半澤正司オープンバレエスタジオ

20歳の青年がヨーロッパでレストランで皿洗いをしながら、やがて自分はプロのバレエダンサーになりたい…!と夢を追うドラマ。

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!) 第101話

2020-07-25 08:29:32 | webブログ

おはようございます、バレエ教師の半澤です!
平日の朝は11時から、夕方は5時20分から、夜は7時から
レッスンをやっております。
土曜日は朝11時から、夕方は6時からです。
日曜日は朝10時から、昼の12時からです。どうぞ宜しく
お願い致します。

ホームページ半澤正司オープンバレエスタジオHP http://hanzanov.com/index.html
(オフィシャル ウエブサイト)

私のメールアドレスです。
rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp
http://fanblogs.jp/hanzawaballet3939/
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ルイースと写真.jpg






創業36年、本場博多のもつ鍋・水炊き専門店【博多若杉】


連絡をお待ちしてますね!

2020年12月23日(水)寝屋川市民会館にて
半澤正司オープンバレエスタジオの発表会があります。


Dream….but no more dream!
半澤オープンバレエスタジオは大人から始めた方でも、子供でも、どなたにでも
オープンなレッスンスタジオです。また、いずれヨーロッパやアメリカ、世界の
どこかでプロフェッショナルとして、踊りたい…と、夢をお持ちの方も私は、
応援させて戴きます!
また、大人の初心者の方も、まだした事がないんだけれども…と言う方も、大歓迎して
おりますので是非いらしてください。お待ち申し上げております。

スタジオ所在地は谷町4丁目の駅の6番出口を出たら、中央大通り沿いに坂を下り
、最初の信号を右折して直ぐに左折です。50メートル歩いたら右手にあります。

連絡先rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第101話
レッスンを終えて気持ち良く,タオルで汗を拭き取って
から着替えをした。こんな素晴らしいレッスンを
放っておく手はない。明日も、そのまた次も
ショージは来る気でいた。バレエ団の芸術監督を
しているヴァチェスラフ・ゴルデーエフ氏に向かって
頭をペコリと下げて、「スパシーバ ボリショイ!
イズビニーチェ…モ-シュナ イシチョラス 
ザーフトラ、ザニマッツァ ウ ヴァス?」(どうも
大変ありがとうございました!すみませんが、明日
もう一度レッスンさせて頂きたいのですが、宜しい
でしょうか?)

ゴルデーエフ氏は静かに頭を頷かせたように拝見した。
これはショージだけの勘違いかもしれなかったが、
いずれにしてもショージは必ずやって来る。監督の
返事がどうであろうとショージは来るのである。

気が狂ってしまいそうなほど限界温度の寒さの中、
ショージはそのままボリショイ劇場の関係者入口に
向かった。あそこには4人の侮る事の出来ない爺さん
たちがいるが、ショージはそんな事にはお構い無し
であった。爺さんたちは爺さんたちのしなければ
いけない任務を遂行すれば良いし、ショージも
しなければいけないショージの目標を実行するのみ
だからだ。

「今日は何としてでも劇場内に入り込む…!」である。
しかし色々と考えたのだが、爺さんたちを突破する
手立てが思いつかない。それでも兎に角、行ってアタック
するのみか。「よしっ、爺ぃたちよ、決闘だ~っ!
待ってろよ~っ!」

怒りの爺さん

モスコウスキーバリェット(モスクワ国立バレエ団)の
公演している劇場からは、それほど遠くない位置に
ボリショイ劇場がある。さっきの劇場にしても館内は
何処でも温かいので、外の異常なまでの寒さには震えが
止まらない。が、割合直ぐボリショイ劇場に到着した
ショージは、極々当然のように関係者入口に入った。
ここは二重の入口になっており中に入って行くショージは
さも劇場のお抱えダンサーの様に「ズトラストブチエ~!」
(こんにちは~!)と4,5歩行ってしまおうとしたが、
ショージの耳が敏感に反応したのは爺ぃたち4人の内の
誰かが椅子を蹴って飛び出そうとした音だ。

