風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第一部) 其の拾壱

2010-01-31 13:31:29 | 大人の童話

夢は学校が好きでした。毎日、学校に来るのが楽しみでしようがありません。

勉強するのも、友だちと遊ぶのも好きでしたが、やはり何といっても、一番の

楽しみは四小に会えることでした。

授業の合い間の休み時間は、たったの十分ですが、夢は他の子たちに混じって

きまって外に出ていきました。靴をはきかえ、校庭に散っていきます。

夢はまっしぐらに鉄棒に向かって走っていきました。そう、さか上がりの練習に

いったのです。何回も一所懸命練習しましたがうまくいきません。そのうち厭きて

うんていにいきました。鉄棒は苦手の夢ですが、うんていは得意です。

端から端まで、落ちずに渡りきることができます。今日もいつものように遊んで

いました。もう少しで渡りきれるというその時です。急に四小の声がして

びっくりした夢は、うんていから落ちてしまいました。

「いったあい。急に声かけないでよ。」

夢はふくれっつらをして言いました。もう少しで渡れるという所で落ちたので

悔しかったのです。

 


風の向こうに(第一部) 其の拾

2010-01-30 22:09:06 | 大人の童話

ある日の体育の授業のこと、先生が、

「今日は、鉄棒でさか上がりをやります。」

と言いました。夢は、さか上がりができません。

「え~っ、やだなぁ」

と、不安になりました。すると、校庭の向こうに見える校舎が光り始めました。

”あっ”

と思い、光の方を見ると、まもなく声が聞こえてきました。

「大丈夫よ、できなくたって。夢ちゃんは、まだ一年生でしょ。これから練習して

できるようになればいいわ。」

夢の想いを汲み取ったかのような四小の声でした。

「本当?まだ、できなくてもいい?」

「ええ。」

「よかった。じゃあ、これからいっぱい練習して、できるようにするね。」

「そうね。がんばって。」

「うん。ありがとう、四小さん。」

夢が笑顔で四小にお礼を言うと、光は安心したようにスーッと消えていきました。


風の向こうに(第一部) 其の九  

2010-01-29 21:31:40 | 大人の童話

それから毎日、夢は勉強に遊びに楽しい学校生活を送っていました。

でも、困ってしまうことが時々あります。それは、授業中に四小のことを思って、

校庭を見ながらついボーッとしてしまうことです。この間もボーッと校庭の方を

見ていて、先生に注意されてしまいました。三日に一度は注意されているような

感じです。休み時間、夢は四小に会ってそのことを話しました。すると四小は、

「見ていたわ。」

と、軽く言って笑ったのです。

「なんだ、知ってたの。」

夢は、ちょっとムッとしました。なぜって、始めて会った時、いつも見ているなんて

四小は言わなかったし、四小を思いボーッとして注意された自分が

ちょっぴりはずかしかったからです。

 

 


風の向こうに(第一部) 其の八

2010-01-28 21:38:25 | 大人の童話

周りでは、大勢の子どもたちが、四小のことなど知らぬげに、ワーワー言いながら

遊んでいます。夢は不思議に思いました。

”こんなにたくさんの子がいるのに、四小さんとお話しているのはわたしだけ?

みんな、何で四小さんに気づかないのかなあ。みんな、四小さんとお話できたら

楽しいのに。”

すると、四小の声が聞こえました。

「夢ちゃん夢ちゃん、何してるの。もう、始業のチャイム鳴ったわよ。」

夢がぼーっとしているので、心配になって声をかけたのです。

四小の声に、はっと我にかえった夢は、

「わぁ、大変。ほんとだ、もう誰もいなくなっちゃった。四小さん、またねー。」

そう言って四小に手を振りながら、急いで教室の方へ走っていきました。

四小はそんな夢の様子を見て、

”うふふ、これから楽しくなりそうね。”

と、つぶやきました。そして、うれしそうに体をブルッと震わせ、一瞬大きく光って

消えていきました。

 

 

 

 


風の向こうに(第一部) 其の七

2010-01-27 21:30:13 | 大人の童話

次の日、夢は登校するとランドセルを教室に置くのもそこそこに、外に

飛び出していきました。そして校庭のまんなかに立って、教えられた通り

四小に語りかけてみました。するとどうでしょう。校舎から一瞬にして

パァーッと光が放たれ、昨日と同じように静かな優しい声が響いてきたのです。

「おはよう、夢ちゃん。さっそく会いにきてくれたのね。」

「おはよう、四小さん。ご機嫌いかが。」

夢はうれしくて、ちゃめっけたっぷりにあいさつしました。