1001タイ映画、千夜一画 

タイ映画またはショートフィルム他で心の琴線に触れたアーカイブ。

overture____タイのオスカー賞受賞作品:伝統楽器の音楽家の苦悩と栄光

2005-04-17 02:54:15 | Weblog,
タイの民族楽器、ラナートのバーチオーソに焦点を当てて一人の演奏家の苦悩と挫折、そして成功の生涯を描いた作品____。なんて書くといかにも配給会社のコピーみたいなのだが、最近このようなタイ伝統文化回帰の映画が多いのは好景気のせいで経済的な余裕の現れかもしれない。クライマックスは名人同士の対決。これは「船上のピアニスト」のような楽器の技を競うものだが、娯楽映画なのでオーバーなのは当然で楽器から立ち昇る煙も当然のように思われてしまう。有名な前衛ジャズ・ピアニストで超変則技巧を駆使するセシルテイラーの演奏ビデオのドキュメントをみていると音楽とは__なんていう講釈などいらない迫力があるが、そろそろ、こういう不出世アーティストの伝記映画なんかでてきてもいい頃だろう(映画「バスキア」なんか最低だった)。___閑話休題___

 この映画の主役はタイ王国の官僚制、つまり官庁や役所の機構が、19世紀の早くから整備されこうした有能な才能を発掘するシステムが機能していたことだろう。この映画について面白い記事を発見した。バンコク交響楽団が発行しているクラッシック音楽専門誌「Symphony」Aprl-May 2005号でこの映画のモデルの対決者を演じ、実際に出演している現代タイ伝統音楽の有名なラナーと奏者であるNarongrit Thosagaのインタビュー記事があったので大分この映画の内容に関しての詳細が掴めた。(時間があれば編集者に断って原文で紹介しておきたいほどいい記事だ)

 それによるとこの映画のモデルはSornという1881生まれ)という実在のラナート演奏家の伝記映画でラマ五世からラマ八世に仕えた宮廷音楽家で、もちろん映画にもでてくる第二次大戦も体験している。また昔は街の至る場所にこういうラナート教室があって民族音楽は身近な存在だったという。
 ただ悪役とはいえ、あのように西洋音楽にこだわり、タイの民族音楽を忌み嫌った日本軍の将校が実在したかは疑問。折角いい映画なのに、あの旧日本帝国軍の軍服と階級章は本当に間違いなので時代考証のスペシャリストが必要だと思う。その点、最近みた「シーウイ」なんかの旧日本軍の軍服はちゃんと史実にも基づき表現している(こうした点は中国系のほうが敏感?)。
 民族楽器でハイになれるか。今風の言い方でいうとトランスできるかということだが、これが実際に名人の演奏を聞いていてトランスした経験がある。ペンタトニックといってもバカにできないほどで、これを超速オクターブのモードで動かしていくのだからピアノ交響曲の最終章のスケルツオのように宇宙空間に飛んで行くような感覚には驚く。ここの弁天様のお祭りの時に、スラムでシャーマンにより猿に乗り移ったりするのに参加したことがあるが、ここでもラナートのペンタトニックが重要な小道具として欠かせないものだ。
 しかし、マイナーなラナートという木琴に焦点を当てた同映画はタイのオスカー賞を受賞した作品になったと同誌では報じていた。


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