兵勢第五
兵勢は兵の勢いなり、勢とは自然の勢いにて、
このように仕掛ければ必ずこのようになると云うことなり、
例えば水なき山の頂に瀑布をこしらえようと、
筧にて平地にある水を取り、流れ下る勢いにて最前水の
ありし地より高きところへ上る、其のところより又
下りの勢いにて上るようにして、段々に勢を取れば、
水なき山頂にも至るべし、故にこの篇の内にも水の
流れる勢にて大石を流し、又丸き石を千仭の山より転がせば
とどむること出来ぬことを喩えとする。また、太原の
劉寅は猛獣将縛必伏形、鷙鳥将撃、必劍翼、将以用其勢然也と
云えり猛き獣、又は鷲鷹などが物を取ろうとする時は必ず
形をかがめ翼をすぼめるは、奮撃の勢をなさん為なりと云うこと。
兵の勢も又かくの如く、奇正の法によく鍛錬して、うつべき圖に
中りて発すれば、弱を転じて強となし、小勢以って多勢を挫くこと、
尋常の計らいに超えたり、奇正の法すなわち勢をなす所以にして
陣法の骨髄なり、故にこの篇みな奇正の理を以って兵の勢を説けり、
劉寅また、世の孫子をよく読まざるもの、其の書に陣法を説かざる
こと缼けたる所なりと云うは、この篇乃ち陣法の要旨なることを
知らず、誠に孔明が八陣の圖と合せ考えれば、千万世之上に於いて
古人の秘せし妙所ことごとく是を得べしと云えり、意を注ぐこと
なり、又上の篇を軍形篇とし、この篇を兵勢篇とする。
形は総體を以って云て、勢は発するところにあるなり、故に
荀悦は、勢者隨時進退之宜也と云い、施子美は
臨時制敵之勢也と云えり。
孫子 兵勢第五 漢籍国字開全書より
兵勢は兵の勢いなり、勢とは自然の勢いにて、
このように仕掛ければ必ずこのようになると云うことなり、
例えば水なき山の頂に瀑布をこしらえようと、
筧にて平地にある水を取り、流れ下る勢いにて最前水の
ありし地より高きところへ上る、其のところより又
下りの勢いにて上るようにして、段々に勢を取れば、
水なき山頂にも至るべし、故にこの篇の内にも水の
流れる勢にて大石を流し、又丸き石を千仭の山より転がせば
とどむること出来ぬことを喩えとする。また、太原の
劉寅は猛獣将縛必伏形、鷙鳥将撃、必劍翼、将以用其勢然也と
云えり猛き獣、又は鷲鷹などが物を取ろうとする時は必ず
形をかがめ翼をすぼめるは、奮撃の勢をなさん為なりと云うこと。
兵の勢も又かくの如く、奇正の法によく鍛錬して、うつべき圖に
中りて発すれば、弱を転じて強となし、小勢以って多勢を挫くこと、
尋常の計らいに超えたり、奇正の法すなわち勢をなす所以にして
陣法の骨髄なり、故にこの篇みな奇正の理を以って兵の勢を説けり、
劉寅また、世の孫子をよく読まざるもの、其の書に陣法を説かざる
こと缼けたる所なりと云うは、この篇乃ち陣法の要旨なることを
知らず、誠に孔明が八陣の圖と合せ考えれば、千万世之上に於いて
古人の秘せし妙所ことごとく是を得べしと云えり、意を注ぐこと
なり、又上の篇を軍形篇とし、この篇を兵勢篇とする。
形は総體を以って云て、勢は発するところにあるなり、故に
荀悦は、勢者隨時進退之宜也と云い、施子美は
臨時制敵之勢也と云えり。
孫子 兵勢第五 漢籍国字開全書より