祈念…

身の軋む万戸の念（おも）ひ海原へ洲（しま）は祈りの涙を流す

三陸…

なんといふ胸咬（か）む音よ空を圧（お）し三陸の海も哭（な）いているのか

未来…

許されぬ不倫に向かふ唇にルージュをひいてわたくしがゐる

青鞜…

抱かれて狂ひゆきつく夜の底　子捨てのかなし恋もあるべし

水奏…

はらはらとかなしき音よ　恋といふ一つの意思が泪(なんだ)にかはる　

罫線…

宙吊りのをんなこころをたづぬるな　今日を二人の罫線として

熱唇…

くちびるを合はす無音の抱擁のをんなの性のうつくしきかな

花明…

さびしさの底より仰(あふ)ぐ人妻の唇(くち)に零るる花明かりかな

沃野…

ゆっくりと灯（あかり）が揺れて四十路の雌性は漢（をとこ）の胸で焼かれる

火色…

あられもなく火色に染まる素裸の私のなかに四十路がある

分身…

甘たるき声だす女の分身を　きみに咬（か）まれる耳朶（じだ）が覚える

女伝…

掠（かす）められ空虚（うろ）は消（け）ぬべし　乳房（ちちふさ）に唇（くち）つけられる時など持たば

寂伝…

さびしさの降り頻（し）くゆふべ　空虚（うろ）を吹くをんなの性を抱（いだ）きしめにき