≪第94回選抜高校野球大会≫ 総合展望
東北に初の大旗がもたらされるかが最大の焦点
光星・花巻東・聖光の三銃士に期待が集まる。
昨年は震災で異例づくめの大会となったセンバツ高校野球。
今年も震災の爪痕が残る石巻から、石巻工がセンバツの初登場し、元気な姿を見せてくれる。
また、今年の冬は大変な豪雪が各地に被害をもたらした。
センバツとはそういうものなのだろうが、やはり地域によって練習量と質に大きな違いが出てしまうのは、致し方のないところであろう。
豪雪に見舞われた北海道、東北、北信越、山陰のチームなどはハンディを負っての戦いとなるのだが、
この東北勢が今年の選抜ではへ権争いの中心になるのではとみられている。
その中心は、光星学院と花巻東の両雄だ。
光星学院は長打力抜群の打線を軸に夏の選手権を準優勝。そして新チームになって迎えた秋は、東北大会・明治神宮大会を連覇して”秋の日本一”の称号を手に入れた。そしてこの選抜は、本当の意味での”日本一”をつかむ戦いとして、センバツに参戦してくる。昨年からの”3季連続”甲子園のチームの中心は、天久、田村、北條と光星が誇る強打トリオだ。よほどのことがない限り『1試合に5点は確実にとる』と評判の打線は、どんな投手でも打ち崩していけるという柔軟性にあふれた強打線だ。しかも、このチームは強打だけではなくキッチリと1点を取りに行く野球も実践でき、得点能力という点では過去の東北勢のチームの中では群を抜いている印象だ。ネックになりそうなのは投手陣だが、昨年もエース秋田が春から夏にかけてぐっと伸びたように、投手育成のノウハウをしっかりもっているのがチームの伝統なので、140キロを投げるポテンシャルを持った金沢など、投手陣の中からしっかりとした柱が登場すれば、ネックは”強み”にかえられるはずだ。心配があるとすればやはりこの大会に向けての調整という面だろうが、もともと大阪を中心とした選手が大半を占めており、調整能力は他校に比べて高いものを持っている。初戦を上手く乗り切り、昨夏のように『大会にしっかりフィット』できれば、東北初の大旗の期待は大きく膨らむだろう。
その光星学院を、スケールの点では大きく上回るのが花巻東だ。菊池雄星を擁した09年に甲子園に大旋風を巻き起こした新星は、その菊池の活躍を見て入部してきた”プラチナ世代”が最上級生になる今年のチームで、今度こそ日本一を狙っている。秋は東北大会準決勝で光星学院に敗れて一度はあきらめた選抜だったが、その光星学院がキッチリと明治神宮大会を勝ち抜いて『明治神宮枠』を持ってきてくれたために転がり込んできた選抜キップ。この春、光星と並び【両雄並び立つ】となった。チームの中心は何と言ってもエースの193センチ右腕、大谷だ。今秋のドラフトでは1位間違いなし。菊池以上のフィーバーになるのは目に見えているこの右腕は、今大会注目の的だ。ポテンシャルは160キロ。しかし昨秋は結局、故障で1イニングも投げることはなかった。この大谷が半年ぶりにその雄姿を甲子園のマウンド上で見せるようだと、花巻東の快進撃は約束されたようなものだ。しかし、大谷不在の時期に控えピッチャー陣とともに大きく成長し、チームを支えることになったのが鋭い振りを連発する打撃陣だ。打撃陣の迫力は09年のチームとは『比べ物にならない』(佐々木監督)ぐらいの破壊力を誇る。5,6点は軽く奪える打撃力は、大谷をしっかり支えていくことだろう。もとよりカバーリング、ベンチワークなど、他チームにはない”強み”をたくさん持っているチーム。チームの持つ力のすべてを出し切れれば、一気に波に乗って全国制覇・・・・・の可能性は高いとみる。大谷の状態が、なんとしても気になるところだ。
