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同人サークルA-COLORが北海道をうろうろしながら書いているブログです

愛と希望の炭鉱、他

2012-02-27 22:46:55 | 映画-2012年

「安全確認って大事」

昨日の「記録映像 上映会」で見てきた3本の映画の感想です~。

『住友の炭鉱』
住友系の炭鉱会社のPR映画。
九州や北海道の各地の炭鉱会社を、当時の炭鉱風景とともに紹介するもの。
当時の炭鉱を見られるという意味で、なかなか貴重で面白い内容なのですが。
それよりも興味深いのが、映画の終盤で「社名が住友に変更になって、云々」という話が出てくるところです。
戦後、財閥解体によって住友系の炭鉱会社は「井華(せいか)鉱業株式会社」と社名を改めています。
その後、1952年にほとぼりが冷めて、再度「住友石炭鉱業株式会社」となります。
この社名変更のタイミングに合わせて作られた映画なので、「社名が住友に変更」っていうエピソードが加えられたのではないか、と思います。
この辺の時系列は、Wikipediaの住石ホールディングスの項にまとめられています。

『立坑』
文字通り、奔別炭鉱の立坑の制作過程を捉えたドキュメンタリーです。
製作はマツオカ・プロダクションという、こういう産業ドキュメンタリーを担った映画会社のようです。
戦後産業史を描く産業映像500にも制作会社として載っています)
立坑の仕組みの説明からはじまり、設計や図面制作を経て、櫓が組み上がっていくところまでを追っていきます。
部品の図面を引くシーンがあるんですが、あの立坑の実寸大の図面を手で引いてるシーンには度肝を抜かれました。
CADも使わないで、間違えちゃったらどうするんだろう…なんて、余計なお世話でしょうけど。
なんか、円谷プロ系の特撮を思わせるオープニングや音楽の使い方が、いかにも昭和っぽくて微笑ましかったです。
あ、それといま気が付いたんですが。
住友系の炭鉱会社なのに立坑は三菱系(三菱造船)が作ったんですね。
それと住友赤平炭鉱には、三井三池製作所の鉱山機械が入っていたようです(自走枠工場に置いてありました)。
こういうのって自社の傘下の企業から調達していたわけじゃない、ってことなんでしょうかね?

『愛と希望の炭鉱』
旧・通商産業省が出資して東映(正確には関連会社)が製作。
製作が東映ということもあり、この手の産業記録映画にしては珍しく劇映画仕立てとなってます。
これが、なかなかアレな意味で良い出来となっているんで、以降ネタバレしながら感想文です。

主人公が『キカイダー01』の故・池田駿介さんというだけで、かなりテンションが上がるんじゃないでしょうか。
(ただし、この映画にエンドロールはなく、池田さんのフィルモグラフィーにもこの映画のことは触れられていません)

その主人公が炭鉱の保安係の試験に合格した、という朗報からスタート。
んで、主人公はこの吉報を恋人に伝えるために、彼女が勤める商店へと飛んでいくんですが――奔別の炭鉱や街並みの賑わい映し出され、このシーンだけでも見て良かったと思えます。
っていうか、ここで商店がジョイに変わりました、との解説に会場内にいた方々が「あ~」と納得してたのが面白かったです。こちらのご出身の方がいらしてたんでしょうね。

そして、彼女に吉報を伝えるのですが、なぜか路上に歩き出しながら行うという、いかにも取って付けたような寸劇――当然、路上を走るバスにクラクションを鳴らされてしまいます。
「街中でも保安に気を付けなきゃ(テヘペロ」的な、これまた取って付けた芝居。
ここで会場内で解説があったのですが、どうやらこの映画は旧・通商産業省の保安に関する啓蒙を目的としていたようなのです。
そのため、こういった取って付けたような保安に関する説教話が随所に出てきます。
とはいえ、このバスの件はけっこうな力業なんですが――でも、無駄なエピソードというわけでもなく。
恋人の兄が陰気な顔をしてバスから降りてきます。しかも、妹に会ってもシカト。

場所は変わって彼女の家。
東京から帰ってきた兄(このシーンで説明があるまで、どこから帰ったのか分からないんですが)を囲んで、一家5人で夕食なのですが、どうにも雰囲気が重苦しい。
どうやら東京で兄がキャバレー(キャバクラじゃなくてキャバレーって言ってた)の女の子に入れ込んでしまい、会社のお金を50万円使い込んでしまったようなのです。なんというバカ兄貴w
とはいえ、50万円耳を揃えて返済すれば、会社的には見逃してやろうという条件を出されているんだそうです。
んで、その50万円をどうやって工面しようかと家族で悩んでいる中、一番下の弟が「ボク、大学進学諦めるよ…」と切り出します。進学費用を兄の横領金の返済に充ててくれと。
そんな弟の献身にも家族は反対。するとバカ兄は「オレが前科者になれば、それでいいんだろ!」と逆ギレする始末w

そこへ折悪しく、北の誉を持った主人公が彼女の家を訪ねてきます。どうやら娘さんをください的な口上を述べに来たようです。
でも彼女的には今は気まずいんで、とりあえず北の誉だけ受け取って、主人公にお引き取り願います。
そして彼女は北の誉を父親に手渡します。すると、ぼそっと母親が「彼は30万の貯金を作ってるんだって」と。
何という当て擦り! これじゃあバカ兄の立つ瀬が無い! っていうか、こんな家族ありか!

