半澤正司オープンバレエスタジオ

20歳の青年がヨーロッパでレストランで皿洗いをしながら、やがて自分はプロのバレエダンサーになりたい…!と夢を追うドラマ。

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第111話

2019-04-30 08:06:13 | webブログ
おはようございます、バレエ教師の半澤です!

皆様、4月より新しくキッズクラス(3歳から)、そしてジュニアクラス(小学生)
が開設しました!講師は小野杏菜です。たくさんのコンクールでも受賞歴があり、
魅力たっぷりなレッスンになりますよ!どうぞよろしくお願い致します。

通常の平日は朝は11時から初中級レベルのレッスン、夕方5時20分から初級レベルの
レッスン、夜7時から中級レベルのレッスンがあります。
皆さま、お待ちしております!

インスタグラム https://www.instagram.com/hanzawashoji_openballet/?hl=ja
ホームページ半澤正司オープンバレエスタジオHP
(オフィシャル ウエブサイト) オフィシャルサイトハピタス
その買うを、もっとハッピーに。 | ハピタス
皆様、2019年12月26日(木)に私の発表会があります。
もし、良かったら出演してみませんか?バリエーションでも良いですし、
グランパドドゥでも良いですよ!もちろんコンテンポラリーでも
良いですし、オペラでも舞台で歌います?
どうぞ、どんどん出演してください。
私のメールアドレスです。
rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp
http://fanblogs.jp/hanzawaballet3939/
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ルイースと写真.jpg






創業36年、本場博多のもつ鍋・水炊き専門店【博多若杉】


連絡をお待ちしてますね!!

Dream….but no more dream!
半澤オープンバレエスタジオは大人から始めた方でも、子供でも、どなたにでも
オープンなレッスンスタジオです。また、いずれヨーロッパやアメリカ、世界の
どこかでプロフェッショナルとして、踊りたい…と、夢をお持ちの方も私は、
応援させて戴きます!
また、大人の初心者の方も、まだした事がないんだけれども…と言う方も、大歓迎して
おりますので是非いらしてください。お待ち申し上げております。

スタジオ所在地は谷町4丁目の駅の6番出口を出たら、中央大通り沿いに坂を下り
、最初の信号を右折して直ぐに左折です。50メートル歩いたら右手にあります。

連絡先rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
ヨーダのようだ…
第111話
偉い剣幕のおばちゃんにたじろぎながら、「あ、あ…
そうだよね…でもさ、やっぱりもうちょっと安くして
欲しんだけど…」おばちゃんは他所の方を見ながら
動きもせずに、「あー、こりゃイディオート(バカ)だわ…。
あんた、それも忘れているんかいな…。あたしゃーね!
安くなんかしないって言ったんだよっ~!」

ショージはその度迫力と言うか、見えない気の力と
言うのか、その声だけで後ろに弾き飛ばされた。
「うわ~っ!あ、思い出したよ…た、確かにそう言ってた、
その通りだよね…げ~っ!このおばちゃん、妖怪か!?」

おばちゃんは何かモグモグ…とビニール袋に手を突っ込み
ながら、それを口に運んで食べている。おばちゃんを見て
いると、スターウォーズに出て来たヨーダというキャラクター
にも似ているし、日本の元首相の宮澤喜一にも似ている。
マラソン選手の増田さんのロシアンバージョンのお婆ちゃん…
と言っても過言ではない。

ただ、目だけは妖怪だけが持ち得る恐ろしいまでの隙の
無さと言い、近寄るものは徹底的に妖術で懲らしめる
天下無敵の度迫力だ!ショージはテーブルの上の輝く
までの美しさのゴールデンフォックスを見て、「もう一度
被ってもいいかな?」と上目使いで見ると、こちらには
目もくれずにしきりにビニールの中の物を食べながら、
こくんと頷いた。

ショージは目を凝らしてビニール袋の中を見つめると、
「おっ!向日葵(ひまわり)の種じゃん!」急におばちゃんの
顔がオウムにも見えて来た。フォックスをかぶると、
「ああ…なんて温かいんだ…」そして頭に手をやると
可笑しいまでにボワーンと大きく、まるで巨大なマッシュ
ルームのように手に感じることが出来た。「ここに鏡が
あればな…」と思ったが、いずれにしてもショージの頭に
ピッタリサイズであった。「欲しい…どうしても欲しい!
ヤ ハチュ~!」