そして一昨年、昨年と甲子園に話題を提供し続けてきた聖光学院が、また甲子園に戻ってくる。歳内のような大黒柱は不在だが、しっかり守って勝ちを拾う本来の野球に原点回帰。チーム力は相当な高さだ。ということで、東北勢3チーム、どこが紫紺の大旗を持って行ってもおかしくはないほど充実した戦力を誇る今年の選抜。間違いなく”東北”を中心とした大会であることは間違いない。
追う伝統の3強は、愛工大名電・智弁学園・大阪桐蔭だ。
しかしこの東北勢が、優勝候補の1番手と言い切れないのも、今年の特徴だろう。
次の3強は、戦力ではむしろ東北勢を上回る。愛工大名電、智弁学園、大阪桐蔭だ。
まず剛腕・浜田を擁してセンバツ制覇をもくろむ愛工大名電は、【春の名電】の名にふさわしい戦力アップ。明治神宮大会で浜田の4連投、佐藤主将のいない中でのチームなど、ともすれば負の部分になりそうな経験を積めたことも大きい。その明治神宮大会では、他校より一段戦力が上回るとの印象を持ったはずで、この選抜はベテラン倉野監督をして『自信がある』と言わしめるだけのチームに仕上がってきた。05年の雰囲気にすごく似てきた今回の選抜。意外とあっさりと、愛工大名電が覇権を奪取するという予感も漂う。 智弁学園は、ピカイチと言われたエース青山の最終年。戦績で後れを取るといわれる兄弟校の智弁和歌山に追いつく絶好のチャンスなだけに、なんとしても初めての決勝進出は譲れないところだ。昨夏の選手権で8強入りしたメンバーが残り、青山以外の投手である小野の成長も見込めるだけに、戦力は優勝候補に名を連ねるにふさわしくなっている。打線の仕上がりもよさそうで、今回は快進撃の予感も漂うが、智弁の歴史を振り返ると力はありながら・・・・・・という年が多いのも確か。智弁和歌山の甲子園での勝負強さを身につければ、紫紺の大旗もすぐ手が届くところにありそうな気もするが・・・。そして満を持して甲子園に登場するのが、大阪桐蔭の196センチエース、藤浪だ。大阪ではその名前は既に轟きわたっているものの、なんと甲子園は初見参。しかし、花巻東・大谷とともに、今大会の話題を二人占めしている存在だ。196センチから豪快に投げおろす速球は常時150キロ前後と言われ、プロ野球のスカウトがよだれを流して見つめるその右腕は、大いなる未来を感じさせてくれる。その投球は注目の的だが、大阪桐蔭というチームは彼一人が目立たないほど、充実したチーム力を誇っている。打線は中田張りの大物はいないものの、08年に全国制覇した『どこからでも爆発する』打線に酷似。打線の力でも光星学院に引けを取らぬスケールだ。そして忘れてはいけないのが、その守備の精度の高さ。今大会に向けては2番手以下のピッチャーの底上げもできており、殆ど穴のない戦力になっているといっていいだろう。やや甲子園での勝負弱さが感じられるところのあるチームなので、そのあたりの払しょくが”初の紫紺の大旗”へのポイントとなってくる感じだ。
ダークホースは粒ぞろい。どこが来てもおかしくはない。
上記に挙げた6校、大旗にいちばん近い存在だとみているが、例年の通り『ここにきて調子を上げてきた』惑星が飛び込んでこないとも限らないのが選抜。昨年の東海大相模や九州国際大付属などは、まさにこんなチームだった。
”惑星”になるには、もともと力を持ったチームである必要があるが、そういう意味からは、以下のチームは面白い。
