半澤正司オープンバレエスタジオ

20歳の青年がヨーロッパでレストランで皿洗いをしながら、やがて自分はプロのバレエダンサーになりたい…!と夢を追うドラマ。

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第73話

2018-03-31 08:59:25 | webブログ
おはようございます、バレエ教師の半澤です!
http://hanzanov.com/ ホームページ
http://hanzanov.com/official/オフィシャル ウエブサイト)
皆様、2018年12月26日(水)に私の発表会があります。
もし、良かったら出演してみませんか?バリエーションでも良いですし、
グランパドドゥでも良いですよ!もちろんコンテンポラリーでも
良いですし、オペラでも舞台で歌います?
どうぞ、どんどん出演してください。
私のメールアドレスです。
rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

連絡をお待ちしてますね!!
http://fanblogs.jp/hanzawaballet3939/
朝は11時から初中級レベルのレッスン、夕方5時20分から初級レベルの
レッスン、夜7時から中級レベルのレッスンがあります。
皆さま、お待ちしております!

Dream….but no more dream!
半澤オープンバレエスタジオは大人から始めた方でも、子供でも、どなたにでも
オープンなレッスンスタジオです。また、いずれヨーロッパやアメリカ、世界の
どこかでプロフェッショナルとして、踊りたい…と、夢をお持ちの方も私は、
応援させて戴きます!
また、大人の初心者の方も、まだした事がないんだけれども…と言う方も、大歓迎して
おりますので是非いらしてください。お待ち申し上げております。

スタジオ所在地は谷町4丁目の駅の6番出口を出たら、中央大通り沿いに坂を下り
、最初の信号を右折して直ぐに左折です。50メートル歩いたら右手にあります。

日曜日のバリエーションは「眠りの森の美女」よりオーロラ三幕からの
ヴぁりえーしょんです。
皆さんと一緒に学びましょうね。
ではクリスタル・ルームでお待ちしておりますね
連絡先rudolf-hanzanov@zeus.eonet.ne.jp

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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
スウェーデンの第2首都、ゴッセンブルグ
第73話
スウェーデンには、2つのバレエ団があることを
知った。1つはロイヤルスウェディッシュ・
バレエ団で首都ストックホルムに所在するが、
もう一つはゴッセンブルグバレエ団(日本
読みはギョテボルグ、または、ヨーテボリバレエ
団)だ。スウェーデンの第2首都的存在である。
日本で言えば大阪に当たる。

地図を見ながら、そのすぐ左横にはノルウェー
という国があり、その国の首都のオスロは
ゴッセンブルグからは非常に近い。まずは
ゴッセンブルグバレエ団に電話を掛けてみた。
ショージ「あの、すみませんが…ダンサーの
空きは有りますか?」相手「ああ、1つだけ
なら有ります。」ショージ「ほ、本当ですか!?
男性ですか?女性ですか?」相手「出来れば
男性を探していますが…」ショージは念を
押して聞いてみた。「身長は175センチで
日本人です。問題は無いでしょうか?」
当地に着いてから問題が出ないように絶対に
聞いておく必要があるからであった。

実際にそこまで行ったは良いが、白人でなければ
とか背が低いとかいう理由で断られないかを
前もって聞いておく必要があるからだ。
ショージの財布の中は旅費と食費の分を考慮
すると限界があった。もし、このひと月以内で
仕事がなければ、乞食になるか、飢え死にする
しかない。まさに「背水の陣!」必死に聞き出した。

相手「何か訳有りなのですか?凄く切羽詰った
感じに聞こえますが…?」ショージ「切羽
詰まっている?その通りなんです!私、直ぐに
でも行きます!オーディションはいつが可能
でしょうか?明日は、船の関係で無理ですが
明後日なら行けます!お願いします!」
相手「ここに芸術監督がいますので、ちょっと
聞いてみますね…。」

しばらく沈黙があり、相手「では、明後日に
お待ちしています。あなたの名前は?」
ショージ「ショージ!マイネーム、イズ、
ショージ!」よっしゃ~っ!