ネゴシエーション(交渉)

他にも色々なシャプカがあり、明らかに狸や、ちょっと
見当も付かない野獣の毛のシャプカがたくさんあるのだが、
ショージはこれだけが一番綺麗で気に入ってしまったのだ。
おばちゃんはそんな事には全く興味も無いのか、それとも
向日葵の種がそれほど美味しいのか、こっちには目も
くれなかった。

と思った瞬間「おいっ!買うなら金よこせっ!買わないなら
邪魔だからあっちに行けっ!」と恐ろしいほど険悪な表情で
口から向日葵の種の殻をペッと吐き出した。普通のお店の
店員がこんなに酷い客とのやりとりをしたら、「ふざけんな~っ!」
と客が切れて「おいっ!店の主人を出せっ!」と喧嘩沙汰にも
なりそうなはずだが、今は立場が完全に逆で、下手したら
このおばちゃんに張り倒されるかもしれない。

「わ、わかってるよ…ルーブルはこれしか持って無いんだ…」
そう言いながら、おばちゃんにショージの売上げ全部の
お金を出して見せた。するとおばちゃんは、それには
非常に興味を示し、「どりゃどりゃ…?」そして直ぐに
「あんた、こんなはした金でシャプカが欲しいってか?
ふざけんじゃないよっ!全然足りないんだよ~っ!」

ショージは両目を瞑りながら、「ひえ~っ!わ、分かって
いるよ…だ、だからさ、これでどうかな、あのドルで、そう、
ドルで残りを払うってのは?」おばちゃんは、プイっと
向こうを見ながら、「あたしゃ、そんな面倒な物はいらん!
全額ルーブルで頂こうじゃないかっ!自分で勝手に何処かで
両替して来いっ!そんなドルだ~?いらんわいっ…」

もう、こうなるとこの妖怪…じゃない、おばちゃんは箸にも
棒にも掛からなかった。全く話しにならないのである。
「この人、本当にロシア人か?普通、ロシア人ならドルと
言った瞬間に目を輝かせるものなのに。ああ…こうなったら
是が非でも早く両替に行かなきゃ!

」おばちゃんに「じゃ、両替に行ってくるわ!」と言うと
、おばちゃんは興味無さげに、「ヘッ…プッ!」と口から
向日葵の種の殻をショージの方に吐き出した。「あな恐ろしや…!」
(つづく)
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第110話

2019-04-29 08:58:53 | webブログ
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第110話
「マイチキ、エト、スコーリカ パーパストイ?!」(おい、
小僧、これ幾らだ?)おっさんが掴んだのはカシオの腕時計だ。
やはり目敏い。こういう物には超敏感に反応した。

すると通りがかりの人が次々に寄って来て、ショージがまだ
並べ終えていないグッズを手にとっては「幾ら?」の連発だ。
腕時計の値段はショージが言った前回の値段と同様のルーブル
の値段だった。おっさんは3個共に即買いだった。「ほ…
すんげ~!一気に3個売れた…!」そしてポケットティッシュも
5セット完売…まだ店開きも済んでいないのに、商売成立
だった。

強き事 岩の如し

群衆の心理というのは面白いもので、周りの人々は
ショージのバッグを見ながら、次に何が出て来るのか
目敏く見ているのだが、あっという間に歯磨き粉と
歯ブラシは同じ人が2つとも買ってくれた。若い奥さん
のような女性がストッキングを見て、「これ幾ら?
」すると横のおばちゃんが、3つ掴んで、「これ頂戴!」
もう値段なんか関係無いみたいだ。

それもそのはず、ストッキングはこのロシアでは非常に
貴重な物だったのだ。ショージはバッグから、ショージの
食べるはずだった揚げ煎餅と柿の種の辛いオカキを出した。
するとおっちゃんが「シュト エタ?」(なんだいそりゃ?)
と不思議そうに尋ねた。「アー、エト、ヤポンスキー 
クレーチェル!」と答えると、「ワッハハ!よし、買う!」と
これまた完売。そう言う事であっという間に全てが売れて
しまった。

