「陽子や」
一目見てすぐにわかった
何か棚の上の物を取ろうとしている
僕は、気づかれない様にそっと近づきワザと同じ物に手をのばした
手がふれた
「スミマセン」
陽子があやまり、目があった
彼女、こんなに綺麗やったっけ?!
大きな目をいっぱいに開き、口からは、あっ と声がもれた
「淳?!」
彼女の財布から小銭が転げ落ちた
2人で拾い集めるうちに彼女が笑い始め、僕もつられて笑った
お互いによく笑った、あの頃みたいに…
彼女が少し時間がある、と言うので2人で缶ビールを買い近くの公園のベンチに座った
見上げると桜が満開で気持ちがいい
何年ぶりやろう、それからと言うものせきを切ったようによくしゃべった
彼女のこと、昔の仲間のこと、僕のこと
彼女はやさしいご主人とこの町で暮らしている
保育園に通うやんちゃな男の子の母になったこと、今はとても幸せでいること
昔と変わらず彼女はよく笑った
そう、彼女は昔より今のほうが綺麗だ
少し、話が途切れた時、
「もう、子供が帰ってくる時間やわ」
彼女は僕の手の甲にそっと自分の手のひらを重ねた
しばらくじっとしていた
送って行こうか?と聞くと、ここでいい、と
僕は座ったまま、じゃあ と手を振った、連絡も聞かずに
今迄いた彼女のベンチを見ながら、もう一本缶ビールの栓をあけた
見上げた桜はとても綺麗だった