風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(番外編) 其の弐

2016-01-23 16:57:26 | 大人の童話

昭和41年10月六小開校記念に、快晴の空の下「校庭に描かれた人文字」。

その人文字は、何と描かれていたのでしょうか。

実は「久六小」と描かれていたのです。

夢は、その時どの部分を描いたのか、今は、もう覚えていません。

ただ、快晴の空の下、写真を撮るために飛んで来た飛行機の姿を、

眩しそうに見つめていたことだけは、今も、はっきりと覚えています。


風の向こうに(番外編) 其の壱

2010-06-04 15:36:44 | 大人の童話

六小が開校して四年めの昭和四十五年、夢は六年生になりました。来年の春は、

もう六小ともお別れです。

『小学校生活も、あと一年かぁ。そしたら、もう六小さんともお話できないな。まあ、

静かになっていいけど。』

夢がこんなことを思っていると、さっそく六小がやってきました。

「ゆーめちゃん、お・は・よ・う!今日も元気に、いってみよーう!」

「はーい、おはよう。あいかわらず、元気なキャピキャピぶりだね。今日は何の用?」

夢が笑いながら返事すると、六小は、

「何の用って別に何もないけど。あ、そうだ。ねえ、夢ちゃん、逆上がりできるように

なった?」

と、逆に夢に訊いてきました。

「う・ん、知ってるくせに。見てのとおり、まだ。卒業までには何とかって

思ったんだけど、このぶんじゃ、きっとだめね。あ~あ、四小さんと約束したのに

何て言おうかな。」

すると六小は、体全体をキラキラ光らせながら言いました。

「ふ~ん、ま、いいじゃない別に。夢ちゃん、一所懸命練習してるのに

できないんだもの。きっと、四小さんだってわかってくれるよ。」

「そうかなあ。」

「うん、大丈夫だって。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして・・・・翌年、桃の花咲く頃・・・・・・・・

夢は六小に言いました。

「うふ、やっぱりとうとうできなかったね。まあ、しかたない、か。」

六小が、笑って答えました。

「うふ、そうね。でも、ま、いいんじゃない?」

夢は、とうとう最後まで、逆上がりができませんでした。

そう、大人になっても・・・です。


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾五

2010-05-26 23:35:24 | 大人の童話

六小と別れた夢は、門を出ると校庭沿いにある道を歩いて行きました。六小は

高台に建っています。そのため、少し行って六小の敷地から離れると、道は坂道に

なります。夢は、その坂道を道なりに下りて行きました。すると、戸久野川沿いの

道に出ます。この川沿いの道を行けば駅に着きます。夢は帰り道に、なぜここを

通ることにしたのでしょうか。夢は、自分が子どもの頃見なれていた風景が、今も

見られるのかどうか調べたいと思ったのです。夢が見慣れていた風景、それは、

当時川沿いの道からよく見えていた、大好きな六小の時計台のことです。六小の

建つ丘までの坂道の周りは、当時とちがい、今は家がたくさん建っており、その

風景はだいぶちがっています。はたして、川沿いの道から六小の時計台は

見えるのか、夢は内心、見えないだろうと半分諦めていました。しかし、夢の思いに

反して、時計台はしっかり見えています。夢は、小躍りしながら声をあげました。

「わぁー、まだ見えてる!懐かし~い、良かったぁ~!」

夢の頭のなかに、今夢がいるこの場の、当時の様子がぱあーっと浮かんでは、

走馬灯のように流れていきました。夢は、改めてあたりをながめてみました。

すると、長い年月の間に六小の周りは変わっても、今夢がいるこのあたりは、

ほとんど変わっていませんでした。きっと、それでなのでしょう。時計台が、昔と

変わらず見えたのは。遠くに見える時計台を、じっと見つめる夢の頬には、

ひとすじの涙が伝っていました。しばらくの間、時計台を見つめていた夢は、やがて

時計台に向かい大きく手を振ると、駅の方に向かってゆっくりと歩き出しました。

                                               完   


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾四

2010-05-25 15:15:56 | 大人の童話

やがて夕方になり、夢はそろそろ帰ろうと思い、六小に話しかけました。

「六小さん、もう夕方だから、わたし、そろそろ帰るね。」

六小は、え、もうそんな時間、とあわてて夢に言いました。

「あ、うん。ほんとだ、もうこんな時間。夢ちゃん、今日はありがとね。また来てよ。

待ってるから。」

六小のいつもの「また来てね。」の言葉に、夢はにこっと笑って答えました。

「うん、また来るよ。そうだな、今度は、タイサン木の花が咲く六月頃かな。来ると

したら。」

六小は、ああ、そうか、と頷きました。

「うん、そうね、その頃ね。楽しみに待ってるわ。」

「じゃあ六小さん、またね。」

「うん、夢ちゃんまたね。」

六小は、六小が出せる精一杯の光を、歩き出した夢の後ろ姿に射して見送りました。

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾参

2010-05-23 21:11:40 | 大人の童話

「でも、夢ちゃん、卒業して38年、いろいろなことわかってよかったね。」

「うん。懐かしいものに会うこともできたし、気になっていたこともだいたいわかったし、

新しいものも見ることができた。あとは卒業記念樹だけね。それも、六月に来れば

わかると思う。」

夢は六小の言葉に、笑顔で答えました。

「あ、それからね、去年運動会見に来た時、もう一つわかったよ。」

「え、なになに。」

六小の放つ光は、夢の言葉に輝きを増し、六小は夢の言葉に興味深深のようです。

「うふ、あのね、わたしたちより2年前の、第ニ回卒業生が卒業記念に残したテントが

まだ使われていたの。」

「へぇ~、それはすごいね。」

「でしょ?あのテントは、わたし、よく覚えているんだ。5・6年生の運動会の時、

使っていたもの。まだ使っていたんだね。なんか、うれしかった。感激しちゃったな。」

六小は、懐かしそうにテントの話をする夢を見て、夢ちゃんにとっては、ほんのテント

一つでも、わたしの所にいた時の大切な思い出なんだな、それはわたしを大切に

思っていてくれているということでもあるんだな、と思い、いつまでも自分を大切に

思ってくれている夢に、小さな声で「ありがとう。」と言ったのでした。この時、夢は

六小と向かい合っていました。しかし、六小には、夢の眼がどこか遠くを見ている

ような気がしてなりませんでした。その眼には、40年前の懐かしい小学校時代が

映っているように六小には見えました。六小はそんな夢の顔を、いつまでも

そっと見ていました。