アントワネットに関する伝記や書籍はたくさんある。ではフェルゼンは?フェルゼンはアントワネットをどう見ていたのだろう?「『ベルサイユのばら』で学ぶフランス語」のコラムには、面白い記述がある。
フェルゼンの手紙をもとに、二人のすべての始まりとなったパリ・オペラ座の仮面舞踏会での出会いを、彼の視点から見ると下記のようになる。(以下コピペ)
見るからに美しい貴婦人にフェルゼンは、相手が誰とはわからないまま、引き寄せられていった。彼は父親への手紙にこう書き残しています。
「----謎の姫君とメヌエットを踊り、30分ほど歓談しながら、相手の正体にまったく気がつかなかった。軽やかな身のこなし、手袋の上からも察することのできる形の良い手から、さぞ魅力的な方に違いない----とは思っていた------」
身分の高そうな取り巻きを大勢連れていたために、ただ者ではないと気づいたところで、フェルゼンはようやく、この素敵な姫君が“王太子妃”だと察し愕然とします。彼が驚いている隙に、アントワネットは取り巻きたちに囲まれながらその場を立ち去りますが、フェルゼンは残った取り巻きたちから失笑を浴びることになります。
後日、フェルゼンが恐る恐るベルサイユ宮殿に上がってみると、誰からも冷たい目で見られるばかり。フェルゼンは気恥ずかしさといたたまれなさでいっぱいになりますが、そんな彼に気づいたアントワネットは、誰よりも先にフェルゼンに声をかけるのです。まさしく救いの女神!彼は王太子妃の優しさに感動します。
「あんな高貴な方が-----私を覚えていてくださって----感謝の気持ちでいっぱいです。」
初対面の仮面舞踏会でメヌエットを踊り、30分も二人だけで歓談----この30分で、その後約15年近く、死ぬまで変わらない愛が生まれたのだろう。仮面越しに互いに惹かれあうもの、運命を感じた夜。顔が見えなければ、他の見えている部分で相手を判断する。手袋をはめているとはいえ、形の良い手に目をつけたフェルゼンは、相手の顔を見ることもなく、その夜はオペラ座をあとにした。(しかし30分もの間、アントワネット専属の護衛兵は何をしていたのか?彼もまた取り巻きたち同様、二人の様子を面白がって傍観していたのだろうか?)
漫画ではフェルゼンは仮面を付けず、舞踏会の会場の外に出たアントワネットにダンスを申し込む。そして彼女の仮面を外し、相手の顔を確かめたところにオスカルが駆けつけ「若造!名前を名のられい!地位は?身分は?」となる。どう見ても30分も会話していない。
フェルゼンの手紙を読むと、アントワネットの取り巻きたちの底意地の悪さが感じ取れる。30分間もフェルゼンとアントワネットを泳がせておいて、二人の様子を物陰または周囲で観察しながら、頃合いを見計らって引き離す。アントワネットと共にその場を立ち去る者もいれば、しっかりとあとに残ってフェルゼンを嘲笑するお役目を果たす者もおり、いじめとは言わないまでも、なかなか手強いお方揃い。こういう人たちの中に政略結婚のため、14歳で飛び込んでいかなければならないアントワネット。中学校2年の女の子が、身分の高さだけを武器にうるさいオバサマ方の輪に入っていくわけだから、そりゃもう大変。
けれどアントワネットもフェルゼンも、そういったよどんだ人たちの冷ややかな視線に負けず、フェルゼンは宮殿に参内し、アントワネットは真っ先に彼に声をかける。アントワネットって素直というかわかりやすいというか、自分が嫌いな人(例えばデュ・バリー夫人)は徹底的に無視したのに、好意を持つ人には率先して自分から近づいていく。だからすぐフェルゼンへの恋心を周囲に悟られてしまう。百人一首で平兼盛が「忍ぶれど 色にいでにけり 我が恋は----」と恋の句を詠んだけれど、アントワネットは忍ぶこともせず、堂々と態度に表していた様子。それが彼女の命取りとなってしまう。
フェルゼンの目から見たアントワネット、フランス宮廷、ヴァレンヌ逃亡事件---もっと読んでみたい。「『ベルサイユのばら』で学ぶフランス語」では、私のカチカチの頭にフランス語はあまり入らなかったけれど、随所に挿入されたコラムはとても楽しかった。
読んでくださり、ありがとうございます。
ご存知かも知れませんが、どちらかのブログを拝読しフェルゼンが二人の女性にプロポーズをして二人ともにフラれたエピソードを読みました。
一人は22~3歳頃英国留学中英貴族の令嬢、一人は有名な愛人エレオノールシュリヴァン。
『愛する人と結ばれないから自分は誰とも結婚しない』と妹に手紙で言っていたのは本当でしょうがこれが王妃アントワネットのことだったのかその二人のことだったのか?
年の離れた恋人と長年仲良くしている妹を羨んだ言葉も日記に書いてあるとか。この話を知って史実の彼の人間味が濃くなった気がします。ロココのプレイボーイ、充足したソチラ方面でしょうから(下世話でごめんなさい)案外結婚なんてメンドクサイと思うようになったかも。それでも最後17年実ること満ちることの無い人生は砂漠のような世界だったのでしょうね。
そしてー
ベル熱再燃のたび又自分の年令が変わるたびオスカルとアンドレへの見方が変遷してきたので一つの言葉に纏まらないんですが、そのうち見合う記事にポツポツと参加させていただくかも。
今回のエピ7の大嵐も心酔者の方々が理解に苦しんでおられましょうし…自分もまだ未消化です。
エレオノール・シュリヴァン・・・フェルゼンの愛人の1人。ヴァレンヌ逃亡実行にあたって、フェルゼンはエレオノールから大金を借金しています。借りるほうも借りるほうだけれど、貸すほうも貸すほうだと思いました。この感覚、ちょっと理解に苦しみます。というよりこの時代の貴族って、恋愛を一種のゲームのように楽しんでいたようですから、エレオノールもそれほどフェルゼンに深い思い入れはなかったのでしょうね。
>ロココのプレイボーイ、充足したソチラ方面でしょうから(下世話でごめんなさい)案外結婚なんてメンドクサイと思うようになったかも
フェルゼンは裕福な家庭に生まれ、留学で教養を身に着け、加えてハンサムな容貌。いくらでも女性が近づいてきます。別に結婚などしなくても、何も困ることはなかった。ただアントワネットへの恋心は、本物だったようですね。
>ベル熱再燃のたび又自分の年令が変わるたびオスカルとアンドレへの見方が変遷してきた
初めて「ベルばら」に出会った10代の頃と、現在とでは、作品の捉え方が変わってきています。10代の頃はさして気にも留めなかった場面(例えば将軍夫妻の親心など)が、わかるようになってきましたし、愛し愛される喜びを知ったオスカルが、アントワネットに「フェルゼンのために生きていると なぜ仰せになりませぬのか?」と言う場面も、恋する女二人の心情が分かり、グッと来ます。ワイスさまも、オスカルとアンドレに対する見方が、時代と共に変わってきているとのこと。それがまた面白いですね。果たして今後、どう変化していくでしょう?
どうかこれからもいつでも気軽に、お立ち寄りくださいね。