タクシー運転手とマッサージパーラ嬢とのタイ式純愛映画（その２）

『Midnight,My Love』　この主演男優は標準的な中年タイ人を演じさせたら彼の右に出る者はいない、と断言できる自然な演技の味を理解するにはOver Action連続のタイのテレビドラマを不幸にも見続けた末の悟りの境地だとご理解願いたい。ハンサムでも、金持ちでも頭脳明晰でもなく、仕方なく都会に出てきた中年男は生きて行くためタクシー運転手としてのスキルに寄りかかる。しかし、彼の回りの仲間達とは”何かが違う”と違和感を感じている。つまり刑務所帰りの癖に、それに臆する事無く自分の失われた居場所をいつも探しているポッドにももう一度、春がやってくる。妻の浮気現場に遭遇し、カッとなって相手を包丁で刺して殺してしまうが、こうした社会的ハンディはタイの混沌とした社会では中国粥のスープのように薄められててしまうのか、また正当防衛なのかポットの純粋な自分探しの旅は昔のナイハーン（旦那）が歌う大好きな懐メロと一緒に夢の続きを探している。

　終身雇用が当たり前だった日本のサラリーマンの幸せは団塊の世代までで、その後は中年達は時代の変化に対応する事を迫られている。ITスキル、ネット、文字入力など出来れば一生関わらないで終わりたかった同胞は多いいだろう。携帯電話、援交サイトだってなければ済んでしまうだろうし、ネットという情報過多で妻の信頼を失ってしまう。RAPなんか知らなくても懐メロの歌謡曲で楽しめるし、キャバクラへ行かなくても流しのギターと屋台のおでんと冷や酒で十分幸せを感じられた筈だったが、時代は動いていて気がついてみたら”社会の片隅に”なんていうことはよくある事だ。ここで清貧を気取って悪魔退治と知的労働に目覚めるなんていう話はタイでは聞かない。あくまで現実的に自分と社会を結びつけていくのは本当に生きる達人達だと関心する。

「大丈夫、オーナは日本人だから」という甘い言葉にかどわかされ、新生活の資金目的で闇金融に手を出す姿勢は異性というより同志としての彼女との結び付きからか。金ぴかブレスの成金だってクロウトの女との遊びに同情は禁物だ。人間の社会的関わりはどの位に税金を払わないで済む裏金を扱える人間とそうではない人達の深い断層は自分の居場所を錯覚させる雰囲気を為政者は醸し出す。前に負の経歴を持つ男女が幸せになる確率は赤字国債で苦しむ日本の財政再建の可能性よりまだ低く、だから純愛は美しい。