建築写真を撮影する手法として、もっとも多く使われる「ライズ(上方向のシフト)アオリ」。
これは、建築を見上げて撮影すると上すぼみになるので、それを真っ直ぐ平行に補正する手法。
本来、建築の垂直線同士は平行であり、上すぼみになっているのは歪んでいる、という考えによる補正だ。
逆に、見上げれば当然上すぼみに見える。それを平行に補正するとかえって不自然で歪んだ形になる、と考えることもできる。
すなわち、見かけのリアルに近いのは上すぼみのアオリ無し、実際の形に近いのは平行に写るライズアオリということになる。
五重塔などは見上げた時に最も美しい逓減率になるように、真横から見ると少し頭でっかちに見えるように設計されているといわれる。
この場合、建築を美しく魅せるにはアオリ無し、正確に写すにはアオリ有りという使い分けになるだろう。
ただし、超広角レンズだと上がすぼみ過ぎて見かけのリアルからかけ離れてしまうので一概にそうとは言えない。
アオリ操作による建築撮影(あるいは超広角15mmレンズのトリミングによるアオリ効果)を覚えると、
単純に構図を考えて被写体をフレームに収めれば良い、ということでは済まなくなってくる。
撮影のプロセスで考えることが多ければ多いほど愉しいし、仕上がりが思わく通りになると達成感もある。
※超広角15mmレンズのトリミングによるアオリ効果については
『Voigtländer SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III E-Mount【その1】(アオリ操作をせずにアオリ効果を得る!の巻)』
『Voigtländer SUPER WIDE-HELIAR 15mm F4.5 ASPHERICAL III E-Mount【その2】(まるでシノゴとジナーズームで撮影しているようだ!の巻)』
で説明しているのでご参照ください。
かつて、このアオリ効果は蛇腹の付いた大判カメラか、PC-NIKKORなどのシフトレンズでしか実現できなかったが、
デジタル時代になりデジタル補正という方法も使われるようになった。
かつて『Photoshopによる建築写真の修整』で少し触れたが、デジタル補正についてもっと突っ込んで検証してみようと思う。
【画像1】建築を見上げて撮影
デジタル補正の素材としてこの画像を使用した。
【画像2】カメラを水平垂直にセットして建築の垂直線が平行になるように撮影
もちろん【画像1】と同じ位置から同じレンズで撮影している。
アオリ操作はしていないので建築全体は入っていないが、この画像をデジタル補正との比較に使用した。
【画像1】のデジタル補正後【画像2】と同じ縦横比になれば正確な補正だといえる。
1.フォトショップ(Adobe Photoshop Elements 12)による補正(イメージ-変形-ゆがみ)
【図1】
a.上部を左右に広げる
【図2】
出来上がった画像
明らかに太ってしまった。
b.下部を押し狭める
【図1】、a.【図2】と同じ手順で下部を押し狭めた画像
当然ながら、明らかに痩せてしまった。
a、bの中間くらいがちょうど良い比率なのだが、それを調整するには・・・
1.a、bの処理を複合して行う
2.aの天地を伸ばす
3.bの天地を縮める
という3つの方法が考えられるが、手動では正確な比率で処理することは不可能。
フォトショップ(イメージ-変形-ゆがみ)による補正は、結局使い物にならなかった。
2.フリーソフト「ShiftN」による補正
【図3】
上を左右に広げて下は押し狭め、傾きまで補正しているのが分かる。
下が押し狭められるので、建築全景を得るためには周囲を広めにとって撮影する必要がある。
出来上がった画像
一見正しい画像が得られたように見えるが【画像2】と比べてみよう。
同じ部分を同じ大きさに切り取って並べてみた。
上【画像2】デジタル補正無し、下【画像1】をShiftNでデジタル補正処理したもの
目視では全く同じにしか見えない。優秀な自動補正だと思う。
ShiftNによる補正は使い物になるレベルのようだ。
しかし、厳密には正確かどうか分からないし、画像を大幅に改変しているのは間違いない。
使わずに済むならその方が良いと思う。
結論としては、本格的に建築写真をやるならアオリ操作が可能な機材を揃えるべきである。
もしくは、超広角15mmレンズのトリミングによるアオリ効果を使えば、アオリ操作と全く同じ効果が得られる。
この方法だと、トリミングなしで通常の15mmレンズ、トリミングするとで24mm前後のシフトレンズ、2本分に使えるので経済的だ。
ただし、トリミングすれば画素数は低下するし、スイング(ティルト)アオリは不可能という制約がある。
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