名古屋で迎えた朝。
ホテルには夜到着したので、カーテンも閉めたままだった。
朝になって開けてみると、意外に高層だったことに改めて気づく。
気持ちのいい朝だ。
そう言えば朝食がついていたはずだ、と確認してみるとやはり最上階レストランのビュッフェがついている。
お腹もすいたので早速行きたいのだが、上下スウェットだ。
この日は実は人前で話すという人生初の「講演」をしに名古屋に来ていたので、まぁまぁちゃんとした恰好を来て外に出ることになっている。
まだかなり時間に余裕があるのでできれば朝食を食べて戻ってから着替えて出たいところだが、最上階のレストランで朝からビュッフェを楽しんでいる人々のムードも壊しそうでエチケット的にやはり疑問が残る。
ということでネクタイこそ締めなかったものの、スーツに着替えた私ひで氏、意気揚々とレストランに向かった。
予想した通りレストランはかなりちゃんとしたところで、景色は抜群、宿泊客でにぎわっていた。
スウェットの人など誰もいない。良かった…
ちなみに、ホテルの朝食バイキングのこの入れ物が好きだ。何か底知れないおもてなし感がある。
大概この手のバイキングでは和食と洋食の二つのパターンがあると思うが、あなたはどっち派だろうか。
私はこれまで、こうして選べる場面で和食を食べた経験がほとんどない。
しかしやはり年齢だろうか、今回はなぜかスッと和食の方に手が伸びたのである。
大根の煮つけや鮭の切り身など、妙に美味しそうな感じがしたのだ。
結局、遭遇する食べ物を必ず一つずつ取ってしまうというバイキングあるあるによりお皿は和のおかずで一杯になってしまった。
またお米もとても美味しそうだったのでご飯も一膳。
これまたちなみにだが大型炊飯器の蓋というのはなぜあんな無防備な閉まり方をするのだろうか。
ソフトクローズ機能のついた大型炊飯器があればとても嬉しい。言い換えると「バーーーン!」と思い切り騒音を鳴らして恥ずかしい思いをした私ひで氏。ようやく着席した。
ふと隣を見ると80歳といっても過言ではなさそうなご老人の男性が座っていた。ループタイをして、気品が全身からにじみ出ていた。
テーブルの上には、ヨーグルトのみ。それをゆっくりと食べておられる。
その姿がとても上品で素敵だった。
目の前に広がる景色を見ながらおそらく大好きなヨーグルトを噛みしめるように味わう姿に感銘を受けるとともに、
浅ましくも食べきれないほどのおかずを見境なくとってきた自分が恥ずかしくなった。
そして自分が数品を食べ終える頃、おじいさんはヨーグルトを終えてコーヒーを飲んでいた。
そしてほどなくご老人は席を立っていった。お帰りのようだ。
本当に小鳥が食べるような量で、それがまた可愛らしいな、と思っているとなんとご老人は戻ってきた。
手にはサラダとパン。
フフ…おじいちゃん、やはり多少食べたりなかったのかな…?
思わず苦笑してしまった私ひで氏が戦慄したのはここからだった。
サラダとパンをあっという間に平らげたと思うと、また席を立ち今度はトレーいっぱいに和食を積み込んできたのだ。
テーブルの上に徐々にたまっていく小皿。
そうか、あのヨーグルトとコーヒーは終わりなんかではない、前菜だったのだ。
更にものすごい勢いでそれらを平らげたかと思うと、また席を立ち今度は洋食をたんまり持ってきた。
私はこの時点でまだ半分ぐらいしか食べていないというのに。
その時、これまで光が反射して見えなかった彼のメガネのレンズの奥に目が見えた。
つまり彼の顔の角度が変わったのだ。彼は唖然とする私に気付いて私を鋭い眼光で見つめ返してきたのだ。
可愛いおじいさんなどと一瞬でも誤解した自分を呪った。
そうだ、誰かが昔言っていた。年寄りを子ども扱いするな。彼らは子供なんかじゃない。全てをくぐり抜けてきたサバイバーなのだ。
フードファイター。いや、フードサバイバー。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
この時点でもう、尋常ではない量を食べている。
無言で私を数秒見つめた後、しげおは元の方向に向き直りまた食活動を再開した。
「しげお」はイメージだ。
人を見かけで判断してはならない。今までの人生で一体何度同じようなことを経験しているのだ。
学習しない自分を恥じた。それがこの朝の後悔の一つ。もう一つの後悔は、この日に限って和食を選んだ自分だ。
なぜなら、さして理由もなく取った鯖の煮付けをしげおに睨まれてすくんでいるうちに箸から滑り落とし、
一張羅のズボンの腿に落として大きなシミを作ったからだ。
その時フードファイターしげおがまた私の方をちらっと見たような気がしたが、
しげおは私には一瞥もくれず、彼の喉仏は相変わらず忙しそうに波打っていた。
ホテルには夜到着したので、カーテンも閉めたままだった。
朝になって開けてみると、意外に高層だったことに改めて気づく。
気持ちのいい朝だ。
そう言えば朝食がついていたはずだ、と確認してみるとやはり最上階レストランのビュッフェがついている。
