中野京子さん著「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」では、ルイ16世が処刑前日、どのように過ごしたかに触れている。
こちらがその本。ブルボン王朝には多くの役者、名女優たちが存在するから、こうした本を書くにはネタに事欠かない。むしろ書きたいエピソードがありすぎて、削るのに苦労するのでは?
ルイ16世----ブルボン王朝で、貧乏くじを引いた国王。この人自身は決して悪い性格ではなさそうだし、湯水のように税金を使いまくり、国王の威信を見せつけるタイプではないが、タイミングが悪かったというか。中野さん曰く「先代からの負の遺産をそっくり受け継ぎ、全責任を負わされ、自らの命で購(あがな)わされた」とあるが、まさにそのとおり。5男中の第3男。長男、次男が相次いで早くに亡くなったため、青天の霹靂で彼に王冠が回ってくることに。中野さんの言葉を借りると「自分大好き戦争大好きのルイ14世、異常なまでに女狂いのルイ15世を経て、16世は引きこもりオタクに近い。錠前作りと読書、そして狩猟が彼の三大情熱。」
婚姻の晩餐会で、花婿がガツガツ食べるのに呆れた15世が「今夜はあまり胃に負担をかけるでない。」と注意すると、「なぜです?夕食をたっぷり摂ったほうが、よく眠れます。」と答える。花嫁とろくに話すこともせず、ひたすら食事を詰め込む姿は、当然宮廷人の物笑いの種となる。おそらく16世の周囲には彼が幼少のころから、TPOに応じたふるまい方を教えてくれる人がいなかったのだろう。それを思うと何とも哀れで同情したくなる。
革命が勃発し、国王一家はヴェルサイユ宮殿を離れ、タンプルの塔に幽閉される。そこでは、読書、狭い庭を散歩、息子と遊んだり学問を教えビリヤードを楽しむなど、豪華な宮殿での生活より遥かに充足した家庭生活を送っていたように見える。
けれど処刑前夜、家族で過ごしたいと願うアントワネットに対し、16世は「一人でいたいから。」と自室に籠っている。翌朝も、会いたがる妻を避け、悠々と一人で朝食を摂って、ギロチン台への馬車に乗り込んだ。中野さんは「みんなを悲しませたくなかったからとも、悲しむみんなを見たくなかったからとも言われるが、むしろ一人が居心地良かったのではないだろうか。淡々と死んでいった。」と結んでいる。
以前、こんな新聞記事を読んだことがある。ホスピスで働く男性が、もうまもなくこの世を去ろうとする女性患者に「何かしてほしいことはありますか?誰か会いたい人はいますか?」と尋ねたところ、「このまま静かに一人にしてください。もう煩わしい人間関係で悩むのはたくさんです。」と答えたという。ルイ16世も処刑が決定してからは残された日々を、それまでの面倒な人付き合いから解放され、一人静かに過ごしたいと願ったのだろうか?妻や我が子からも離れたいと思ったのか?それとも家族を悲しませたくなかったのか?
もしルイ16世が現代に生きていたら----社交的でなく、オフの時間は家で一人、ゲームして過ごす引きこもり生活を送っていたかもしれない。今だったら、別段そんな彼を嘲笑する人はいないだろう。あの時代、傾きかけた王家に生まれてしまったばかりに、望んでいない人生を送らざるを得なかった。オスとしての魅力に欠ける男性のもとに、政略結婚で送りこまれるアントワネットも気の毒だが、ルイ16世もまたタイミングの悪い人だなと思う。(しかし---処刑される日の朝、悠々と食事を摂るとは!ある意味、この人、大物。)
読んでくださり、ありがとうございます。
どの本か忘れましたが、ルイ16世の両親は長男を大切にして彼に愛情を注がなかったそうです。親の愛情を感じていたら…親か兄が先に即位してルイ15世より良い手本?を見ていたら…もう少し自信を持って、アントワネットにも夫として接する事ができたでしょう。彼らの人生もフランスの歴史も変わっていたでしょうね。
アントワネット達に節約を説いていたようですが、彼は猟犬、馬、馬車を減らす事はしなかったようで…やはりオタクですね。
辛いのであまりニュースは見たくないのですが、今日はサンドニの地名が出て…安らかに眠っているアントワネット達も天国で驚いていることでしょう。長い歴史で暴力は憎しみしか生まない事は分かっているのに。悲しいけど人類は学習能力が無いのだなぁと改めて思い知らされています。
>親か兄が先に即位してルイ15世より良い手本?を見ていたら…もう少し自信を持って、アントワネットにも夫として接する事ができたでしょう。
そうですよね。ルイ15世は美男だけが取り柄で、政治的能力はそれほどでもなかったようですし。お手本となる人物が周囲にいなかったことも、ルイ16世にとって不幸でした。
>今日はサンドニの地名が出て
みぃさま、私も同じことを想っていました。「あのサン・ドニの街で、銃撃戦が---」と思うと、悲しい気持ちになりました。すぐそばにはブルボン家の人々が眠る大聖堂があります。
>長い歴史で暴力は憎しみしか生まない事は分かっているのに
オスカルやアンドレが流した血が、無駄にならないことを願うばかりです。
ところで、ルイ16世がぼんくら呼ばわりされるネタの一つとなっている結婚式場での大食いの話ですが、実はほとんど料理に手を付けていなかった、と言う目撃談が近年出て来ています。結婚式場での250年前の歴史は文献のみが証拠、どちらが真実なのか、さて。