所が変わって、主人公とその友人と思しき炭鉱仲間が会話しているんですが、友人が夜遊びしているということ。
炭鉱会社の中に入って(奔別炭鉱です!)彼等が入坑の準備をしていると、新人さんがやってきます。新婚さんなので炭鉱でがんばるぞ、的なカンジで。
そして、いざ入坑しようかというところで、上司から夜遊びをしていた友人へ今回は入坑するなとのお達しが。「友人が夜遊びしてた」って主人公がチクったんですね。
そうすると友人は悪ぶった口調で主人公へ悪態をつきます。出世したからってエラそうによう、ってなカンジで。
結局、上司の仲裁でケンカにはならなかったのですが。

そして、いよいよ坑内へ。
主人公たちもゲージで地下へ降りていった……ようなんですが、いつの間にか上司の回想シーンへと流れ込んでいきます。
(もしかすると最初から回想シーンだったのかもしれないけど…)
曰く、坑内で3名が生き埋めになった。救出作業は難航し時間が掛かった。その結果、一人が死亡。
ただし、救助にヘマがあったわけではなく。死亡した彼も夜遊びをして体調不良のまま坑内に入ったので、救助を待つ間に過酷な環境に耐えきれず死亡した、とのこと。
こんなカンジで上司に諭されて、悪態をついていた友人もコロッと豹変。「以後気を付けます」となります。物わかり良いな~w

さらに坑内での保安話は続きます。
新婚さんの新人さんは「安全」と書かれた安全弁当を広げてしまい、周囲の先輩に冷やかされます。
んで、冷やかしていた張本人が「オレもかつては新婚時代に仲間に冷やかされたもんさ~」と訳知り顔で語ってきます。
「でも、冷やかされてもカッとなってはダメだ」ということで、今度は先輩の回想シーンへ。
かつての新婚さんも冷やかされ、その悔しさから自分の体力を誇示しようとします(文脈的には、夜がお盛んでもきちんと仕事ができる、あるいは冷やかすほどにはお盛んじゃないということを誇示したかった?)。
そして、鉄骨のようなものを担ぎ上げたところで足を引っかけてしまい、そのまま転倒。鉄骨が足の上に乗っかって骨折してしまいましたとさ。
「だから、カッとなったらダメだ」と諭す先輩。「オメーほどにバカじゃねえよ」とは突っ込めない雰囲気ですw

そして、いよいよ主人公の登場。
なんと、彼女の父親と一緒の持ち場で働いています。
娘さんのことが気がかりで、ついつい主人公につっけんどんになってしまう父親。うわ~、イヤな職場だ…。
でも、気がかりなのは娘だけではなく……借金を作って帰ってきた長男に、借金返済のために大学進学を諦めるという次男。あ~、どうしたらいいんだろう…。
と、思い悩んでボンヤリしていたところで、父親が事故に巻き込まれて大怪我を!
そこへ、すかさず保安の資格を持っていた主人公の適切な応急処置が炸裂!

父親は病院へ搬送されたけれど、応急処置の甲斐あって命に別状はなく、すぐに退院できるとのこと。
自分の命を救ってもらったとあっては、娘との結婚は認めざるを得ないな~、みたいな雰囲気へ。
そこへダメを押すように、主人公は自分の貯めていたお金を、長男の借金返済に充ててくれと持ち出します。
おお、そりゃ助かったと喜ぶ一同。って、もらっちゃうのかよ!
さらに、大怪我をした父親の代わりに、同僚が長男の借金を返しに東京へ行ってくれるとのこと。長男が自分で行けよとか思ったけどw
そんな暖かい炭鉱(ヤマ)の男達を見て、長男は「オレ、ここで働くよ!」と炭鉱で働く決意。
やっぱり、炭鉱(ヤマ)はいいもんだね! といったカンジで大団円。

そして、ラスト。
主人公と彼女がチューをしようとしたところで、これまた取って付けたように頭の上から雪が落ちてきます。
「こんな所でも安全を確認しないと行けないのか!」と最後の最後まで保安ネタをかぶせて終わり。

あらすじを交えながら書いているので、かなりの長文となっていますが。
この映画は23分しかありません。30分枠のドラマと同じぐらいですね。
内容的には2時間ドラマ並みなんですが。
この点について、上映前に解説があったのですが、どうやら保安に関するエピソードをアレもコレもと突っ込みすぎたようです。ぶっちゃけ、新婚さんの話とかストーリーには何の関係もないですしね。
アレもコレも突っ込みまくったせいで、最後の「ヤマはいいよね!」で片付けちゃう強引さも凄まじいです(でも、きちんと伏線は回収してる)。

そして、この「ヤマはいいよね!」の締めですが、これは当時の世情も表しているそうです。
上映時の1967年は高度経済成長期の真っ只中で(札幌オリンピックは1972年)、都会へどんどん人が流出していった時期なのだそうです(まさに彼女の兄がそうですね)。
エネルギー政策の転換などの要因もあって、炭鉱からも人が流出していったそんな時代です。
炭鉱からの人の流出に釘を刺すために、こういった演出が行われたようです。
ちなみに長男がせっかく炭鉱で働く決意をしてくれたのに、そのわずか4年後の1971年に奔別炭鉱は閉山になっています。

お話によると、産業記録映像であるにもかかわらず、こういった劇映画仕立てのものは非常に珍しいんだそうです。
我々も、こういう映画はもちろん初めて見たんですが。
役所や産業界の思惑が透けて見えて、露骨にプロパガンダしてやる気満々すぎて、むしろギャグに見えてしまうのが新鮮なおもしろさでした。
しかし昨日も書きましたが、こういった記録映像は管理が不十分で、なかなか見る機会が無い&見られなくなってきています。
いろいろしがらみがあるのは分かるんですが、こういう貴重な映像や映画は後世に残していってほしいな~、と思いました。


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