お腹もすいたので早速行きたいのだが、上下スウェットだ。
この日は実は人前で話すという人生初の「講演」をしに名古屋に来ていたので、まぁまぁちゃんとした恰好を来て外に出ることになっている。
まだかなり時間に余裕があるのでできれば朝食を食べて戻ってから着替えて出たいところだが、最上階のレストランで朝からビュッフェを楽しんでいる人々のムードも壊しそうでエチケット的にやはり疑問が残る。
ということでネクタイこそ締めなかったものの、スーツに着替えた私ひで氏、意気揚々とレストランに向かった。
予想した通りレストランはかなりちゃんとしたところで、景色は抜群、宿泊客でにぎわっていた。
スウェットの人など誰もいない。良かった…
ちなみに、ホテルの朝食バイキングのこの入れ物が好きだ。何か底知れないおもてなし感がある。
大概この手のバイキングでは和食と洋食の二つのパターンがあると思うが、あなたはどっち派だろうか。
私はこれまで、こうして選べる場面で和食を食べた経験がほとんどない。
しかしやはり年齢だろうか、今回はなぜかスッと和食の方に手が伸びたのである。
大根の煮つけや鮭の切り身など、妙に美味しそうな感じがしたのだ。
結局、遭遇する食べ物を必ず一つずつ取ってしまうというバイキングあるあるによりお皿は和のおかずで一杯になってしまった。
またお米もとても美味しそうだったのでご飯も一膳。
これまたちなみにだが大型炊飯器の蓋というのはなぜあんな無防備な閉まり方をするのだろうか。
ソフトクローズ機能のついた大型炊飯器があればとても嬉しい。言い換えると「バーーーン!」と思い切り騒音を鳴らして恥ずかしい思いをした私ひで氏。ようやく着席した。
ふと隣を見ると80歳といっても過言ではなさそうなご老人の男性が座っていた。ループタイをして、気品が全身からにじみ出ていた。
テーブルの上には、ヨーグルトのみ。それをゆっくりと食べておられる。
その姿がとても上品で素敵だった。
目の前に広がる景色を見ながらおそらく大好きなヨーグルトを噛みしめるように味わう姿に感銘を受けるとともに、
浅ましくも食べきれないほどのおかずを見境なくとってきた自分が恥ずかしくなった。
そして自分が数品を食べ終える頃、おじいさんはヨーグルトを終えてコーヒーを飲んでいた。
そしてほどなくご老人は席を立っていった。お帰りのようだ。
本当に小鳥が食べるような量で、それがまた可愛らしいな、と思っているとなんとご老人は戻ってきた。
手にはサラダとパン。
フフ…おじいちゃん、やはり多少食べたりなかったのかな…?
思わず苦笑してしまった私ひで氏が戦慄したのはここからだった。
サラダとパンをあっという間に平らげたと思うと、また席を立ち今度はトレーいっぱいに和食を積み込んできたのだ。
テーブルの上に徐々にたまっていく小皿。
そうか、あのヨーグルトとコーヒーは終わりなんかではない、前菜だったのだ。
更にものすごい勢いでそれらを平らげたかと思うと、また席を立ち今度は洋食をたんまり持ってきた。
私はこの時点でまだ半分ぐらいしか食べていないというのに。
その時、これまで光が反射して見えなかった彼のメガネのレンズの奥に目が見えた。
つまり彼の顔の角度が変わったのだ。彼は唖然とする私に気付いて私を鋭い眼光で見つめ返してきたのだ。
可愛いおじいさんなどと一瞬でも誤解した自分を呪った。
そうだ、誰かが昔言っていた。年寄りを子ども扱いするな。彼らは子供なんかじゃない。全てをくぐり抜けてきたサバイバーなのだ。
フードファイター。いや、フードサバイバー。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
この時点でもう、尋常ではない量を食べている。
無言で私を数秒見つめた後、しげおは元の方向に向き直りまた食活動を再開した。
「しげお」はイメージだ。
人を見かけで判断してはならない。今までの人生で一体何度同じようなことを経験しているのだ。
学習しない自分を恥じた。それがこの朝の後悔の一つ。もう一つの後悔は、この日に限って和食を選んだ自分だ。
なぜなら、さして理由もなく取った鯖の煮付けをしげおに睨まれてすくんでいるうちに箸から滑り落とし、
一張羅のズボンの腿に落として大きなシミを作ったからだ。
その時フードファイターしげおがまた私の方をちらっと見たような気がしたが、
しげおは私には一瞥もくれず、彼の喉仏は相変わらず忙しそうに波打っていた。
本当にそう思います。旅先での朝食は多くなりがち。ただ、しげおはそれにしても異常です!
今後、ホテルで朝食をとる度に思い出してしまいそうですね
さすがです
ある意味関西人魂感じるわー
初の講演前のテンションやのに余裕…素敵です
リメンバーしげお!笑
妙に語呂が良くなる不思議な力を持っているしげお!
タクミニシカワさん
どうしても心の隅に「おいしい」と思ってしまう自分がいるのでハプニングは写真におさめてしまうのです笑