ボブ・ディランは私のリスペクトするミュージシャン。
知名度も功績も、残した作品の質も、飛びぬけている存在だ。
だが、ディランを聴いたことがない人に、ディランを勧めるとなると、これがけっこう難しい。
特に女性に。
どのアルバムを初めに聴いてもらったらいいか・・・という点で、けっこう悩む。
いきなりデビューアルバムからだと、ちょっとハードルが高いと思うし・・。ディランのデビューアルバムは、決して「聴きやすい」アルバムではないからね・・・。
無難なのは、グレイテストヒットものだろう。
だが、そういう編集アルバムではなく、オリジナルアルバムとなると、難しい。
これがビートルズなら、初めて買うビートルズアルバムとなると(グレイテストヒットは除く)、ある程度どれを選んでも有名な曲が入っているし、楽曲は親しみやすいし、さほど悩まない(まあ、いきなり「イエローサブマリン」というアルバムだと、ちょっと困るかもしれないが)。
中でもアビーロードやハードデイズナイトあたりを選んでおけば、その後も自分でアルバムを買い続けてくれそうな気がする。
だが、ディランとなると・・・しかも、ディランの音楽を聴いたことがない女性で、普段は聴きやすい音楽を聴いてる女性に勧めるとなると・・。
う~む。
一般的には、「ライク・ア・ローリングストーン」の入っている「追憶のハイウェイ」か、最高傑作とされている「ブロンド・オン・ブロンド」あたりなのかもしれない。
ディランの代表曲としては「風に吹かれて」があげられることが多いが、それが入っているオリジナルアルバムとなると「フリー・ホイーリン」なのだが、これは初めてディランを聴く人に勧めるのは、すこし酷な気もする。
ほぼ全編弾き語りで(わずかにバックがついてる曲もあるが、バック演奏の存在感は薄い)、しかも声がかなりアクが強い。
中々バラエティに富んでる内容ではあるのだが、アルバム通して聴くと、初めて聴く人は途中で飽きてくるかもしれない。
ディランは、アルバムによって、声も違うし、顔も違う(これ、ホント)し、サウンドも全く違ったりする。特に60年代から70年代中期あたりまでは。
ディランが一番大活躍をしてた時期は60年代だと思うが、60年代に発表したアルバム類は、その違いたるや、まるで別人が発表したようなめまぐるしさだ。
一番いいのは、やはりデビューアルバムから発売順に聴くと、その変貌ぶりがよく分かり、面白い。
だが、それだと、デビューアルバムから4枚目の「アナザーサイドオブボブディラン」までは、弾き語りアルバムなので、当初は聴きづらいかもしれない。だが、それを通りこしたうえで出てくる5枚目のアルバム「ブリンギングイットオールバックホーム」でのいきなりのエレキバンド登場を聴くと、「やった!」と私は思ったもんだった。
その変貌ぶり、違いに胸のつかえがとれたような。
それまで・・若干我慢して、少し疲れながら聴いてた部分があったのだが、「ブリンギングイット~~」で一気に報われた気になった。
で、続く「追憶のハイウェイ」や「ブロンドオンブロンド」で、一気にディラン熱が私の中で加速した。エレキバンド時代で、ギンギラギンのディランである。
で、そうなった時点で、初期の弾き語りアルバムを聴き直すと、あらためてその良さが分かってきたりもした。
「ブロンドオンブロンド」でピークに達した感があったが、ところがその後に発売された「ジョン・ウェズリー・ハーディング」というアルバムでは、拍子抜けするくらいのスカスカのシンプルサウンドで、肩透かしを食らった気にされられた。
「ジョン・ウェズリー~~」で拍子抜けした後に発売された「ナッシュビルスカイライン」では、まさに驚愕。なんじゃこりゃ?とばかりに、甘く美声で親しみやすいメロディラインのディランが登場する。
それまでジャケットではいつもムスッとしてたディランが、そこでは極めて優しい顔で笑っており、なによりその美声ぶりに「別人か?」と思った。
