家の敷地内で野良猫が仔猫を産んだ。
白い仔猫を拾って、チャロと名付けて飼うことになった。
赤ちゃんの頃はスポイトでミルクをあげて育てた。
チャロに会いたくて、学校にいても一刻も早く家に帰りたかった。
仔猫から人の手で育てられたチャロは、
甘えん坊で人懐っこい猫に育った。
白猫だが、しっぽだけうっすらと茶色の縞模様が入っており、しっぽの先は少し曲がっている。
青い目と、すこしごわごわとした毛並み。
寝る時も一緒で、チャロは時々母猫を思い出しているらしく、人の人差し指を吸いながら前足をふみふみした。
大きくなったチャロは、家と庭を自由に行き来して
毎朝、私と弟の登校班の集合場所近くまでついてきてくれた。
どれだけチャロの存在に癒され励まされただろう。
チャロは紛れもなく、家族の一員だった。
ある日のこと
隣家に住む女性の叫び声が聞こえた。
「犬が車に轢かれてる!!」
弟が走って家の前の道路まで見に行った。
車に撥ねられて、もがき苦しんでいるのは犬ではなく、チャロだった。
頭を強く打ったのか、眼球は飛び出しそうになり血まみれで苦しんでいた。
チャロと知って、私は道路まで見に行くことができずその場で腰が抜けた様に座り込み泣き叫んだ。
母が水色のシーツを持っていき、チャロを包んだ。
チャロは足をバタバタさせて、しばらくもがき苦しんだあと死んでしまったようだった。
ぐるぐる巻きに巻いたシーツには、大きな血の跡が滲んできていた。
チャロを抱いた母は、死んだ人間の赤ちゃんを抱っこしている様に見えた。
あんなに声をあげて泣いたのは
人生であとにも先にもあの時だけだったかもしれない。
騒ぎを聞きつけたのか、
祖父も出てきて、泣いている私を見るなり怒鳴った。
「泣くな!
父親が死んだ時は泣かなかったくせに、
猫ごときが死んでなんだ!」
珍しく母が、私を抱きしめてくれた。
祖父が、家から離れた庭にスコップで大きく深い穴を堀り、早々にチャロは埋葬された。
夢の中にチャロが出てきて、
弟と一緒に抱きよせて夢の中で喜んだ。
夢をみながら、これは夢なんだと気付いたのは初めてだった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます