それから四小は、もう毎日が楽しくてしかたありません。自分が生まれてはじめて
心通わせられた子、四小はその子と、毎日のように話をして過ごしていました。ええ、
それはもう、楽しそうに。二小は、時々四小を訪ねて来ていましたが、そのたびに、
四小から「その子とこの間は何をした、昨日は何をした。」と話を聞かされていました。
それから四小は、もう毎日が楽しくてしかたありません。自分が生まれてはじめて
心通わせられた子、四小はその子と、毎日のように話をして過ごしていました。ええ、
それはもう、楽しそうに。二小は、時々四小を訪ねて来ていましたが、そのたびに、
四小から「その子とこの間は何をした、昨日は何をした。」と話を聞かされていました。
ある日、四小の所に訊ねてきた二小は、楽しそうにしている四小の様子を見て
四小に訊ねました。
「どうしたの。何かいいことでもあったの。そんなに楽しそうにして。」
「うん、あのね。」
と、四小は、自分に気づいてくれた子のことを二小に話しました。二小は四小の話を
聞くと驚いて、信じられない、という様子で言いました。
「まあ!そうなの。人としては稀有な子だわ。そんな子もいるのねえ。」
そして、感慨深げにほっと息をはきました。
「でしょ?わたし、あきらめずに、子どもたちに声かけ続けてきてよかったわ。」
四小はそう言うと、何か思うことがあるのか、あとは黙って遠くを見つめていました。
二小は、そんな四小の横顔を見ながら、
『その子とずっと心通わせられますように。』
と願わずにはいられませんでした。
四小は、もう、うれしくてたまりません。さっそく、その子に語りかけてみました。すると
その子は、最初こそ驚いた顔をしたものの、すぐ慣れて反対に、
「あなたは、だあれ?」
と、四小に訊いてきました。四小は、もう、うれしくてうれしくて、自分のことをペラペラと
かいつまんで話しました。その子は黙って聞いていましたが、最後に、
「ふ~ん、そうなの。じゃあ、これからいっぱいお話できるね。」
と、うれしそうに言って、入学式の行われる教室へ入っていきました。四小は、
うれしくてしかたありませんでした。顔に満面の笑みをうかべて、喜びを表して
いました。
その後も四小は、毎日毎日子どもたちに声をかけていました。でも、あいかわらず
誰も気づいてくれません。そうこうしているうちに、また一年が過ぎ、季節は
昭和四十年の春になっていました。四小は思いました。
『ああ、今年もたくさんの子が来てくれたのね。この中に、一人でもわたしに気づいて
くれる子がいるといいんだけど。今年もだめかしらね。』
入学式の日、四小は、なにげなく子どもたちを見ていましたが、ふっと声をかけて
みようと思い、新入生たちに語りかけてみました。すると、どうでしょう。一人の子が
四小の声に反応したのです。いいえ、正確にはその前、四小が語りかける時に
放つ光に、すでに反応していたのです。四小は、飛びあがらんばかりに驚きました。
無理もありません。だって、声をかける前からもう、精霊に反応する子なんて
いないといっていいくらいなのですから。
すると四小は、
「だって、気づいてくれたらうれしいじゃない。お話できるもの。そうでしょ、姉さん。」
と、にこっと笑って答えました。
「ええ、まあ、そうだけど。でも、人は、そう簡単に気づいてはくれないわよ。」
二小は、そんなことは、まあ、千に一つもないだろう、と考えながら言いました。
それでも四小は、
「うん、でも、根気よく続けていれば、いつかは気づいてくれる子が一人ぐらいは
いるんじゃないかしら。そう思ってるの、わたし。」
と、ちょっと小首をかしげて言いきる のでした。
「それで、毎日そんなに一所懸命なのね。」
「うん。」
「そう、誰か、あなたのことを気づいてくれるといいわね。」
「きっと、いつか気づいてくれるわ。わたし、そう信じてる。」
「そうね。」
二小は、四小ににこっと笑いかけると、
『四小の思いが、いつかかなうといいけど。』
と思いながら、自分のところへ帰って行きました。