結婚までは肉体的な関係にならないと真面目に考えていた。
優しく誠実で、母のことを好きになってくれた青年だった。
彼とは大変気が合い、
若い2人は休日にドライブに出かけたり、楽しい日々を過ごした。
しかしある時母は彼の家に初めて遊びに行ってショックを受けた。
彼が長男であるということは、知っていたものの
彼の家は決して裕福とは言えない母子家庭だった。
彼の実家は玄関を開けると冷蔵庫が見えるような狭い家であり、それが母にはショックだったそうだ。
長男というだけでも親には反対されそうなのに
ましてや貧しい母子家庭となると
親から相当反発されるだろうことが予想された。
大好きな彼であったが、母はあっさりと彼との結婚を諦め別れることにした。
母にその話を聞いたとき、
子供ながらに本当にひどい話だと思った。
自分ではどうすることもできない家庭環境で、真剣に将来を考えていた彼女にあっさり振られてしまった彼はどれだけ辛かっただろうか。
彼が優しく母親想いであったと言うことも逆に母にとってはマイナス要素となってしまった。
…母が差別した母子家庭。
母が傷つけた、母子家庭で育った優しい一人の青年。
将来の自分、
未来の自分の子供たちが母子家庭になるということは
若い母には全く想像できなかったのだろうか。