ゴッセンブルグ・バレエ団のスタジオ

劇場から歩いて10分ほどの距離の場所にその
スタジオは所在した。ショージは意を決して
スタジオ内に入ると近くにいた女性がショージに
近づいて来て、「あなた、誰?」と聞いて来た。
「私は先日、オーディションしてもらえると
約束して頂いた日本人です…」と応えると、
「ああ、あなたなの…。明日が約束の日だった
はずですが…朝、劇場で…と」ショージは約束を
守らなかった事がいけなかったんだなと躊躇
しながら「そうなんですが、早く着いてしまった
から見学に来たのですが、邪魔だったでしょうか?」
すると、「別に邪魔ではないけれど、ちょっと
待っていてください。ディレクターはあの椅子に
座っている方だから、挨拶したら
いいわ…」

秘書の女性は、ディレクターに突然の来訪者が
来た事をその場で伝えた。しかしディレクターは
椅子からは立とうとせずに、そのまま座った状態で
ショージに手を上げて挨拶を返しながら、振り付け
を続行した。
(つづく)

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第72話

2018-03-30 09:08:02 | webブログ
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
レッジオエミリア駅のプラットフォーム
第72話
とうとうイタリアを去る最後の日となった。電車が
来るまでランドルは10メートルも向こうで背中を
向けて立っており、ロバートも話しかけては
くれない。電車が到着した。

ショージの顔を見ようともしない向こうのランドルと
ロバートに最後の礼を声にした。「今まで本当に
有難う、とても楽しかった!君たちの事は絶対に
忘れないよ…」

その刹那、ランドルが走り寄って来て「うわっ~!」
っと叫びながら石敷きのプラットフォームに泣き
崩れた。「え、ラ、ランドル…!?」ランドルの
こんな泣く姿など見た事もなかった。「ショージ、
ドントゥ ゴー!、ホワイ?ホワイ、アーユー
ゴーイング?」石敷きのプラットフォームに咽んで
いるランドルをショージは呆然と見つめ、次いで
ロバートを見ると、普段はブルドッグの様なガッシリ
とした身体の静かなロバートが肩を震わせて泣いて
いるではないか!

「あ…!?」 ショージは電車に乗り込み2人に
声を掛けたくても、涙で詰まってもう声が出ない。
無情にもドアーが閉まり2人が見る見る流れて
去って行く。ランドルは地面にうつ伏して泣いて
おり、ロバートは頭を抱えているのが最後の別れ
となってしまった。

電車のドアーにしがみつくショージは、「ランドル…
ロバート…いつかまた会おうね!ありがとう…
今まで本当にありがとう!」心の友だちがそこに
いた。列車は、ひたすら北欧へと走って行く

絶対絶命!

巨大船のシリアラインがフィンランドの港に横づけ
された。首都ヘルシンキに到着したのだ。まだ朝が
早かったのだが、トラム(路面電車)に乗り込むと
セントラルステーション(鉄道の中央駅)にやって
来た。「ここで新しい生活が始まるんだ…」と感慨も
一潮だ。

「ああ…なんて美しい国なんだろう…」そして
この国にもオペラ座がある。ショージの夢に見た
ロシアはこの地平線の向こうにあるのだ。ショージは
胸一杯に空気を吸い込んだ。「よしっ、行くぞ!」 
バレエ団の芸術監督を担っているドーリス・ライネ
女史の部屋に入ると開口一番、「んー、惜しかったわ!
あなたからの連絡が来なかったから、つい先日に
新しいダンサーと契約をしたところなのよ…、
あなたは連絡もして来ないから、いつこのバレエ団に
やって来れるのかも分からなかったものね。残念ね、
また空きがあったらその時ね。」

ショージは身体が凍りつき、あまりのショックに
口が開かなかった。取り敢えず、今何を言われた
のかだけを把握出来たので「さようなら…」とだけ
言い残して、このヘルシンキ国立劇場を後にした。

 お先真っ暗とはこの事だ。しかし頭を抱えて
しょぼくれている悠長な時間などはない。財布に
残っている金の事を考えると、もう走るしか
なかった。一体何処に向かって走るのか?本屋だ。
本屋に行き、片っ端からバレエ雑誌を読んだ。
「何処でも良い、本当に何処のバレエ団でも
良いから直ぐに雇ってもらえる所を見つけないと…!

