人生で初めて覚えた言葉は、「ママ」ではなく「パパ」だった。
そして、私は母乳を拒んで全く飲まなかったそうだ。
そんな私に対して、母はよく
「ヨーコちゃんは、昔からパパっ子だったんだからね」
と言った。
弟が退院してからも、弟につきっきりになっている母に対して、
私は寂しさを募らせて尋ねた。
「ねぇ、ママは私と弟くん、どっちが大事?」
母は悩むことなく答えた。
「弟くんだよ。
女親は息子が可愛いし、男親は娘がかわいいものなの!」
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パパっ子の私だったが、
小学生になってすぐ、父とお風呂に入ることが嫌になっていた。
幼稚園で男子にトイレを覗かれてから、
自分の身体に向けられる異性の視線が怖かった。
大好きな父であってもそれは変わらなかった。
「パパは娘と入りたいんだから、パパと入りなさい」
と母に強制されるのも嫌だった。
父が弟よりも、私とばかり入ろうとするのも不思議だった。
パパとはもうお風呂に入りたくない、と訴える私に母は言った。
「ねぇ、どうしてパパとお風呂に入りたくないの?
パパは『いずれ娘とはお風呂に入れなくなるから入りたい、
6歳で嫌がられるのは早すぎる』って、悲しんでたよ?」
「〇〇ちゃんは、中学生になってもお父さんとお風呂に入ってるって言ってたよ?」
「お願いだからパパと一緒に入ってあげて」
母の言い分に、言葉にできない気持ちの悪さを感じていた。
(パパの事は大好きなのに、私がおかしいのかな?
パパと一緒にお風呂に入りたくない、こんな私は悪い子なのかな?)
父が大好きなわたしと、
父とお風呂に入りたくないわたし。
その間で気持ちが引き裂かれた。