この全ての売れた金を数えてみたが、シャプカ(ロシアの
獣の帽子)の値段には届かない。半分の値段にも到底
届かなかった、「後は交渉するか…」おそらくあの怖い、
おばちゃんには交渉の余地は無いとは思ったが、ショージの
切り札は何と言ってもドルだ。これだけは必殺のアイテム
であるから、「よし、おばちゃんに直談判しよう!」

 ショージは店を畳んでおばちゃんの所に行くと、
おばちゃんはショージの顔を見ても「ん?」とも反応
しないし、微動だにしないで「きっつい目で僕を睨んで
いるのはどういう訳だろ?これじゃ岩だよ…おばちゃんは
ストロング アズ ロックと辞書で引けそうだぞ!」

おばちゃんの前の小さなテーブルには「お、あるある!」
ゴールデン・フォックスの輝くばかりの毛がフサフサの
帽子が堂々と置いてあった。「おばちゃんは多分、何の
反応も見せないところからすればきっと僕の事なんかは
忘れてしまっただろうな…んじゃ、もう一度値段を聞いて
みるか?少しは安く言い違えるかもしれないし、もし
前回よりも高く言ってきたら、この前はもっと安かった
じゃない!」と振り直せるか。

 「あー、こんにちは…おばちゃん、これ幾らかな?」
おばちゃんはヒキガエルのような顔つきで「あんた相当な
バカ?この前、値段を聞いたんだろが!そんなに早く忘れる
のかい!」「…?」ショージはおばちゃんを見ながら口から
言葉が出なかった。「このおばちゃんは岩は岩でも、ただの
岩じゃなかったか!」
(つづく)
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第109話

2019-04-28 08:00:28 | webブログ
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第109話
結局、アンドリスが体操選手のような衣装を着けた
バレエはボリショイバレエの芸術監督のユーリー・
グリゴローヴィチ氏が振り付けた「ゴールデンエイジ」
と言うらしい。日本名は「黄金時代」とでも言うので
あろうか。やっている事は凄いのだが、今一つ、ショージは
このバレエが好きにはなれなかった。

リハーサルが終わりショージもこの空間…つまり、劇場から
出て行かなければならない。「ああ…アンドリスはもう
こっちの客席には来ないのか…待てよ?舞台の後ろにいる
かもしれないな!」急いで舞台裏に回ってみたが、もう誰も
いなかった。仕方もなく劇場から出るしかない。が、大きな
問題が2つある。この劇場に入る時に使った「帝王の門」
から出て行けば何の問題はないのだが、それはエンジェル
とも言うべき美女のバレリーナ、リュドミラ・セメニャーカに
腕を組んでもらって通って来た迷路のような複雑な廊下の
道順をショージはもう全然覚えていないのだ。

そして更なる問題は、ダンサーたちの皆と同じように一緒に
劇場関係者の入口から出ようと思えば、劇場関係者に向ける
顔は良い翁なのに、ショージだけに向ける顔は恐ろしい鬼の
ような顔をした4人のバラエティーに富んだ爺さんたちと、
晴れて再び御面会になってしまうという事だ。

「だが待てよ…僕を劇場内に入れてくれたのはリュドミラ
なのだから爺さんたちに怒られる筋合いもないか…」
それでも関係者入口で再び問題にならないように大きな
ダンサーたちと一緒にスーッと門を出た。外に出てから
後ろを振り返り「爺ぃたちよ、まさか僕が劇場内に入って
いたとは君たちもよもや気が付くまい。何て気持ちの良い
ことだろう!さ、僕にはまだやり残している事があるから
行きますかっ、いざ、プロスペクト・ミーラの公園に!」

そこにはショージの欲しい物がある。思いっきり毛が長い
ゴールデンフォックスのシャプカ…そう、帽子があるのだ。
しかし、もしかしたら既に誰かに買われてしまっているかも
知れない。「いずれにしても、あそこで商売をしなきゃ
いけないし、あの帽子は飛びきり温かいんだろうな。
持っている物が全部売れさえすれば、狸でもネズミの毛
でも何でもいいから、紳士用の帽子を早く手に入れたい!
今、僕がかぶっているのは、御高齢用の女性の帽子だからね…
ハハハ!」

