昭和41年10月六小開校記念に、快晴の空の下「校庭に描かれた人文字」。
その人文字は、何と描かれていたのでしょうか。
実は「久六小」と描かれていたのです。
夢は、その時どの部分を描いたのか、今は、もう覚えていません。
ただ、快晴の空の下、写真を撮るために飛んで来た飛行機の姿を、
眩しそうに見つめていたことだけは、今も、はっきりと覚えています。
昭和41年10月六小開校記念に、快晴の空の下「校庭に描かれた人文字」。
その人文字は、何と描かれていたのでしょうか。
実は「久六小」と描かれていたのです。
夢は、その時どの部分を描いたのか、今は、もう覚えていません。
ただ、快晴の空の下、写真を撮るために飛んで来た飛行機の姿を、
眩しそうに見つめていたことだけは、今も、はっきりと覚えています。
六小が開校して四年めの昭和四十五年、夢は六年生になりました。来年の春は、
もう六小ともお別れです。
『小学校生活も、あと一年かぁ。そしたら、もう六小さんともお話できないな。まあ、
静かになっていいけど。』
夢がこんなことを思っていると、さっそく六小がやってきました。
「ゆーめちゃん、お・は・よ・う!今日も元気に、いってみよーう!」
「はーい、おはよう。あいかわらず、元気なキャピキャピぶりだね。今日は何の用?」
夢が笑いながら返事すると、六小は、
「何の用って別に何もないけど。あ、そうだ。ねえ、夢ちゃん、逆上がりできるように
なった?」
と、逆に夢に訊いてきました。
「う・ん、知ってるくせに。見てのとおり、まだ。卒業までには何とかって
思ったんだけど、このぶんじゃ、きっとだめね。あ~あ、四小さんと約束したのに
何て言おうかな。」
すると六小は、体全体をキラキラ光らせながら言いました。
「ふ~ん、ま、いいじゃない別に。夢ちゃん、一所懸命練習してるのに
できないんだもの。きっと、四小さんだってわかってくれるよ。」
「そうかなあ。」
「うん、大丈夫だって。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして・・・・翌年、桃の花咲く頃・・・・・・・・
夢は六小に言いました。
「うふ、やっぱりとうとうできなかったね。まあ、しかたない、か。」
六小が、笑って答えました。
「うふ、そうね。でも、ま、いいんじゃない?」
夢は、とうとう最後まで、逆上がりができませんでした。
そう、大人になっても・・・です。
六小と別れた夢は、門を出ると校庭沿いにある道を歩いて行きました。六小は
高台に建っています。そのため、少し行って六小の敷地から離れると、道は坂道に
なります。夢は、その坂道を道なりに下りて行きました。すると、戸久野川沿いの
道に出ます。この川沿いの道を行けば駅に着きます。夢は帰り道に、なぜここを
通ることにしたのでしょうか。夢は、自分が子どもの頃見なれていた風景が、今も
見られるのかどうか調べたいと思ったのです。夢が見慣れていた風景、それは、
当時川沿いの道からよく見えていた、大好きな六小の時計台のことです。六小の
建つ丘までの坂道の周りは、当時とちがい、今は家がたくさん建っており、その
風景はだいぶちがっています。はたして、川沿いの道から六小の時計台は
見えるのか、夢は内心、見えないだろうと半分諦めていました。しかし、夢の思いに
反して、時計台はしっかり見えています。夢は、小躍りしながら声をあげました。
「わぁー、まだ見えてる!懐かし~い、良かったぁ~!」
夢の頭のなかに、今夢がいるこの場の、当時の様子がぱあーっと浮かんでは、
走馬灯のように流れていきました。夢は、改めてあたりをながめてみました。
すると、長い年月の間に六小の周りは変わっても、今夢がいるこのあたりは、
ほとんど変わっていませんでした。きっと、それでなのでしょう。時計台が、昔と
変わらず見えたのは。遠くに見える時計台を、じっと見つめる夢の頬には、
ひとすじの涙が伝っていました。しばらくの間、時計台を見つめていた夢は、やがて
時計台に向かい大きく手を振ると、駅の方に向かってゆっくりと歩き出しました。
完
やがて夕方になり、夢はそろそろ帰ろうと思い、六小に話しかけました。
「六小さん、もう夕方だから、わたし、そろそろ帰るね。」
六小は、え、もうそんな時間、とあわてて夢に言いました。
「あ、うん。ほんとだ、もうこんな時間。夢ちゃん、今日はありがとね。また来てよ。
待ってるから。」
六小のいつもの「また来てね。」の言葉に、夢はにこっと笑って答えました。
「うん、また来るよ。そうだな、今度は、タイサン木の花が咲く六月頃かな。来ると
したら。」
六小は、ああ、そうか、と頷きました。
「うん、そうね、その頃ね。楽しみに待ってるわ。」
「じゃあ六小さん、またね。」
「うん、夢ちゃんまたね。」
六小は、六小が出せる精一杯の光を、歩き出した夢の後ろ姿に射して見送りました。
「でも、夢ちゃん、卒業して38年、いろいろなことわかってよかったね。」
「うん。懐かしいものに会うこともできたし、気になっていたこともだいたいわかったし、
新しいものも見ることができた。あとは卒業記念樹だけね。それも、六月に来れば
わかると思う。」
夢は六小の言葉に、笑顔で答えました。
「あ、それからね、去年運動会見に来た時、もう一つわかったよ。」
「え、なになに。」
六小の放つ光は、夢の言葉に輝きを増し、六小は夢の言葉に興味深深のようです。
「うふ、あのね、わたしたちより2年前の、第ニ回卒業生が卒業記念に残したテントが
まだ使われていたの。」
「へぇ~、それはすごいね。」
「でしょ?あのテントは、わたし、よく覚えているんだ。5・6年生の運動会の時、
使っていたもの。まだ使っていたんだね。なんか、うれしかった。感激しちゃったな。」
六小は、懐かしそうにテントの話をする夢を見て、夢ちゃんにとっては、ほんのテント
一つでも、わたしの所にいた時の大切な思い出なんだな、それはわたしを大切に
思っていてくれているということでもあるんだな、と思い、いつまでも自分を大切に
思ってくれている夢に、小さな声で「ありがとう。」と言ったのでした。この時、夢は
六小と向かい合っていました。しかし、六小には、夢の眼がどこか遠くを見ている
ような気がしてなりませんでした。その眼には、40年前の懐かしい小学校時代が
映っているように六小には見えました。六小はそんな夢の顔を、いつまでも
そっと見ていました。