では、いよいよ、観測地での太陽の南中時刻を秒まで求めましょう。
手始めに、天体の時角(Hour Angle)を導入します。時角は天体が、観測地の子午線を横切ってからの時間です。ある天体が、子午線を横切ってから2時間30分4秒経っていれば、その天体の時角は、2時間30分4秒です。0から24時間の間で表します。天体が、子午線の東にあって、あと1時間で、子午線を通過する位置にある時は、時角は、23時です。
同じ天体の時角は観測地の数だけ決定できるので、混乱を避けるため、ロンドン郊外のグリニッジの本初子午線(Prime meridian)の時角を基準として、各観測地の時角を換算して使用します。
時角は角度で表すこともあります。1日24時間を360度に換算します。
具体的には、時間に15を掛ければ、角度表現になりますが、日本では、時間で表現することが多いです。逆に、角度を時間表現にするには、15で割り算すれば求めることができます。
観観測地Pの時角HAは、グリニッジの時角HAgと観測地の経度Longで表すと、
HA = HAg ± Long ・・・・式1 ただし、Longは、時間表現
ただし、観測地の経度が東経(Pe)の時はプラス、西経(Pw)の時はマイナス
で計算できます。
太陽が南中しているときは、太陽はちょうど子午線上を通過するときですから、観測地での時角は0または24時です。
観測地が日本国内であれば、東経ですから、式1から、
24 = HAg+Long ・・・・式2
となります。
ある日、ある時間の太陽のグリニッジの時角は、天測暦から求めることができます。
では、2021年の冬至の日12月22日の天測暦のページを見てみましょう。
太陽の項目の一番左の列のデータを使います。Uとあるのは世界協定時(UTC)です。
次の欄のE◎はイーサンと呼ぶ日本の海上保安庁の天測暦だけにある特殊なデータで、
E◎ = HAg - UTC ・・・・式3
となる値が記載されています。E◎は、時間と共に変化する値です。
式2と式3から、
24 = E◎ +UTC+Long ・・・・式4
南中の時刻は、式4を UTC で解いて、
UTC = 24 - E◎ - Long ・・・式5
で求められます。実務では式5を公式として使っています。西経の場合はLongの前の符号は+になります。
その昔、三等航海士は、あらかじめ推定位置での式5で計算しておいた太陽南中時間近くになると、六分儀を構えて太陽を観測しました。南中時刻で、経度が出て、太陽高度で、緯度が一回の観測で計算できるnoon positionを、船長に報告するという三等航海士の大事なお仕事だったそうです。noon position は、さらに、無線で船主に報告しなければなりません。戦時中、日本商船が報告する ポジション レポートは、米軍に解読されて、潜水艦の待ち伏せを食らったということなので、律儀すぎるのも、何だかねぇ。
ということで、日本の天測暦は、太陽の南中時間を簡単に計算できるように工夫されています。
では、バルコニーでの2021年12月22日の南中時刻を求めてみます。
バルコニーの経度をスマートホンのGPSで求めると、東経139度40分30秒と出たとします。
これを、時間表現に変換するには、15で割算をすれば良いのですが、昔は、天測計算表(米村表)を引いて、換算してました。この表は冊子になっていて結構便利です。 今なら、関数電卓があれば、答え一発で、
Long = 9時18分42秒が得られます。
まだ、南中時刻のE◎は分からないので、
仮に、UTC =0時のE◎=12時1分36秒を使って計算してみます。
式5からUTC = 24時-12時1分36秒-9時18分40秒=2時39分44秒
E◎が12月22日の1日で、30秒ぐらいしか変化していないので、この太陽南中時刻は概ね分単位まで正確です。
次に 12月22日2時39分のE◎を2時と4時の値から補間計算します。2時間で、2秒減少しているので、-2 x 39/120=-0.65秒を2時のE◎12時01分33秒から減じて、12時01分32.35秒を得ます。
1秒以下の端数を四捨五入して、E◎=12時1分32秒を使い、もう一度計算します。
UTC =24時-12時1分32秒-9時18分40秒=2時39分48秒
日本標準時(JST)はUTC+9時ですから、JST=11時39分48秒が求める南中時刻です。
海上保安庁の天測暦は、角度で0.1分、時間で1秒を保証していますから、秒までは正確です。
練習問題
次の場所の2021年12月22日の南中時刻を日本標準時で求めてください。
1) 北海道 網走市 東経144度15.5分(9時37分02秒)
2) 福岡県 福岡市 東経130度25.0分(8時41分40秒)
答えは最後に
大多数の方は、海上保安庁の天測暦を利用できないと思いますので、インターネットでダウンロードできる天測暦(nautical almanac)を紹介します。
https://www.thenauticalalmanac.com/
ここから、PDF形式の天測暦が無料でダウンロードできます。再配布も自由です
Everything you need for 2021をクリックすると、ダウンロードページに飛びます。
では、ダウンロードした天測暦の2021年12月22日の太陽の項目を見てみましょう。外国の天測暦は、3日分のデータが1ページに載っているので、注意してください。水曜日、Wedの項目が、12月22日です。一番左のカラムに1時間おきに太陽のグリニッジ時角(GHA)が記載されています。
E◎は式3で計算できます。さしあったって必要なデータは0時、2時、4時のE◎ですから、グリニッジ時角をそれぞれを15で割って時間表現にして、時刻を引くと
当たり前ですが、海上保安庁の天測暦記載のE◎と全く同じ値が得られます。
時間の計算は、関数電卓が便利です。スマートホンのアプリでもいいので、一つあると重宝します。
天測暦は、北極星を始めとする主要な恒星や、肉眼で観測できる惑星(水星を除く)の時角計算もできますが、今日はここでおしまい。
練習問題の答
1) 11時21分25秒
0時のE◎=12:01:36を使って南中時刻を求めると、
24時−12時01分36秒ー9時37分02秒=2時21分22秒
補間計算で2時21分のE◎を求めると、
2時21分のE◎= 12時01分33秒-2x21/120秒=12時01分32.65秒
12時01分33秒をE◎の値として、南中時刻を再計算
24時-12時01分33秒-9時37分02秒=2時21分25秒
UTC 日本標準時の時差 +9時間を加えて、
11時21分25秒が求める南中時刻になる。
2) 途中経過は略
答 12時16分48秒
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