商売再開

公園に着くと、早速、あのシャプカのおばちゃんを探した。
おばちゃんは「帽子が売れたらこんなの所にはもう居るはずが
ないじゃないのさ!売れなきゃ、ここ居るってんだよ!」
目を恐ろしく吊り上げて、怖~い顔をしてショージを睨んで
いた。「もうシャプカは売れちゃってるかな…。おばちゃん、
おばちゃんは…お~っ!いるじゃん!はははっ!おばちゃん
、売れなかったんじゃんよ!よ~し、こうなったら僕も
どこかで商売道具を並べるぞ!ん?よしっ、あそこのティー
シャツを売っている人の隣に隙間が空いているから、あそこに
しよう!」

バッグからショージの選んだ、ヒット商品100選とは…
そんなには無いけれど、グッズを取り出した。そして前回と
同様に黒いバッグの外側と中側を逆さまにして底に当たる
平らな部分を上にしてグッズを並べた。歯ブラシ、歯磨き粉、
ストッキング4つ、ポケットティッシュ20個入りを4個
ずつに分けて5セット、カシオの腕時計3個、インスタント
ラーメン、カレー粉、まだまだ続いた。

並べている傍から、隣にいるティーシャツを売っているおっさんが
「おーっ!」と言いながら、自分の商売を放ったらかして
ショージの商品の前に来て、いきなり客に早変わりした。
(つづく)
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第108話

2019-04-27 08:51:31 | webブログ
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第108話
「よしっ、ここが客席に繋がるドアーに違いない…」重い
ドアーを開くと「おーっ!」ボリショイ劇場の舞台上では
衣裳を着けたダンサーたちの熱いリハーサルの真っ最中だ。
そして客席のドアーを渾身の力を込めて「エイッ!」と開け、
入って行くとショージはまず舞台を見てから客席に目線を
移した。

するとそこには数十人のダンサーやらスタッフがその
リハーサルを見ていた。丁度その時、舞台上にアナウンス
が入りどうやら小休止のようだ。ショージが顔をキョロ
キョロさせていると、客席の椅子から立ち上がった巨人が
「おー!なんだ、ここに来ていたのか?」と向こうの方から
声が掛かった。ショージはその巨人を見るなり、「おーっ!」

勿論誰なのかは知っていた。それは紛れも無くアンドリス・
リエパだった。このバレエ団のトップ契約のプリンシパル
(最高ランクのダンサー)に昇格したてのホヤホヤで、
西ヨーロッパでもダンスマガジンなどを賑わしている実に
素晴らしいダンサーなのだ。

彼はニーナ・アナニヤシヴィリと共にモスクワ国際バレエ
コンクールで堂々の一位に輝いたばかりで、彼も彼女も
ショージが所属しているスウェーデンのゴッセンブルグ・
バレエ団に「白鳥の湖」全幕にゲストで数回ほど来ていた
のだ。ショージとアンドリスはテクニックに更なる磨きを
加える為にリハーサルの後には必ず稽古場に2人で残り、
思考と努力を重ね、技術の向上のための開発を共にした、
いわばブラザーなのである。と多分ショージは一人合点している。

客席の椅子にはまだ沢山のアンドリスの同僚のダンサーたちが
座っているのだが、皆、一斉に同じ方向に歩き始めた。
アンドリスはショージに唐突に「あ、あのさ、これ見ろよ!」
と椅子の脇に置いてあった物を掴むと、ショージの顔の
前に高々と見せつけ、「いいだろ?買ったんだよ…。どうだ?
すげーだろ?」と自慢たっぷりのアイテムはビデオカメラ
だった。つまりハンディカメラの初期モデルであった。
偉く大きなビデオカメラだ。

その当時はまだまだソビエト連邦には普通の人の手には
絶対に持つ事の出来ない超高額電化製品で、モスクワでも
滅多に見る事の出来ない代物なのだ。彼の巨大な身体の
前では小型化のビデオカメラに見える。こんな優れ物を
持っているのはこの世界の最高峰のバレエ団の中でも
おそらくは彼のみであろう。しかし、アンドリスは
いつ見ても実に格好の良い男だ。

「あのさアンドリス、お願いしたい事が…」と言い掛けた時、
「あっ、俺の出番だ!急がないと…」アンドリスは舞台
目がけて走って行ってしまった。「ああ…レッスンさせて
もらえるようにお願いしたかったのに…ま、ここに座って
いればまた会えるか…」とショージ以外には誰もいない
巨大なボリショイ劇場の客席に一人で座った。

