風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾弐

2010-05-22 23:54:45 | 大人の童話

五月、夢は六小と話がしたくなり会いに行きました。夢が着くと、六小はすぐ夢に

気づき話しかけてきました。

「わぁ、夢ちゃん、来てくれたの。うれしい、フフッ。」

六小は、夢が最近よく来てくれるので、うれしくてしかたないのです。にこにこして、

夢を迎えました。

「ほんと?ほんとに、そう思ってる?」

夢は、ほんとかなぁ、と思いながら六小に訊いてみました。

「うん。だって、夢ちゃんが来ると話ができるもの。あれから、もう、ずぅーっと

わたしと話できる子いなくて、わたし、つまんなかったんだもの。」

六小は、ふーっとため息をついて、ちょっと淋しそうに言いました。

「ふ~ん、そうなんだ。でもわたし、どうして今でも六小さんと、四小さんともだけど

お話できるんだろうね。中学生になった時、四小さんに、これからは、もうわたしと

話すこともなくなるでしょう、って言われたのに。その通り、中学の三年間は

四小さんと話すこともなかったのに、ね。」

夢は、不思議だなぁ、という感じで、六小に言いました。六小はにこっと笑って、

「それはね、夢ちゃんが、まだ子どもの頃、わたしたちと心通わしたあの頃のままの

純粋な心を持っているからよ。だから四小さん、夢ちゃんが来た時、自分の方から

声かけたの。わたしも、そう。夢ちゃんが来た時、すぐわかった。ああ、ゆめちゃん、

まだあの頃の、子どもの頃のままだなって。あ、誤解しないでよ。子どもの頃の

ままっていうのは、夢ちゃんの純粋な心のことだからね。だから、わたしうれしくて、

昔みたいに声かけたの。」

と、体全体をキラキラ光らせながら言いました。

「そうなの?」

「うん。」

夢は、六小に子どもの頃のままの心を持ってる、と言われてうれしそうに言いました。

「ふ~ん、そうなんだ。これからもずっと、その心を持っていられたらいいな。」

「大丈夫だよ。夢ちゃんなら、この先もずっと、子どもの頃の純粋な心を持って

いられるよ。」

「そう?」

「うん。だって、今まで持ってこれたんだもの。わたしが保証する。」

六小は、光の輝きを強くして夢に言いました。

「え~、六小さんに保証されてもなあ。」

「またぁ、夢ちゃんたらぁ。」

「ウフフフ・・・・・」

夢は、笑いながら心のなかで、六小にお礼を言っていました。

「ありがとう、六小さん。」

と。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾壱

2010-05-20 14:45:16 | 大人の童話

夢は、記念樹から少し離れた所で、もう一度、木を眺めました。青い空に向かって

高く伸びるケヤキの木、その姿はもう、あの細くて弱弱しい感じの木ではありません。

大地に深くどっしりと根をおろし、太くどうどうとしています。そう、六小の校歌に

あるように、ケヤキの若い芽は伸びる命となって、今現在まで力いっぱい、しっかりと

今日を歩いてきたのです。六小の校歌を口ずさみながら、夢は涙ぐんでいました。

そして思ったのです。六小には、これからも元気でいてほしい、と。これは、多くの

学校が閉校となり、精霊が姿を消していくなか、せめてもの夢の願いです。

また、夢がいた時には、樹の横にきちっと『市制施行記念樹』と書かれた立て札が

立っていたのですが、残念なことに40年経った現在では立て札が立っていません。

これでは、何かの時にせっかくの樹が切られてしまうのでは、と夢は心配に

なりました。六小は、そんな夢の心配をよそに、相変わらず楽天家です。

夢の心配を聞いても、

「え~、別にぃ~、いいんじゃない。大丈夫だって。」

なんて言っています。

「大丈夫じゃないよ。」

「大丈夫だって。」

「じゃない・・・。」

そんなやりとりを何回か繰り返したあと、

「ん、もう六小さんは。本っ当に呑気なんだから!」

夢がムッとして言うと、六小は

「いいじゃない、切られたら切られたで。しかたないよ。」

と、さらっと言ってのけます。六小は、ホント呑気です。

「しかたないって、ねえ、六小さん!」

夢は、六小のあまりの呑気さにあきれてしまいました。

「だって、心配したってしかたないもの。わたしが、どうこうできるわけじゃないから。」

どうやら、これが六小の本音のようです。夢は、もう、しようがないなあ、と思いながら

六小に言いました。

「わかったわよ。じゃあ、今日はもう帰るから。」

「もう?わかった。じゃあ、またね。」

「うん。」

そう言って夢は歩き出しました。六小は夢のため、夕方で暗くなりかけた道を、自分が

放つ光でいっぱいにして夢を見送りました。

 