今更、イタリアのバレエ団に引き返すことなど
出来ないのだ」ショージの手元には1か月分の
生活費しかない。仕事がなければもうそこで終りだ。
食べる事も動く事も出来なくなる。「あー、ど、
どうしたらいいんだ…絶対絶命か!?」
(つづく)

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第71話

2018-03-29 09:12:01 | webブログ
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第71話
 とても重い口調でマリネル氏が口を開いた。
「ショージ、もう一度確認したいのだが先日君が
言っていたバレエ団を辞めたいと言う話は本心
かね…?」ショージは二人に向かって言った。
「このバレエ団が嫌になった訳などではありま
せん…。私は拾って頂いた事に心より感謝して
います。マエストロやリリアーナを心より尊敬
しています。ただ、どうぞ分かってください、
この私には更なる勉強が必要なのです!」

その刹那、マリネル氏がショージに大声で罵声を
浴びせた。「馬鹿もーん!ショージ、私はスイス
だろうがロシアだろうがイギリスだろうが、
世界中に声が届くのを知っているか!お前が
何処にも行けない様にする事なんか訳無い事さ!
絶対に行かせないからな!」マリネル監督の酷い
言葉にショージは絶句するのと同時に何故ショージが
バレエ団を辞めて他に行く事を許してくれないの
かが理解出来なかった。

ショージは心の中で思った。「僕をこのバレエ団に
必要としているからだろうか…?もし、そうなら
こんなに酷い事を言わなくても「居て欲しい」と
言ってくれたら良いのに…。仮にマリネルがそう
言ったとしても僕の心は変わりはしないけれども…」
マリネルが声を上げて聞いた。「次の場所は何処だ?
ドイツか?まさか、ロシアじゃないのか…お前、
ロシアに憧れていたよな…?もしロシアなら直ぐに
電話してビザを発給出来ないようにするからな!」

 リリアーナが助け舟を出した。「マリネル…、
なんて言う事を言うの?お願いだから、大声で
そんな事を言わないで…」ショージはこの瞬間に
自分の心の中ではっきりと決めた。「この月の
最後まで働いたらこの国を出よう!」と決心した
のだ。ショージはもう誰もいなくなった更衣室の
ベンチに座って、この国を出るために最初にしな
ければならない事は何なのか考えた。数日が経ち、
とうとうイタリアを出て行く日が来た。

イタリア生活の終止符

ダンサーたち全員の顔をゆっくり見渡しながら
ショージは「皆、ごめんね…でもありがとう!
僕は皆の事を忘れないからね。ここに来れて
本当に良かった。皆に出会えて良かった!」
これが最後の言葉であった。事務局の方々、
衣装制作の老婆マリア…マリアはショージの
ために泣いた。「有難うマリア…!」そして
バレエ団の入り口に差しかかった時であった。

入り口にはバレエ学校の生徒たちやお母さんたちが
立っていて、「ショージ…本当に行くの?
行っちゃうの?」ショージはとても驚いた。
「何故、この人たちは僕が去るのを知っているの
だろう?」しかもショージの知らないお母さん
たちまで涙を流しているのだ。「ああ…知らな
かった!今の今まで気が付かなかった!これほど
まで僕を心配してくれた方々がいた事を…!」

遂に我慢していたものがショージの両目から
溢れ出した。「グラッツイエ!グラッツイエ!
ソノ モルトフォルトゥナート!…エ、ポイ 
イオマイ ディメンティカーレ、レッジオ
エミリア!!」(ありがとう…ありがとう…
僕は幸せ者です!そして僕はこのレッジオ
エミリアを永遠に忘れる事はありません!)