イージーリスニングになってしまったようなディランが、そこにいた。アルバム全編が、甘く美声なディラン。
さらに、続いて発表された「セルフ・ポートレイト」では、さらに驚愕。呆気にとられた。
以前のダミ声と、甘く美声な歌声がここでは共存し、しかも、カバー曲も多数。ロックで骨のあるディランは、そこにはいない。
ある意味、ファンにとっては、ファンをなめているような内容に映ったことだろう(でも、個人的には「ナッシュビル~」も「セルフ~」も、嫌いではなかった・・・いや実は・・好きだったりした)。
後に彼の自伝で分かったことだが、この当時のディランは、わざとイメージを崩すようなことをやっていたようだった。
それまでの自分の祭り上げられ方に辟易とし、しかもストーカーみたいな連中が自宅にまで押し寄せてきてたから、自らのイメージを壊そうとしてたらしかった。だが、そんな事情を知らないファンは、「ナッシュビルスカイライン」と「セルフポートレイト」でのディランには、相当困惑したことであろう。
で、その後に発表された「ニューモーニング」では、「セルフポートレイト」での変貌ぶりの後に拍子抜けするような、ファンが受け入れやすいカントリーロック路線。
ともかく、60年代のディランはめまぐるしい。
その後、しばしの沈黙があり。
映画「ビリーザキッド」に出て、音楽も担当したのちに、やがてザバンドとの共演でのアルバム製作、ライブツアー。ライブ盤発表。
その後に発売された「血の轍」では圧倒的な評価を得、さらに発表された「欲望」では、久々の大変身で、哀愁ただよう内容。
その後、旅芸人のような感覚(?)でのライブツアー、そしてそのライブ盤発表。
かいつまんで書くと、以上のような流れがディランの60年代、70年代である。
80年代以後のディランは、宗教がかったアルバムを発表したことが若干の「変身」と見えないこともなかったが、全体的には60年代ほどの「大変身」はなく、90年代後半ぐらいから再びそれなりに充実したアルバムを発表してきている。
普段、聴きやすい音楽を聴いて、しかもディランを聴いたことがない女性に、ディランアルバムをどれから勧めるか・・となると・・・
私は・・・・聴きやすさという意味で「欲望」や、あの問題の「ナッシュビル・スカイライン」から入ることを勧めるかもしれない。
ただし、それがディランの「もっともディランらしいアルバム」というわけではない・・ということは釘をさした上で。
「ナッシュビルスカイライン」のポップさは、聴きやすさや親しみやすさという意味ではディラン屈指のアルバム。
「欲望」は、スカーレット・リベラのバイオリンが絶妙で、独特の哀愁のサウンドになっており、割と日本人好みではないかと思う。
それと、2001年に発表された「ラブ・アンド・セフト」もまた、ポップで聴きやすく、バラエティに富んでいる魅力作である。
まあ、ロックがお好きな人なら「ブリンギング|」や「追憶のハイウェイ」や「ブロンドオンブロンド」から入るのが一番だとは思うけれど。なんてったって、ディランが尖りまくっており、ピークの頃の作品なのだし。
ビートルズやビーチボーイズやイーグルスなどは、女性にも勧めやすい。
だが、ディランとなると、一筋縄でいかないのだ。
私がディランが好きであることを知って、ディランを聴いてみようかなと言ってくれた女性は、これまで生きてきてそんなに多くはない。
だからこそ、初めてディランアルバムを聴いて、ディランを嫌いになってほしくない。
少しでも女性受けしやすいアルバムをあげるとなると・・・上記のアルバムになってしまうかなあ。
私以外のディランファンの男性が、ディランを知らない女性にディランアルバムを初めて勧める時って、どんなアルバムを選ぶのだろう。
ここで、私なりに思う、「ディランをあまり知らない女性に、初めてディランのアルバムを聴いてもらい、更に徐々に聴きこんでいってもらうための、アルバム順路」を書いてみたい。
1、 「ナッシュビルスカイライン」