瞬間にショージはクルッと反転した。すると案の定、
爺ぃ一人が「あっ、お前は…!」ショージは間髪を
入れずに遮った。こういう時こそ、タイミングと
言うものが大事なのだ。 「あー、こっちにあんた方は
座ってたんだよね…ハハ!忘れてた!今日は、ここで
待たなきゃいけない人がいるから、暫くここで待たせて
もらいますよ!」

すると、爺ぃ4人共はショージの事を小悪魔が出現
したかのように身を構えググッと眉を吊り上げて、
口元がへの字になった。一人の爺ぃがショージの胸倉を
掴もうとする手をやや下げて、爺ぃが問いかけて来た。

「な、何?ここで待たなきゃいけない人だと?お、お前が
待たなきゃいけない人とは誰の事だ!事と次第によっては
ぶん殴るぞっ!」 ショージはいきり立っている爺さんを
宥めるようにゼスチャーで両手の平を下げ降ろしながら
「モメントゥ パジャールイスタ!二ビスパコイシエ!
スパコイニエ…ダバイ チ スパコイニエ…」(ちょっと、
心配しなくていいからさ!落ち着いて…落ち着いて…)

すると爺さんの目が見る見る吊り上がり、「は、早く
言えっ!お前は誰に用があるって言うんだ!?お前
なんかに用がある人間はこの劇場にはおらんっ!」
ショージは爺さんの顔を済ました顔で覗き込み、「ほ~、
じゃ言うけどね…」実を言えばショージにはここに
用などある人はいなかった。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第100話

2020-07-24 08:59:27 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
モスクワでの最初のバレエレッスン
第100話
ドジンスカヤ先生は通常のバレエミストレス(指導する
立場の女性の先生)とは違って、実際に自分が動いて
見せるのではなく、言葉でしか伝えないようであった。
舞台の一番奥にいるショージからは遠く、舞台の前面で
客席に背を向けて座っている先生は蚊が泣く様な小声
なので意味が不明で、説明が分らないまま、いきなり
ピアニストが演奏をし始めた。

それに合わせてドジンスカヤ先生は手を動かして
「アー、ラース…!」これはロシアのバレエの先生が
レッスンを始める時や、動く瞬間などに使う本来の
数字の「1」の意味なのだが、本来のロシア語の
数字上では「1」はアジンと言う。何故、「ラス」
と言う言葉を使うのかは今のところショージも知らな
かった。しかし、とても響きの良い言葉だ。

一斉に全ダンサーがバシッと足のつま先を完全に
180度に開き、一番ポジションに用意をしてバレエの
稽古で必ず最初に行う動作のデミプリエ(両膝を
曲げること)に入って行く。

ヨーロッパの何処に行っても外国人という事を意識
させられ、言葉の壁があったショージにとって、
バレエをしている時だけが、自分自身が存在している
という事を実感した。常にショージの脳裏に付きまとい
悩み続けた自問自答の「何の為に生れて来たのか?
お前はただの肉の塊なのだ…」から抜け出せる唯一の
脱出口であった。今こうして見ず知らずのショージをも
混ぜてもらい偉大なドジンスカヤ先生、そして素晴らしい
ダンサーたちと一緒に踊る事が出来るというのが何と
幸せな事なのだろう!

ピアニストの両手で強く叩きつけるように演奏される
ピアノの音と共に、ダンサー同士が同時に命の
ありったけを燃焼出来る…これこそが、ショージを
また明日に向かって生かせてくれる機動力になり、それが
あるからこそ、もっとやろう、頑張ろう、生き抜いてみせる!
と、大袈裟になるかもしれないが勇気を湧かせる事なのだ。

「ああ…バレエって本当に素晴らしい…こんなにも
力をくれる…バレエをやって来て本当に良かった!」と、
ドジンスカヤ先生のレッスンの始まりにはそう思って
いた。ところが、段々とレッスンが進行して行くうちに
とんでも無い事になり始めた。周りのダンサーたちは
平然とやっているドジンスカヤ先生のステップの
組み合わせが恐ろしく難しくなって来たのだ。

