『只今おかけになった電話は電源の…』
鳴っとったコール音は電源云々というアナウンスに変わった
あぁ…小泉携帯電源落しよった。
『そんなにオレとしゃべりたないんか…』
たとえ携帯出るん嫌でもメールぐらいは返信して欲しい
小泉がなんの話し合いもせんまま
なんも言わんと出て行ったのか
胸に手を当てて考えても
心当たりなんてあるはずが…
な…
『あっ…』
もしかしたら…
昨日酔いつぶれたオレを迎えに来た時
何かがあったかもしれへん。
記憶が飛んどるという事はかなり飲んでたみたいやし
明日その場におった人に詳しく聞いてみよう
オレが何かやらかしとったんなら小泉にきちんと説明して
悪い事は悪いと認めんなあかん。
小泉の携帯が通じんから
もう一度隆人君に連絡入れてみることにした。
★★★
『隆人君…小泉やっぱきてへんか?』
大谷さんの声は酷く沈んどった。
『はい』
オレはねえちゃんの味方というわけではないがそう返事をした。
大谷さんと逢ったのはたしか中学の時
うちのアホねえちゃんと付き合う事の出来る猛者はどんなんやと
最初は面白半分からかい半分やった。
大谷さんはそりゃ背はオレらよりちっこいけど
それはそれは器のおっきいオトコやねん
そんな人が兄ちゃんになってくれたらええと思ったから
2人の事めっさ応援してた。
『同棲したい』と大谷さんが両親にゆうてきたとき
結婚は秒読みやと思ってた
けど たまに愚痴るねえちゃんの話から
もう少し時間かかるかもしれんって最近思ってた。
『オレ今日 そっちに行って結婚申し込む予定にしててん』
『えっ?結婚』
『ん…ほんまは昨日のうちに小泉にプロポーズして
とか考えてたのに…飲みに行ってベロベロとか情けないわ』
電話の声がかすかに震えて聞こえる
『大谷さん…』
『ほんまオレ アホやねん。毎日毎日考えてて…けどハズいから
仕事でごまかして しも…て…』
大谷さん
ほんまにねえちゃんの事好きやねん
弟のオレなんかにこんな事話すやなんて…
ほんまねえちゃんには勿体ない。
『電話…通じんの 事故とかやなかったらええねんけど…
なんか変な方向に考えてしまうねん…どうしたら…ええか』
『おるから…』
『えっ?』
『ねえちゃん うちに帰ってきたから…』
ねえちゃんごめん
オレ大谷さんがねえちゃんの事好きってはっきりわかるから
裏切るけど恨むのはなしにしてほしい。