まずはここのところ高校野球界で最も安定した実績を残す九州の代表である、神村学園だ。秋は圧倒的な強さで九州を制したものの、明治神宮大会では光星学院にタイブレークの末惜敗。本番でのリベンジを誓う。今年のチームは、昨夏の甲子園の経験が生きており、打球の鋭さには目を見張るものがある。良くも悪くも九州らしいチームといえる神村学園。大会の波に乗っていくことが出来れば、昨年の九州国際大付属の再現も可能とみる。同じ九州の九州学院も、昨春の選抜に続き連続出場のチーム。エースの大塚、主砲・萩原ら、経験値の高い選手をそろえ勝負をかける。今年は他地区との比較でかなりレベルの高い近畿から、連続出場の天理、履正社が登場。両チームともに昨年以上の活躍を誓う。特に天理のエース中谷は、左腕からキレのいい球を投げ昨秋の近畿大会では大阪桐蔭を破った実績がある。ベテラン・橋本監督の復帰で意気上がる天理が、久しぶりに甲子園で躍動するか。履正社は昨春からはガラリと選手を入れ替えて臨むが、しぶといチームに変身したともっぱらの評判だ。
関東では昨年春、夏の甲子園を経験したチームがそろって登場するが、例年のレベルを維持できていないとみている。秋の関東大会を連覇して選抜に臨む浦和学院は、”甲子園初戦5連敗”の負のオーラからの脱皮ができていないとみる。戦力はそこそこあるものの、湧き上がる闘志を見せられないまま淡々と敗退・・・・・ということにまたならなければいいのだが。昨夏甲子園4強と久々に存在感を発揮した作新学院は、若い指揮官である小針監督の”イズム”がチームに浸透して、なかなかいいチームになってはいるものの、俯瞰して見た時は『昨夏は出来すぎ』という思いがぬぐえない。これからのチームだろう。昨夏歓喜の甲子園初登場となった健大高崎は、去年残した鮮烈な印象をまた甲子園に残したいところ。この学校も、まだまだ出来上がったばかりの感が強く、『甲子園で勝ち進む』のイメージはわいてこない。3季連続出場の横浜は、今年のチームで上位を狙うのは、正直厳しい。エース柳や抑えの相馬、主砲・山内などいい選手はそろうが、チームとして機能していない最近の甲子園での戦いぶりを見るにつけ、上位進出は難しいのではと思ってしまう。
関東勢で最も”化ける”可能性を感じさせるのは、関東一か。エース中村が、2年のセンバツでブレークした唐川(成田)を思い起こさせる。打線もそこそこいいだけに、『よもや』を感じさせるチームだが、いずれにせよ今年の関東のどのチームも、スケールという点では他地区に一歩譲る存在だ。
北海道の北照は、大串の左腕に安定感があり、前回の8強越えを狙う。四国では強打の鳴門が参戦。四国勢の不振を吹き飛ばせるか。中国大会制覇の鳥取城北は、典型的な守りのチーム。例年にない豪雪で、チームの仕上がり具合が気になるところ。
一発を狙う好投手が続々。
その他では、投手力がいいチームが多いのが今大会の特徴だ。
久々の出場で、大越監督とともに期待されているのが早鞆のエース間津。ストレートは140キロを超え、奪三振率も9を上回るなど、かなりの好投が期待できる逸材だ。新顔にも好投手が多い。21世紀枠で出場の女満別・二階堂はプロ注目の右腕。昨夏も兄とともに甲子園を目指した逸材だ。通信制初の甲子園を射止めた地球環境には、エースの漆戸が控える。秋の北信越大会で40イニングをわずか2失点で抑えた安定感は、今大会の注目の的。三重の三浦、敦賀気比の山本なども好投手だ。
今回一般枠での選出となった前橋、宮崎西はいずれも名うての進学校。短い練習時間をやりくりして大会で結果を残したのは素晴らしいこと。甲子園でも自分たちの野球で暴れまわってもらいたい。常連の倉敷商は打線が看板。高知は四国大会でライバル・明徳義塾をついに倒してのうれしいセンバツだ。鳥羽は00年以来の選抜。前身は第1回選手権優勝の、京都二中だ。しぶとい野球を展開する近江、”ジャイアントキリング”で初の選抜を掴み取った別府青山にも注目。21世紀枠で出場の洲本は、全国制覇を経験する好チームだ。最後に、3強と言われる東北勢とともに選抜にやってくる石巻工業。もちろん戦力的には3強に大きく見劣りするものの、精一杯のプレーで、元気と勇気を与えてほしいものだ。