そしてあまりにも複雑で分からないものだから、自分の
前のダンサーや周りのダンサーの動きを盗み見している
内に、そのダンサーたちの半端じゃない才能に目も
パチパチとさせながら、「げ~っ!何じゃこのスーパー
ダンサーたちは!?」段々と身体の震えが起き、
足がもつれ頭が真っ白になった。

 このバレエ団の中にはまだ若い、18,19歳のような
ダンサーたちもいれば、かなり歳をとっていそうな
ダンサーもいたが、一つ共通して言えるのは、この
ダンサーたち全員が半端じゃ無いほど凄いと言う事だ。
女性も凄けりゃ、若いのもおっさんダンサーも凄過ぎる!
そう言えばレッスン前に、女の子に頼んで芸術監督の
部屋に連れて行ってもらったけれど、あの小部屋にいた
芸術監督を前にショージは緊張していたので、
「レッスンを受けさせてください…」とお願いするだけで
精一杯であったが、「ミニャ ザブートゥ ゴルデーエフ…」
って確かに言ってた。ゴルデーエフってボリショイバレエの
花形スターでショージが憧れていた、スーパーダンサーの
ゴルデーエフか?「んぎゃ~っ!僕はゴルデーエフと喋って
たんじゃん…!」
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第99話

2020-07-23 08:20:18 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
教鞭を執られる先生
第99話
女の子たちが向かう方向に一緒に後ろから付いて
行くと、「おおーっ!立派な舞台じゃないかっ!」
そして意外に沢山のダンサーたちがそれぞれに
ウォーミングアップをしており、舞台上に設置
された移動バーの数を見て、このバレエ団が
大所帯であるのに驚いた。

男性ダンサーたちはあまり見栄えのしない
レッスン着を着ていた。彼らは無言で何処となく
疲労感を感じさせる雰囲気で床の上でストレッチ
をしたり、バーに足を掛けてレッスンの教鞭を
執られる先生が来るのを待っている。

やがて静かに現れたのは背丈が非常に小さな
老婦人だった。しかも足が恐ろしいほどエックス
脚で、はっきり言って可哀そうになるほど内側に
折れ曲がっており、歩くのさえままならぬ様子
である。頭髪が栗色に染めているが、1950
年代のファッション雑誌に出て来そうなヘアー
スタイルで、ショートヘアーでいながらクルクルと
ウエーブが掛かって頭の天辺に向かって髪が
盛り上がっている。そして体形はちょっと小太りだ。
先生は杖を突いていた。

ショージはこの時に「あれ…この女性と何処かで
会ったことがあったかな?いや、確かにある…
何処だったか…絶対に僕はこの女性を知って
いる!」そう感じた。 やがて舞台のど真ん前の
場所に、さっきショージが「レッスンを受けさせて
ください!」と頼んだ男性デレィクター(芸術監督)が
老婦人先生を大切そうにゆっくりと静かにエスコート
しながら舞台のど真ん中まで連れて来ると、
すっ飛んで端に行き、また急いで椅子を持って現れた。

その椅子はその監督が座るものではなく、教鞭を
執られる老婦人のためにわざわざ持って来たもの
であった。ショージは近くにいる女の子に
「トゥダー…エタ ジェンシナ ペダゴーギ、
カクアナ ザブートゥ?」(向こうの…あの先生の
名前は何と言うの?)

すると女の子は誰にも聞こえないくらいに静かな声で
「ドジンスカヤ先生よっ!レニングラードから
ゲストで来てくれてるのよ…ほら、レッスンが
始まるわ、前を向いて!」と、ディレクターにでも
ばれたら怒られでもするかのように声を押し殺して
いる。

ショージはその女の子の言った先生の名前を聞いて、
ぶったまげた。「お、思い出した…!あの先生は
僕がレニングラードに侵入した時に僕はキーロフ
劇場に入る事を許されなくて、無念の気持ちのまま
ホテルへ帰ろうとしたら劇場の真向かいにある、
もう一つの劇場にモスクワ国立バレエ団がゲストで
来ていたんだ…!