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の参拾

2010-05-19 01:39:45 | 大人の童話

平成二十二年四月、夢は、記念樹を植えた役所なら、樹の名前もわかるだろうと

思い、戸久野市役所へ行きました。何ヶ所かの課をまわって、やっとちょうど役所に

来ていた造園業の人に、当時の記念樹の写真を見てもらいケヤキだと

わかりました。夢は、『ああ、やっぱり。じゃあ、あれでいいんだ。』と一人頷くと、

その人にお礼を言って役所を後にし、その足で六小にむかいました。六小に着くと、

夢は改めて「ケヤキ」を見上げました。すると、夢に気づいた六小が声をかけて

きました。

「あ、夢ちゃん、また来たの?」

夢が、六小の言葉にちょっとムッとしたように、

「何よ、来ちゃいけないの?前は来て来てって言ってたくせに。」

というと、六小は

「もう、夢ちゃんたら、すぐそうなんだから。わたしは、夢ちゃんが来てくれて

うれしいの!」

と言って、ふふっと小さく笑い、

「今日は何?」

と、興味深げに訊いてきました。

「あ、うん、『市制施行記念樹』がどれかわかったの。思ったとおり、この

ケヤキだったよ。大きくなったねぇ~。あの頃は、こんなかわいい若木だったのに。」

夢は、両手の平で○を作って、当時のケヤキの幹の太さを表し、その何十倍も

大きく育った今の木を、じっと感慨深げに見つめていました。六小は、そんな夢を

不思議そうに眺めていましたが、やがて、納得したように頷きました。そうです。

夢が見た当時の木は、幹の直径約十センチ、木の高さ五・六メートル、それが、

今では、幹の直径約四十センチ、木の高さは数十メートルになっています。

夢にとって、まさにそれは、夢が六小を巣立ってからの、年月の長さを表す

ものだったのです。しばらくケヤキを眺めていた夢は、そっとその場をはなれ、

「ほんと、大きくなったねぇ。もう、40年・・か、この木が植えられてから。そうか、

そんなになるんだ。」

と、そんなに時が経ったのが信じられない、というように何度も呟いていました。夢の

呟きは、六小にも届いていました。六小は夢の呟きを聞きながら、

『今まで、あまり気にもとめなかった木だけど、そういえばこれだったんだ、記念樹。』

と、夢と同じようにちょっと感慨深げになって、自分にせまぐらいの高さになった

ケヤキの木を眺めました。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾九

2010-05-15 22:32:36 | 大人の童話

競技の合間、夢は校庭の端に植わっている樹々を見て歩いていました。夢に

とっては思い出のあるもう一本の記念樹、戸久野町が戸久野市になった時、その

記念として六小に植えられた『市制施行記念樹』を探しているのです。町が市に

なったのは、ちょうど夢が六年生の時でした。それで、その樹が植えられた時の

ことはよく覚えています。役所の人が何人か来て、校門のすぐ脇(校舎のある側)に

樹を植えていました。そして、植えた樹の横には『市制施行記念樹 戸久野市』と

書かれた立て札が立てられましたが、樹の名前は夢にはわかりませんでした。今、

その場所を見ると、そこには大きな「ケヤキ」の樹が立っています。しかし、当時は

あった立て札がありません。なので、夢にはこの「ケヤキ」が、あの

『市制記念樹』なのかはっきりわかりませんでした。ただ、卒業アルバムに

載っている『記念樹』の写真が「けやき」みたいなので、『これがそうかな。』とは

思いました。夢は、とりあえずめぼしだけつけて競技を見にもどりました。そんな夢を

見て、六小が言いました。

「夢ちゃん、何してたの?」

夢は、六小を見上げて答えました。

「あ、うん、あのね、6年の時に市が植えた『市制記念樹』を探してたの。」

「ふ~ん。で、見つかったの?」

「うん、たぶんこれだろう、というのはあったよ。」

夢は、「でも、まだ確定はできないの。」と言って、六小といっしょにまた競技を見て

いました。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾八

2010-05-14 02:48:45 | 大人の童話

体育館を出ると、夢は隣りにあるプールの脇に立ちました。此処で、午後の部を

見るつもりなのです。夢の在学中、此処にはブランコと砂場がありました。夢は、

あまりブランコでは遊びませんでしたが、ブランコは当時、子どもたちに人気が

あった遊具の一つでした。此処からは、校舎を真正面に見ることができます。夢は、

じっと六小を見つめていました。すると、あまりじっと見つめられて気になったのか、

六小が声をかけてきました。

「夢ちゃん、なに、わたしのことじっと見てるのよ。はずかしいじゃない。わたしより

子どもたちを見てよ。運動会を見に来てくれたんでしょ。」

「え、ああ、うん、ごめん。」

夢は、いろいろ見ているうちに、昔のことを思い出していつのまにか、六小をじっと

見てしまったことを話しました。それを聞いた六小は、

「フフッ、夢ちゃんたら昔から変わらないね。何かを、じぃーっと長い時間見つめる

のは。わたしを見つめてくれるのはうれしいけど、子どもたちのことも、ちゃんと見て

あげてね。みんな、一所懸命やってるから。昔、夢ちゃんたちが一所懸命やってた

ように。」

と、見つめられるのははずかしいと、少し照れながら言いました。

「うん、もちろん。みんな、一所懸命だね。フフッ、かわいい~。」

「そうでしょ。」

夢は、自分が小学生の時、運動会が楽しくてしかたなかったことを思い出し、

遠い日を見るように懐かしそうに子どもたちを見ていました。