風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾七

2010-05-11 21:30:58 | 大人の童話

昼休み、夢は周りを見回しながら、グルッと校庭を一回りしてみました。夢の

卒業したあとに行なった校舎増築や体育館建設・校庭拡張等で、その様子は

だいぶ違っていますが、夢は懐かしい思いで校庭を廻っていました。卒業するまで

とうとうできなかった逆上がり(鉄棒)・てっぺんまで上れなくて六小にからかわれた

はんとう棒・25メートル泳げなくて六小に励まされたプール、長い年月の間に

場所が変わったものもありますが、皆、此処にあります。皆で上って遊んだ小山の

あった場所には、体育館が建っています。校庭を一巡りすると、夢は体育館に

入りました。始めて入る母校の体育館、夢の胸は感激でいっぱいでした。その訳は、

実は小学生の頃、夢は創立の古い学校にあった体育館にあこがれていたのです。

しかし、新しく開校した六小では、卒業までとうとう、見ることも入ることも

できませんでした。その体育館に、やっと入ることができるのです。夢は体育館の

入口に立つと、まず周りを見渡し、次に、中をのぞきました。そして、思ったのです。

『ああ、やっと自分の小学校の体育館に入れる。小学生の時、思ってたなぁ、

学校に体育館があったらなぁって。ほんと、あこがれてたもんね。うれしい!今日

入れて。』

中に入ると夢は、まっ先に舞台の前にいきました。そして、カーテンの上部まん中に

縫いとられている[校章]を、さらに、舞台左側の壁に掲げられている[校歌]の

歌詞を感慨深げに眺めていました。すると、六小の声が聞こえてきました。

「夢ちゃん、何、感慨に浸ってるのー?」

そう、あの時、夢が6年の時、六小の時計台を見ていた時と同じようにです。

「何よ、じゃましないでよね。体育館に入れて感激してるんだから。」

「ふ~ん、そういえば夢ちゃんあの頃、体育館があれば、ってしきりに言って

いたもんね。」

「そうよ。体育館はあこがれだったんだから。わたしだけじゃなく、あの頃の

みんなのね。」

「ふ~ん。それはわかったけど、早くこないと運動会午後の部始まっちゃうよ。」

「えー、それを早く言ってよ。」

夢は、六小のせかす声に、それはたいへんと、急いで体育館を出ていきました。

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾六

2010-05-08 23:03:00 | 大人の童話

十月、夢は今時の運動会を見てみたいと思い、また六小を訪ねました。着いて

六小を見ましたが、六小は、子どもたちの競技を見るのに夢中で、夢が来たことに

全く気づいていません。夢は、六小に声をかけようとしましたが止めました。そして、

黙って六小といっしょに、子どもたちの競技を見ていました。少しして、夢に

気づいたのか、突然六小が大きな声をあげました。

「あれぇ、夢ちゃん、来てたの。全然気づかなかった。声かけてくれれば

よかったのに。」

六小は、夢に会えた喜びを表すようにチカッチカッと光っています。

「うん、そうしようと思ったんだけど、六小さんがあんまり夢中になって競技を

見ているから、悪いと思って声かけなかったの。」

夢が答えると、六小は、

「ふーん、そう。気つかわなくてもよかったのに。今日はゆっくりしていけるの?