そして、彼の幼少時の家庭環境。一言で言えば孤独。彼の両親も、彼の養育係も全て彼以外の兄弟を可愛がり、彼は両親お気に入りの長兄の遊び相手にされるのですが、この兄も彼をイジメ、それでも彼は健気に耐えていたと言う話もあります。だから幼いころの養育係が王家のために宴会を開いても、国王となった彼は決して出席しなかったとか。子供の彼が「自分は誰にも愛されていない」と言ったそうですが、言いたくもなろうと言うもの。
兄が亡くなると父は更に彼に厳しく接するだけ、そして、父も結核で若くして亡くなるのですが、御見舞に行った彼に対して「自分が死ぬので自由になれて良かっただろう」と言う意味合いの言葉を浴びせかけます。せめて祖父が構ってくれればいいのですが、こちらも放任状態。少年時代の彼は陰気で無口だったといいますが、こんな環境では心に鍵をかけて閉じ籠もろうと言うものです。
彼の優柔不断さや自信のなさは、幼少時代の家庭環境から来ていると思います。周囲にことごとく否定された人間に国王らしく自身を持って振舞え、と要求する方が無茶です。
彼に対する批判はあるべきですが、否定をしたり見下したりする気にはとてもなれません。本当にこの人は運がない人だと思います。
>実はほとんど料理に手を付けていなかった、と言う目撃談が近年出て来ています
えっ!そうなんですか!?私たちは肖像画や歴史史料を頼りに、過去の人物の人となりを想像するわけですが、それらがどこまで真実を伝えているかがポイントですね。中野京子さんは、ダヴィッドが描いた「処刑場に連れて行かれるアントワネット」のスケッチ絵を、「ダヴィッドはもともと反アントワネット派だったから、ことさら彼女をみじめに描いた。」とあります。史料は残した人の主観が入るので、本当の姿を知るのは難しいです。
>子供の彼が「自分は誰にも愛されていない」と言ったそうですが、言いたくもなろうと言うもの。
あの時代、国王や王妃は自分で直接子育てはしなかったから、余計ルイ16世は寂しい想いをしたでしょうね。彼が未来の国王になろうとは誰も思っていませんでしたから、帝王学を学ぶわけでなく、どちらかというと一族のお荷物扱いだったかもしれませんね。
>周囲にことごとく否定された人間に国王らしく自身を持って振舞え、と要求する方が無茶です。
そのとおりです。アントワネットもそうですが、ろくに躾や教育が完了しないうちに、国のエゴで婚姻関係を結ばされ、ああだこうだと非難されるのはつらいですね。
>彼に対する批判はあるべきですが、否定をしたり見下したりする気にはとてもなれません。本当にこの人は運がない人だと思います。
この文を読み、つい最近引退宣言をした某音楽プロデューサーを思い出してしまいました。
このようなブログですが、読んでいただければ幸いです。今後ともどうかよろしくお願いいたします。
今日は国王の命日ですね。気温は3度、霧が発生していたそうです。国王の処刑にはふさわしい天候ではないでしょうか。
アントワネットの結婚指輪と印章指輪は従者に預けたものの、戴冠式ではめた指輪はそのままに死刑場に臨んだと何かで読みました。犯罪者ではなく、フランス国王として死ぬ、と言う彼なりの意地なのでしょう。この辺りは流石に絶対王政の君主かと。
彼が処刑時に示した勇気の10分の1でも財政改革に反対する貴族たちや宮殿を襲う暴徒に向けてくれていたら、決断すべき時に決断でき、あのような結末にはならなかったのではないかと残念でなりません。彼自身は決して愚かではなく、進むべき道のりについて考えていたのですから。
>気温は3度、霧が発生していたそうです
この時期のパリは、こんな日が多いのでしょうね。シャツ1枚で断頭台に昇ったルイ16世は、もはや寒さなど感じていなかったと思います。
>犯罪者ではなく、フランス国王として死ぬ、と言う彼なりの意地なのでしょう。この辺りは流石に絶対王政の君主かと。
ルイ16世もアントワネットも幼いころから、王権神授説を叩きこまれ、その地位をはく奪されることに最後まで納得いかなかったと思います。それでも2人はたび重なる試練を乗り越えるうち、次第に真の君主としてのあり方に目覚めていった気がします。
>彼自身は決して愚かではなく、進むべき道のりについて考えていたのですから。
ヴァレンヌ逃亡実施日を延ばし延ばしにするなど、何度も良いチャンスがありながら、それをうまく利用できなかったなあと、後世の自分は思います。ルイ16世のそばに、誠実で有能なブレーンがいたら・、歴史は変わっていたかもしれませんね。
後から自分の書いたものを見ると、感情に任せて書いたのでりら様に不快感をもたせてしまったと思います。かなり時間が経過した後でこのような事を書くのもなんですが、失礼致しました。申し訳ありません。
>りら様に不快感をもたせてしまったと思います
えっ?どこが不快感を感じさせる内容なのでしょう?
私、まったく嫌な思いを感じておりません。どうかお気になさらず。よろしければ今後もどうぞ自由に、吹雪さまが感じたことをコメントいただければ、本当にうれしいです。
最近は通信教育による講座の最終試験があり、そのための準備でなかなかブログ更新ができません。しかしまたコツコツ書こうと思いますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。