それにしてもこうしてボリショイ劇場の中にまんまと侵入し、
途中から見始めたこのバレエのストーリーも、このバレエ
自体の名称も全く分からない。それと、はっきり言って
このバレエは全然面白くない…と、これが、一ダンサー
としてのショージの感想だった。

ボリショイならやはり古典が1番見たかった。そして
世界中にそのボリショイバレエ芸術を広めた大ヒット作の
バレエ「スパルタクス」を生で見れたら最高なのだが。
(つづく)
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第107話

2019-04-26 08:54:51 | webブログ
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第107話
この女性の顔をまともに正面から見れば、何処かで
見覚えのある華やかな顔立ちだった。「あっ!
こ、この人!」ショージは意を決して聞いてみた。
「あなたはリュドミラ・セメ…」すると目をパッチリと
開いてショージを見つめながら、その美女はゆっくりと
「カニヤーシュナ!ミニャ ザブートゥセメニャーカ!
ニポンメニャシュ ミニャ―?リュドミラ・セメニャーカ!」
(勿論!私の名前はセメニャーカよ!あなた、忘れて
しまったの?リュドミラ・セメニャーカよ!)

その優しい性格が表れていそうな高いトーンながらも、
鼻に掛かった甘い声が終わらない内にショージは声が
出なかった。心の中で、「ンギャ~っ!!リュ、リュ、
リュドミラ・セメニャ~カ~っ!ドッヒャ~っ!」
ショージは心臓が破裂しそうになった。ショージはこの
セメニャーカとバリシニコフの2人のキーロフバレエ団
時代のドンキのパドドゥなどをビデオで見て大ファン
だったのだ。「なんて可愛らしい人で、チャーミングな
女性なんだろう。

その憧れのセメニャーカと僕はつい今の今まで腕を
組んで歩いていたんだ!」しかし人間とはあまりに
夢の様な憧れの人が傍にいたら、と言うよりも鼻と鼻が
ぶつかりそうな近さだと案外に気が付かないものなの
かもしれない。「それともそんなのは僕だけか?」
グリーンの瞳の美しく小柄で痩せた、雰囲気の温かい
バレリーナのリュドミラは行ってしまった。

貴賓室の広間に一人取り残されたショージは、テーブル
クロスも眩しいとても大きな丸いテーブルに座って暫く
ボンヤリとセメニャーカの事を考えていたが、目の前には
巨大なイクラの山だ。巨大な銀杯の皿に鮭数十匹分の
イクラを前にして、ショージの巨大な鼻が敏感に
反応した。そして脳がショージにこう言った。
「遠慮しなくても良い…好きなだけ食べても良いのだ!
お前はイクラがこの上も無く好きではないか。涎など
垂らしていないで、頂ける時にはしっかりと頂きなさい!」

不思議なものでイクラを見たらリュドミラの事が一瞬
どこかに吹き飛んだ。ショージは小皿を持って傍に
置いてある薄いパンを取り、その上にバターを塗った。
そして大きなスプーンでガバッとイクラを乗せると口に
パクッ。そしてパクッ、パクッ!ちなみにロシア語では
食べることを「パクーシャチ」と言う。

腹は満腹になって幸せで絶頂になった。「あ~、タッパ
持ってくりゃ良かったな!」しかし、そんな卑しい考えを
していたらきっといつか罰が当たるのも知っていた。

立ち上がる巨人

口の周りをバターとイクラでベタベタにしながら、
「おっ!こんな所でグルメに浸っている場合じゃ
なかった。僕は一体何をしているんだ!」と目的を
うっかり忘れてしまっていた。慌ててその貴賓室から
出て、ボリショイ劇場のスタッフが通れる内部を
うろついた。すると「やった!」いつの間にか舞台の
裏側に来ていた。そこから正面方向に廻って客席へと
向かった。

音がジャンジャカ鳴っているところを見ればどうやら
舞台上ではリハーサルが行われているのであろう。
リュドミラも「私、今からリハーサルに行かなきゃ
いけないから…」と言っていた。「じゃあ、きっと
彼女も舞台上にいるのかな…」
(つづく)
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