そして僕はそのバレエ団でレッスンに参加した時、
そのレッスンを教えていたのは…バレエ史に残る
偉大で有名な…こ、このドジンスカヤ先生だったんだ!
ま、待てよ…モスクワ国立バレエ団?ここはモスクワ…
あっ!もしかしたらこのバレエ団は…」そう、この
バレエ団こそ、ショージが以前、レニングラードで
偶然にもレッスンさせてもらう事の出来たモスクワ
国立バレエ団だったのである。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第98話

2020-07-22 07:55:59 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第98話
 すると…「ははーん、じゃんじゃじゃーん!あるじゃ
ないか!これだよ…」これは劇場の関係者入口に間違いは
無い筈だ。この関係者入口の中に勝手に入って行く事に
した。薄暗い入口でその中がどの様になっているのかは
全く分からないが、幸いな事に入口を守る門衛は一人も
いなかった。誰も中にはいないのかもしれないが、
なんとなく怖い物見たさ…と言うのもあってどんどん
入って行った。

暗い廊下の向こうに女の子が走って行くのが見えて、
ショージもその女の子に話し掛けてみたいと言う事も
あり、小走りで追いつこうと廊下を曲がった瞬間、
「おーっ、いるわいるわ…!」頭の髪の毛をお団子に
した紛れも無くバレエダンサーの女の子たちが…!
つまりビンゴ!ショージの勘は大当たりだったのだ。

ショージは即、その女の子たちの一人に「今から
レッスンがあるの?」すると女の子はコクンと頷き、
ショージは直ぐにまた、「このバレエ団のディレク
ターは何処にいますかね?」すると女の子は怪しそうに
ショージの顔をじっと見てから、頭の上から足の
つま先に向かって目線を走らせ、ショージが危ない
人間なのかそれとも変質者なのかを知ろうとしている。

「ふふ…お嬢さん、私は危ない人間でも変質者でも
ないのですよ…でも変人と言うのならばその通りかも
知れませんけど…」

ディレクトール(芸術監督)

女の子はショージを見ると「あ…あなたも一応は
バレエダンサーなの?」と言葉に出しては言わない
もののショージがダンサーと言う事を分かってくれ
たのであろう。人差し指を上に向けて折り曲げ、
ピョコピョコと曲げた。つまり、世界的に誰でも
分かる手話の技法で「私の後ろに付いて来なさいよ」
の意味だ。

足が長く金髪で長身の女の子の背後から大きな
バッグを肩に担ぎピッタリと付いて行った。女の子は
階段の傍の小部屋をノックすると、中から初老の男が
ドアーを開いて現れた。男は年が50歳くらいで、
まず女の子に「どうした?」とでも言うような態度を
見せたが、直ぐに女の子が振り返ってショージを見た
ので、それに気が付いた男はショージをじっと見た。

ショージは声を上ずらせながら少し緊張してその
ロシア人の男に英語で話しかけた。「ア、ハロー!
アイアム、ジャパニーズ…キャナアイ テイク 
バレエレッスン?」男は斜めに頭を傾げてショージを
見ている。その姿がまるでショージが飼っていた犬に
説教していた時、人間の言葉が分からない時に首を
斜めに傾けていたのがそれにそっくりだった。
突然知らない男から英語で話しかけられた芸術監督の
顔には「お前の言葉は一体、何処の国の言葉?」とでも
言いたげだ。

ショージは次にロシア語で「ヤ ハチュー ブメ-ス
チェ ス ヴァミ ザニマッツァ クラ~サム?」
(私はあなたがたのバレエレッスンを受けたいのですが…
よろしいですか?)これはただ単に知っているロシア語の
単語を並べただけであったから、これだって理解されなく
ても当然だった。すると意外にも男性は頭を縦に振って、
「ヤ、ディレクトール…ミニャ ザブートゥ 
ゴルデーエフ…。ダー、モーシュナ!パジャールイスタ。」
(私がディレクターです。私の名前はゴルデーエフ。
どうぞ、レッスンに参加しても良いですよ)ショージは
頭を下げて礼を言うと、目の前のトイレで30秒後には
稽古着姿になった。
(つづく)


ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第97話

2020-07-21 08:11:13 | webブログ

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
ビンゴ!
第97話
「ああ、お腹が空いた…何処かで朝食を摂らない
とな…」道沿いにある店の中からモクモクと煙が
出ている。「おっ、何か焼いているのか?
それとも煮ているのかな?」店に入ると10人
くらいが列を作って並んでいた。店の中に大型の
ガラスケースがどーんと置いてあるのだが、その
ケースの中には商品が何もない。

