第92回全国高校野球選手権大会
興南の春夏連覇という偉業で幕を閉じたこの大会も、
実にいろいろな出来事がありました。
そして、
名勝負の数々が繰り広げられました。
夏の余韻に浸りながら、
ちょっこし紹介してみましょうか。
第3位 3回戦 九州学院(熊本) 8-7 鹿児島実(鹿児島)
(延長10回)
この九州対決は、気持ちのこもった素晴らしい戦いでしたね。
9回に3点差を追いついた鹿児島実の粘り、そして追いつかれても動じずに守りきってサヨナラを防ぎ、すぐさま反撃に移った九州学院のチーム力。九州が今一番充実しているというのがよくわかる対決でした。
九州勢は、興南は勿論のこと、この両チーム、そして佐賀学園や延岡学園、西日本短大付属、長崎日大、大分工などしっかりとした技術と精神力を持ったチームが目白押しでしたね。
春の選抜では九州勢が3連覇。(沖縄尚学⇒清峰⇒興南)
九州が全国の高校野球を引っ張っています。それがよくわかる好勝負でした。
第2位 準決勝 興南(沖縄) 6-5 報徳学園(兵庫)
やっぱりこの試合を挙げないわけには行かないでしょう。
凄い試合でした。まずは報徳の気迫が凄かった。
この気迫、ワタシは(古くなりますが)昭和56年の優勝した年の、
2回戦(vs横浜)3回戦(vs早稲田実)が思い出されました。
この年の2回戦は前年優勝の横浜に対してエースで主砲の金村が2打席連続のホームラン。そして9回の横浜の反撃を、金村が気迫で抑えきり横浜の連覇を阻みました。(この9回のものすごいピッチャーライナーを、金村が顔面の前で好捕!気迫満点でした。)
3回戦は優勝候補筆頭と目された早稲田実。9回表まではいいところなく4-1でリードされていましたが、9回裏に猛反撃。ものすごい気迫で同点に追いつき、10回にサヨナラ勝ちしました。9回の三塁戦を抜く同点タイムリーを放った代打の小兵・浜中選手のガッツポーズが今も思い出されます。
この気迫あふれる報徳が、今年は久々にグラウンドを躍動しました。
本当に魂の入った好チームでしたね。
永田監督の自信作だったのでしょう。
一昨年の夏、昨年の春に続くベスト8以上(甲子園3勝以上)という成績。
名門・報徳の完全復活といってもいいでしょう。
大谷投手を擁して2002年春に全国制覇しましたが、いまひとつ『これが報徳だ』という姿を見せられなかった80年代終盤からの報徳。
しかし、ここ数年は『たとえ力が劣っていても、気迫でひっくり返す』という報徳野球が全開になってきましたね。
夏の全国制覇も、すぐそこに来ているかもしれません。
期待の田村投手が順調に育てば、来年、再来年はチャンス到来でしょう。
しかしこれほど追い詰められながらも、
終盤に差し切った興南野球、
いまさらながらに『凄い』としか言いようがありません。
4回まで完璧に報徳ペースの試合も、
5回の慶田城の2点タイムリー、続く我如古のタイムリーで甲子園の空気が一変しましたね。
待ちに待った「ハイサイおじさん」のリズムに乗って(今大会はこのときまで、ハイサイおじさんの応援メロディーは自粛されていたみたいなので)、次から次から鋭い打球を放つ『沖縄野球』全開となりました。
しかしあのメロディーと応援に新しい応援ソング(なんという曲なのかはわかりませんが)は、選手に逆転の雰囲気を作るのに一役買っていますね。
飲み込んでいくような迫力は、沖縄旋風の立役者!
『県民一体となった』攻撃の源ですね。
終盤はエース島袋が気迫のピッチング。
興南がその底知れぬ力を見せ付けた試合となりました。
第1位 1回戦 仙台育英(宮城) 6-5 開星(島根)
目の前で起きた信じられないプレーの数々。
奇跡と呼ぶにはあまりにも劇的。
奇跡は悲劇との隣りあわせということを、
思い知ったような試合でした。
最近目の前で信じられないプレーが起きる試合が多いのですが、
極めつけでしたね。
ワタシは昔から仙台育英のファン。
地域的には何のゆかりもないチームなのですが、なんか好きなんですよねえ。
ということで、この日も同行した息子と共に『仙台育英サポーター』として、試合を観戦しました。
この両チーム、
波に乗れば優勝も狙えるだけの力を持っている、
強豪のカテゴリーにはいる学校でした。
初戦で当てるにはもったいない、という類の試合。
両軍には県大会でほとんど点を取られていない投手がデンと構えています。
しかし、
甲子園初戦というのはかくも厳しいもの。
両投手は、本来の力を全く出せずじまいのピッチングに終始しました。
時折キラッと光るものは見せるものの、
ボールはばらつき四死球の山。
しかし打線のほうも、
何度ももらったチャンスを生かせずじまいで、
3-3で試合は後半を迎えます。
まずは開星がエース白根自らの特大ホームランで勝ち越し。
このホームラン、
今大会見た中でも1・2を争うぐらいの豪快なあたり。
まさに『打った瞬間』入ったというホームランでした。
今大会でワタシが目撃した中では、
1.北照・又野
2.明徳義塾・座覇
3.開星・白根
の3本が、とにかく凄いあたりでしたね。
更に開星は1点を加えて5-3。
一方の仙台育英は、キャプテンで4番の井上が熱中症による足の故障で既に退くという厳しい戦いになってしまいました。
試合は9回表2アウトまでそのまま。
観客席でのワタシたち
『あ~仙台育英の夏は早かったなあ。やっぱり、前半にチャンスを逃しまくったのがねえ・・・・・』と試合後の寸評に移るぐらい、敗色濃厚でした。
しかし、そこから粘りを見せます。
7・8番がつないで1・2塁。
ここで9番に入っていた田中がショートを強襲(記録はエラー。なんで??)し1点を還すと、1番の”頼りになる”三瓶がバッターボックスへ。
かなりの盛り上がりを見せていたスタンドの歓声と共に放った打球はキレイに三遊間を破ります。
『同点だ~』
と叫んだ瞬間、
2塁ランナーの庄子は、
あろう事か3塁を回ったところでゴロン・・・・。
なんと転んでしまってホームには還れず。
レフトとランナーを一直線に見る1塁側で観戦していたワタシたち。
完全に本塁セーフのタイミングだっただけに、
『あ~~~~~~』
とため息を漏らしました。
そしてバッターは当たっていない2番の日野。
『何とかしろ~~』
といい終わらないうちに、
ちょこんと当ててしまった打球は力なくセンターへ。
『あ~あ。あげちゃった~』
と目を切ろうとした瞬間、信じられないことが!!!
