父が亡くなってから、もともと内気だった私は更に大人しくなっていた。
その頃の私は、夢遊病で夜中に突然起きて歩き出すことがあったり、
家にいても突然恐怖の感情に襲われ、居た堪れなくなる症状が出ていた。
今でこそそれが、パニック障害の発作だったとわかるが、
当時は何がなんだかわからないまま恐怖に震えた。
弟は円形脱毛症になった。
小学三年生になった私は
学校でも時折、現実感がなくなりボーッとしていた。
忘れ物は多く、先生にしょっちゅう注意される。
引っ越してきたばかりで、クラスに必死に馴染もうとしている男子がいた。
彼は勉強ができて難しい言葉を良く知っていた。
席が近かった彼は、皆に聞こえる様に私をからかって大声をあげた。
「こいつ、全然喋んないで
植物人間みてぇー!」
「植物人間!」
まわりのクラスメイトも笑った。
私は、「植物人間」という言葉をこの中の誰よりもよく知っていた。
父が植物状態になってから亡くなったからだ。
彼の言葉に心が凍りつきながら、
誤魔化すように私も苦し紛れの笑顔を作った。
同じ班の意地悪な女子も、私だけを無視する様になった。
私の前で目を合わさずに、
「大っ嫌い」と呟いた。
私の様に陰気な空気を纏っている人間は
それだけで周りの人をなんとなく居心地の悪い気持ちにさせたり、
サディスト気質の人間にとっては格好の餌食となるのだ。
ある日、
女子トイレの和式の個室に入り、流そうと立ち上がった瞬間、
隣の個室からどっと複数人の笑い声が聞こえた。
女子数人が、私が個室に入っているのを隣の個室の上から覗いていたのだった。
消えてしまいたいほど恥ずかしく、屈辱的だった。
覗いていたと思われる女子に、すれ違いざまに揶揄われる様なことを言われ、胸を抉られるようだった。
殴られたわけではない、
直接的に嫌がらせをされたり
何か物を隠された訳でもない。
しかし、彼らの何気ない言葉や振る舞いは
私を地獄の底に突き落とすに充分だった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます