風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾壱

2010-05-03 23:22:21 | 大人の童話

夢がうれしそうに言うのを聞いて六小も言いました。

「へぇー、そうなんだ。わかったんだ。よかったね、夢ちゃん。」

「うん。」

六小は、夢が6年の時、自分のチャイムをほめてくれたのを思い出し、夢に

言いました。

「夢ちゃん、昔、わたしのチャイムのことを、いいってほめてくれたよね。」

「うん。」

「わたし、自分では、いいかどうかよくわからなかったんだけど、夢ちゃんにほめて

もらえてすごくうれしかった。そのことだけはよく覚えてる。」

夢がにこっと笑って、

「うん、あの時の六小さんたら、ふーん、ふーんとしか言わなくて、わたし、

おかしかった。」

と言うと、六小は、

「うん、だってわからなかったんだもの。でも、ほんとよかった。夢ちゃんの長い間の

疑問がわかって。」

と、自分の疑問が解決したかのように喜んで言いました。

「うん、ありがとう。」

「今日は、もう遅くなっちゃったね。」

六小が言うと、

「そうね。ごめんね、六小さん。あまり、お話できなかったね。」

と、夢は、資料を見るのに夢中になって、六小と話せなかったことを謝りました。

「う・ん、まあ、いいよ、今日は。そのかわり、また来てくれる?夢ちゃん。」

「うん、もちろん。」

「その時は、いっぱいお話しようね。」

「うん。」

夢と六小は、それからしばらく、お互いに見つめあっていました。やがて、夢は

「またね。」というように視線をそらし、長年の疑問がとけた思いからか、晴れ晴れと

した表情で六小から離れていきました。六小は、夢のその姿にひときわ大きな光を

放って見送りながら、「また来てね。絶対・・・来てね。」と、小さく呟いていました。

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の弐拾

2010-05-03 15:35:25 | 大人の童話

夢が、長年の疑問が解けて一人感激に浸っていると、またまた六小の大きな声が

響きました。

「ちょっと、夢ちゃん!今行くって言ったくせに、どうしちゃったのよ。もう夕方だよ。

わたしと話す時間、なくなっちゃったじゃないのよ。ん、もう!」

六小は、資料室に入ってから全然自分を相手にしてくれない夢に、とうとう完全に

怒ってしまったようです。夢は、

「ごめん、ごめん。」

と謝りながら資料室から出てくると六小に言いました。

「懐かしくて、つい夢中になっちゃった。でも、おかげでいいものを見つけたよ。」

「何?いいものって。」

六小は、夢の「いいもの」と言う言葉に強く興味を持ったようで、体全体に光を

あふれさせ、キラキラしながら訊いてきました。

「うん、あのね、六小さんのチャイムの疑問が解けたの。」

「えっ、チャイムの疑問って、あの時、夢ちゃんがいいって言ってくれたわたしの

チャイムの。」

夢の言葉を聞いて、六小は驚いたようですが、とてもうれしそうでした。光をさらに

大きくして体全体を包み込み、キラキラとまぶしいほどに光っています。夢もそんな

六小の姿を見てうれしくなりました。

「うん、あの時は何のメロディーかわからなくて、今までずっと気になってたんだけど、

わかってよかったわ。今日、六小さんに会いに来てよかった。」