ゆっくりできるんだったら、最後まで運動会見てってよ。ね!」

と、絶対最後まで見てって、と言わんばかりに夢に言いました。

「今日は、そのつもりで来たからいいよ。」

夢が言うと、六小は、

「わぁ、よかった。」

と言い、そして、うれしそうに何回もチカッチカッと光を放つのでした。


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾五

2010-05-07 22:06:17 | 大人の童話

「それにしても六小さん、貫禄ついたねえ。」

夢が六小を仰ぎ見ながら言うと、

「ホント?」

と、六小がうれしそうに言います。

「うん、すごく貫禄ついた。」

夢はそう言って、まじまじと六小を見つめました。

「えへ、そうかな。」

 六小は照れていました。

「さすが、43年も経つとちがうね。歴史感じちゃった。六小さん、これからも、百年

めざしてがんばれ!フレー、フレー!」

「ウフフ、そーお?ありがと。でも、とりあえずは50年をめざす。」

そう、六小はあと7年で創立五十年を迎えます。夢は、ふっとため息をついて

言いました。

「50年って言ったら、六小さんも、開校して半世紀を迎えることになるんだなぁー、

ハァ~。」

「何?ため息なんかついちゃって。」

六小が怪訝そうに訊きます。

「うん、あのね、すごいなーって思って。」

六小は、ますます怪訝そうに、

「そーお?」

と訊きました。夢は、「そうよ、すごいのよ。」という感じで、

「うん。だって、わたしが六小さんの所にいた時は六小さん、まだ、できたての

ほやほやだったんだもの。それが、今や開校して43年。」

と、もう一回ため息をついて言いました。

「夢ちゃんも、歳とるわけだよね。」

「まっ、失礼ね。」

「本当のことじゃない。」

「まあ、そうだけど。」

「ウフフ。」

「でもさあ、六小さんの所にいた時って、ついこの間のことのように

思えるんだよねえ。それが、43年経ってるなんてなぁ。」

夢が、ふーっと長く息をついて言うと、六小も、

「うん、そうだね。わたしもそう思う。」

と、ふーっとため息をついて言いました。

「いつのまにか43年・・・・・早いねえー。」

「うん、」

ふたりは並んで、遠くを見るように、校庭の向こうに見える、林の保存のために

市が指定した保存林を、いつまでも眺めていました。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾四

2010-05-06 23:16:10 | 大人の童話

「夢ちゃん、確認したいことってなぁーに?」

六小は好奇心いっぱいのようで、体全体を、もうこれ以上ないというくらい

キラキラさせています。夢は、そんな六小の光をあびて、

「う・・ん、わたしたち(といっても、たぶん3組)が卒業記念に植えたっていう樹が

あるかなって。」

と、まぶしそうに眼を細めて答えました。

「ふ~ん、わかった。じゃあ、待ってる。でも、なるべく早くしてよ。前みたいに長いと、

やだからね。」

「うん、わかってる。今日は早くするよ。」

そう言いながら夢は、そこから何かをつかみ取ろうとでもするかのように、眼の前に

ある樹をしげしげと眺めていました。そのまま、二十分ぐらい眺めていたでしょうか。

が、結局、その樹が、記念樹の「タイサン木」なのかどうかはわかりませんでした。

花が咲けばわかるのですが、あいにく、夢が行った時は、花が咲く時期では

なかったのです。しかたないので、夢は、たぶんこれだろう、というめぼしだけ

つけて、花の咲く時期にまた来ることにしました。そして、六小の方をむくと、

「だいたい見当ついたから、今日はこれくらいにしとく。さ、六小さん、お待たせ。

もういいからいっぱいお話しよう。」

と、笑顔で言いました。

「え、もういいの、夢ちゃん。」

六小は、自分が思っていたよりも早く、夢が「いいよ。」と言ったので、ちょっと

びっくりして反対に夢に聞き返しました。夢は、

「うん、いいよ。」

ともう一度言い、にこっと微笑みました。六小はそれに対して、

「うん、それじゃあ。」

とうれしそうに、ひときわ大きく光って答えるのでした。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾参

2010-05-05 21:32:49 | 大人の童話

夢の姿を見た六小は、早速大きな光を放ち喜びを爆発させ、相変わらずの調子で

夢を迎えました。

「夢ちゃん、夢ちゃん!うぇ~ん、会いたかったよぉ~。」

「何、六小さんたら。一昨年会ったでしょ。」

夢は、『もう、六小さんたら。ほんとに、変わらないなぁ。にぎやかなんだから。ま、

でも、そこが六小さんのいいとこかな。』などと思いながら、にこっと笑って言いました。

「だって・・・・」

六小は口ごもっていましたが、突然

「夢ちゃん、今日はゆっくりお話できるよね。」

と、前はゆっくり話せなかったから今度こそゆっくり話すんだから、という感じで

夢に念を押すように言ってきました。夢は、う~ん、そうねえ、という感じで

「う・ん、たぶん大丈夫。」

と答えました。そして、

「でも、お話する前に少しだけ待っててくれる?ちょっと確認したいことがあるの。」

と言って、校門を入って左側に植わっている樹の所に行きました。六小はそんな

夢を、何だろ、という感じで見ていましたが、気になってしかたないので、おもいきって

夢に訊いてみました。