 「チャオ、トゥッティ…イオ、ノンディーレ、
アリベデルチ!パルケ、ウンジョールノ、
イン フルトゥーラ、リトールノ クイ!
チャオ!、トゥッティ!」
(じゃあ…皆さん私はさよならは言いません…
いつの日か、またレッジオエミリアに戻って
来ます!じゃあ…、皆さん!)ショージは手を
大きく振ってバレエ団を後にした。
(つづく)

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第70話

2018-03-28 08:42:56 | webブログ
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第70話
ショージが中まで入って行き、着替え中の
マエストロを上目づかいで見ると監督は上半身
裸で着替えをしながら言った。「何だ?ちゃんと
食っているか?」ショージはおずおずと「はい
マエストロ、ご飯ならちゃんと食べています…
あの…今月でバレエ団を辞めても良いですか…?」
と切り出してみた。

すると…「ワハハハ!何を言い出すかと思ったら、
誰かと喧嘩でもしたのか?ん?それとも身体の
調子が悪いのか?大体お前は痩せ過ぎだぞ!
ちゃんと食わないからだ!」と、てんで話に
ならない。

「あの…、実はそんなんじゃないんです…」
マリネル氏は「ふっ…!疲れているんだお前は!
今日はもう帰れっ!」と言われ全く理解して
もらえないまま終わった。「どうしたらいい
のか…」ショージはそのままアパートに帰ると、
ランドルが聞いて来た。「交渉は成立したのか?」
ショージは「へ…交渉?あーっ!」ランドルは
給料の交渉をしに行ったのだろうと勘違いしたのだ。
「ん~、流石は自称ビジネスマン!」

だが、暫くはランドルにもロバートにもその話の
全貌は言えなかった。話したところで誰も共感
などしてくれない事は判り切っているし、逆に
冷たくされるのも嫌だったのだ。 ショージは
ただ首を横に振るとランドルは「いや~、
失敗か…。しかしお前に先を越されるとは、
夢にも思わなかったよ…!そうか、失敗か…」
暫く考え込んで続けた。「ショージ、絶対に
俺はやって見せるさ!俺には第一、ちゃんと
説き伏せる思案がずーっと前から考えてあったん
だからな!」なるほど…。流石は自称ビジネス
マンだ。

聞いているうちにショージとロバートの給料も
彼の歩調に合わせながら上がって行くに違い
ないと確信させられそうだ。ショージは
ランドルに一つだけ助言させて貰う事にした。
「ランドル、でもね君も言われるよっ!そんな事を
言うのはお腹を空かせているからだろうって…。
ちゃんと食わないからだって…」

 ランドルは眼をギラつかせながら、「俺を甘く
見るな!アイ、アム、ビジネスマンさっ!」
ショージはランドルの自信たっぷりの横顔を
見た後、向こうに座ってテーブルに付いている
ロバートが静かに食べている。そう、ロバートは
静かにあの「ロバートの豆」を食べているのだった。

リリアーナとマリネル…2人の芸術監督の応えは…

マリネル氏の更衣室のドアーを叩いてから、
数日が過ぎた。リハーサルが無い日のレッスン後、
マエストロのマリネル氏が「ショージ、2階の
面談室に来なさい…」ショージは何か嫌な予感が
した。「何故、面談室なんだろう…?」いずれに
しても、言われるままに、「先生、分かりました…」

初めて2階に面談室などという部屋が有るのを
知ったが、綺麗なイタリア独特のインテリアで
施され大理石の床は勿論、ソファーの見事さと
大テーブルに驚いた。更に凄いのは、マリネル氏と
同様にこのレッジオエミリア・バレエ団を経営・
監督をしているリリアーナ・コージ女史までもが
いた事だ。「何故だ?どうしてリリアーナまで
ここにいるのだろう!?」
(つづく)

ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)第69話

2018-03-27 08:57:17 | webブログ
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ブルーカーテンの向こう側…(男バレエダンサーの珍道中!)
第69話
ショージは日本からイギリスに留学し、そこから
イタリアに来たのだが、ヨーロッパの色々な
バレエ団を実際に自分の目で見た時、ショージが
働いているイタリアの小さな田舎町のバレエ団との
大きな違いを感じた。

スイスやドイツの殆どのバレエ団は劇場の中に
稽古場を持ち、とても華やかな環境の中でプロ
ダンサーとしての仕事内容も大変充実していると
感じたのだ。また、給料の多さにも驚いた。
ショージは彼らの半分も貰ってなかった。 

そしてバレエ団の中で働くダンサーたちの精神面
の違いにも気付かされた。ショージが働くイタリア
のバレエ団は元々、バレエ学校から始まり、その
卒業生を使ってバレエ団が出来上がったのだ。
生徒がそのままプロとして僅かな給料を貰って
働いている訳だが、ダンサーたち全員は自分達の
先生であり、監督でもあるマリネルを極端に恐れ、
監督も子供をあしらう様な態度でダンサーたちに
接した。ショージはこのような環境が好きになれ
なかった。

この頃からショージは近い将来、今のイタリアの
バレエ団を辞めてスイスかドイツの大きなバレエ団
で活躍したい、腕を更に磨けばそれに見合った報酬
が貰えるだろう…と夢見るようになった。そして
武者修行して他の有名なバレエ団の素晴らしい
ダンサーたちを見ているうちに彼らにはあって、
ショージには無い、ダンサーとしての技術や表現の
違いにも気付いた。だがその違いをどう乗り越えて
いけば良いのか見当が付かない。

そんな中、ショージはロシアにまで潜り込み、
そのダンサーたちの素晴らしさや徹底された
教育に度肝を抜かされた。当時ロシアはまだ
共産主義国であり、日本人どころか他所の国の
人々をも絶対に寄せ付けない鉄のカーテンに
包まれた国であった。
 
それでも、何とか侵入に成功してその片鱗を
束の間だけ見ることが出来た。「ああ…僕も
ロシアで勉強がしたい…」そんな想いから
ショージが北欧で仕事を見つける事さえ出来れば、
いつかまたロシアに潜り込み、勉強が出来る日も
来るに違いない…と、フィンランド国立バレエ団
でオーディションを受けたのだ。駄目で元々の
気持ちで挑戦したオーディションは、意外にも
芸術監督に気に入られ受かった。しかし難問は、
ショージがまだイタリアのバレエ団と契約中で、
辞める手続きなど執っていない事であった。

勇気を出して監督に…

リハーサル後にランドルとロバートがバレエ団の
建物を出て行くのを確認してから、芸術監督の
マリネルの更衣室へ向かった。心臓が飛び出そう
なほど緊張した。何故ならショージは彼が怖い
のだ。威厳に満ち溢れ、絶対的な権力とパワー
を持ったそんな芸術監督の前で「ちゃんと話せる
のだろうか…」心配でいっぱいだった。

取り敢えずノックをすると中からイタリア語で、
「誰だ!」ショージは上擦った声で「ソノ、イヨ…、
マエストロ!ショージ!!」(私です、先生、
ショージです!)ショージたちダンサーは芸術
監督のマリネルをマエストロと呼ぶ習慣になって
いた。「ショージだと!?何をしている。中まで
入って来い!」初めて入るマエストロの部屋
となっているドアーを開けるとそこは長い廊下に
なっており、その先はカーテンで見えない。
ショージがこのバレエ団に来て以来、このドアーを
ノックしたダンサーを見た事がなかった。皆、
監督を怖がっているからだ。
(つづく)