テレビのニュースで「今のソ連には食べ物が非常に
少ない…」という事を見ていたから驚きはしなかった。
では、この人たちは一体何の為に並んでいるのか?
煙の出所を見るとそこに大きな釜があり、とても
良い匂いがする。この匂いはきっと肉を茹でている
のだろう。匂いの正体を知るために並んで待っている
人たちの前を素通りして従業員に聞こうとした。

順番でも抜かされたかのように凄い形相しながら
ショージを見つめるおじさんやおばさん。
「すみませんが、その釜の中には何が入っているの
ですか?」と聞くと男の店員が面倒くさそうに声も
出さずに釜の中から引き揚げた物は大きなソーセージだ。
「うわ、美味そう!」

このソーセージとコーヒーを買おうとしてショージも
列に並び、レジで代金を払うためにルーブル紙幣を
数枚出した。「これで間に合いますか?」と聞いたら
レジ係のおばちゃんが怖い顔をしてショージを睨んだ。
「お札なんか要らないんだよ!ポケットの中のコインを
出せ!」とレジの中のコインを手でつかみジャラジャラ
とレジの中に落とした。買ってもらうという意識では
なく、売ってやるのだという態度であるがたてつく事は
出来なかった。

ショージはソーセージが食べたかったので黙って
持っている全てのコインをおばちゃんに差し出すと
ショージの手からおばちゃんが必要な分だけコインを
取った。ソーセージにかぶりつくとその絶妙な
美味しさと熱さだ。豚の脂身が良く煮えていて
肉汁がジュワーッと出て来て唇と舌が火傷しそうな
ほど熱い。「よしっ、もう一本食べよう!」と残りの
ソーセージを一気に口に押し込み「ゲホッ、ゲホッ!」
となりながら再び列に並んだ。

朝食を食べ終え、ボリショイ劇場へと向かおうと
した矢先、道沿いの向こうの建物の前に大きなポスター
にバレエの宣伝がしてある。そのポスターの絵で
バレエだという事が分かるのだが生憎ショージは
近眼の乱視だからはっきりとは見えなかった。
「ボリショイバレエの公演でも宣伝しているのかな?」
と思ったら、それは建物の入口に近づくにつれてもっと
はっきりと見えて来た。

どうやらボリショイバレエとは関係が無さそうな
ポスターだ。そしてこの建物には入口の上にバレ
リーナたちが踊っている絵の看板が付いてある。
入口はまだ朝だったから閉まっていた。「バレエの
ポスターと看板?ここでやっているっていう事か?
こんな四角いビルの中で…ってことは、もしかしたら…」

ショージは暫し考え込んだ。以前、スペインのバルセロナ
を訪れた事があるのだが、道行く人に「すみません、
劇場は何処ですか?」と訊ねると、そのおじさんが「君は
不思議な事を聞く人だね…君の立っているその場所が
劇場の入り口なのに…」ショージはとても驚いた。
それを今、思い出したのだ。

「そうか…この普通のオフィスビルみたいな建物は
あのバルセロナの劇場の時と同じように、建物の外観の
見栄えが劇場らしくないのに実は建物は二重構造に
なっていて、実際に建物の中に入って行けばちゃんと
劇場が存在してるのかもしれない…」と直感したのだ。
バルセロナのオペラ座の劇場は外側からでは、その
建物の中に目を見張るほどの素晴らしい円形劇場がある
なんてツーリストには絶対想像が付かないほど普通の
古い四角いオフィスビルなのだ。

だが、そのビルの中に足を踏み入れ、更に奥深くに
入って行くと突然巨大な空間が現れ、しかもその内部には
ふんだんに美しい金細工の施された目を見張る様な
素晴らしい円形劇場があるのを見てショージは度肝を
抜かされた事があった。そういう経験から今、モスクワの
この建物の裏側に行けば関係者入口があるのじゃないかと
建物に沿ってビルの背後に廻った。
(つづく)