堅守の開星のセンター・本多がポロッ!!!!
その瞬間の映像、
ワタシのi phoneに残っていました。
ワタシと傍らの息子、異口同音に
『ぎゃ~~~~』
と叫んでいました。
ホームベース付近でまさに勝利のハイタッチをしようとする寸前だった開星エースの白根とキャッチャーの出射。ボーゼン自失です。
特に白根はホーム方向を向いていましたから、
なにが起こったのかわからない様子でした。
狂喜乱舞の仙台育英の選手たちの横を、
本多からバックホームされた送球が来ていましたが、
だれもボーゼンとして手を出しません。
ボールは誰にも触られることなくバックネットへ一直線。
あんなシーン、
見たことがありませんでした。
実はこの逆転の後、
3番の佐藤がタイムリーで続いて、
仙台育英がダメ押しをするんだろうなと予想したのですが、
さすがは白根。
落胆を顔に出さず、しっかりと抑えて裏の攻撃を待ちました。
そしてこれが、
奇跡の第2弾を呼ぶのです。
9回裏、仙台育英のマウンドには2番手の田中が上がっています。
この田中、
本来はドラフト候補の素晴らしいピッチャー。
この日も速球は147キロを計測するなど、
抑えにはうってつけの投手です。
しかしこの日は、
宮城大会3回戦以来久々のマウンド。(この試合で熱中症にかかり入院していたため)
そのためか、まだまだ本来のコントロールは影を潜めて荒れ球での勝負となっていました。
9回の投球練習、
明らかに球が上ずっている田中を見て、
『もうひと波乱あるかも』
と思っていたワタシの予感は、的中しました。
打線は6番からの下位打線。
仙台育英が勝つためには、
絶対に1番の糸原までまわしてはいけない打順の巡りです。
糸原は今大会でも屈指の好打者。
イチローのような選手で、
中国大会では9打席連続安打の記録を作るなど、
こちらもドラフト候補の逸材です。
この日も、
ここまで4-0ながら4回の右飛と6回の中飛は素晴らしいあたり。
甲子園のこの日強く吹いていた浜風に戻されなければ、両方ともスタンドインしていてもおかしくないような素晴らしいあたりでした。
『とにかく、糸原が怖い』
『糸原に回ったら、何かが起きる』
これを念仏のように唱えながら見ていましたが、
田中投手は7・9番に2つの死球を与え、
回してはいけない糸原に打順を回してしまいました。
その打席。
まず3球ボールが続き0-3となります。
ここでワタシと息子。
『糸原とは勝負を避けて、次の2番で勝負だ!』
しかしこんな声は聞こえるはずもなく、
次の2球はストライク、ファールで2-3までカウントを戻します。
5球目のファールは、
ものすごい速いスイングでした。
『やばっ』
と思って考えてみるとフルカウント。
ランナーは次の球で一斉にスタートを切ります。
どう考えても不利な状況。
胸は高鳴り、
心臓はドキドキ。
そして次の球が投げられると、
糸原のバットが一閃。
『カキ~~ン』
鋭い金属音と共に、
打球はレフト・センター間へ。
この打球の角度も、
ワタシたちの席からはよ~く球を追える所でした。
そこから見たその瞬間の情景・・・・・。
『あ~ 抜けちゃった~ サヨナラだ~』
だけど打球はスライスがかかって左へ左へと切れていきます。
やにわに出てきたのはレフトの三瓶。
最初は『ありえないぐらい遠い』
打球に見えたのですが、
三瓶君が飛び込むと、
なんとボールは意思を持っているように、
そのグラブへと吸い込まれていったのでした。
スローモーションのような瞬間でした。
その後ハッと我に変えると、
球場から割れんばかりの大歓声が。
球史に長く残るような、
素晴らしい試合でした。
両校の選手たちには、
本当に素晴らしい試合を見せてくれてありがとうと、
感謝したい気持ちでいっぱいです。
リアルな奇跡をこの目で見て、
暑さも疲れもすべて吹っ飛んだ、
至福のひと時でした。