・・ともかくとりあえずディランを聴いてもらい、親しんでもらう。ディランのアルバムの中では屈指の異色作なので、これを最初に持ってくるのは邪道かもしれないが、聴きやすさや親しみやすさを買って、これを持ってきた。ピッチャーで例えるなら、速球投手がいきなり速球で入らずに、フォークボールを投げるようなもの??また、ディランにしては「どうしたの?」と聞きたくなるぐらい、柔和に微笑んでいる表情のジャケットもポイントかなあ。他のシンガーでは、普通なことなのだが(笑)。
2、 「欲望」
・・・・哀愁のサウンド。美と真実が君を撃つ!・・とは、当時のコピー文句。別れた妻への歌の赤裸々な内容や歌詞の美しさに浸ってもらう。また、全体的に日本人受けしそうなメロディやサウンドの曲が多いというのもミソ。ちなみに、このアルバムジャケでも、珍しく微笑んでいるのだ(笑)。気に入ってもらいたい初対面の女性に対しては、愛想よくしておかなきゃ(?)。
3、 「ラブ・アンド・セフト」
・・・21世紀に入ってからの、比較的最近の作品を聴いてもらう。聴きやすく、充実した内容。ディランの音楽性の幅の広さを堪能できる。
4、 「ブリンギング・イット・オールバック・ホーム」
・・・さあ、上記の3作を聴いてもらったら、いよいよ真骨頂ともいうべき、尖りまくっているディランのピーク期を、発表順に聴いてもらおう。「ミスタータンブリンマン」などの名曲を多数収録。ラップの元祖みたいな曲も収録。
5、 「追憶のハイウェイ61」
・・・上記の「ブリンギング~~」の次に発表された名作。あの「ライクアローリングストーン」収録。そして超大作「廃墟の街」も。
6、 「ブロンド・オン・ブロンド」
・・・・「追憶のハイウェイ」に続いて発表された、代表作の呼び声高い、ピーク期のクライマックス。
そして・・ここまで聴いてもらえたら、けっこうディランの世界に入り込んできているはずなので、そろそろ・・・
7、 「フリーホイーリン」
・・初期の弾き語りアルバム。「風に吹かれて」他、代表作的名曲が目白押し。ほぼ全編弾き語りなので、聴いてて疲れるかもしれないが、この時期のディランも避けて通れない。いつか通る道。
8、 「偉大なる復活」
・・・上記のフリーホイーリンをクリアできたら、ここらでライブ盤を。ディランを聴くついでにザバンドのことをも知ることができる、一粒で二度美味しいライヴアルバム。非常にパワフル。
9、 「血の轍」
・・・・70年代の最高傑作と言われているアルバムも、一応押さえておきたい。
10、 「時代は変わる」
・・・初期の弾き語りアルバムの中の1枚。これをクリアできれば、もうかなりのディランファンになっているはず。「時代は変わる」という名曲を収録。弾き語りアルバムとしての完成度では、一番かもしれない。ただし・・・全体的に少し・・暗い。そのへんは覚悟。
とまあ、とりあえず10枚選んでみた。
あくまでも、初めてディランを聴く女性にお勧めするアルバム順を並べてみた。私なりの見解で。
ディランは、80年代後半ぐらいから90年代前半にかけてはスランプだったようだが、90年代後半ごろから最近までは、それなりに充実したアルバムを発表している。
だが私の選んだ上記のリストではやはり60年代・70年代のアルバムが多いのは、やはり今よりも60年代・70年代の頃の方が「勢い」があったと思うし、各アルバムごとのインパクトが強かった。なので、こういうリストになった。
ここまで聴いてくれば、もうその人はけっこうディラン通になっているはず。
なので、この先に何を聴くかは、その人の興味が向いたアルバムを聴けばいいと思う。
メロディアスな曲が収録されている「ストリート・リーガル」。
魂のこもったライブパフォーマンスが聴ける大傑作ライブ盤「激しい雨」。ライブパフォーマンスとしては「偉大なる復活」よりも上かも。
ディランとザバンドとの完全コラボによるスタジオ録音アルバム「プラネット・ウェイブ」。
スライ&ロビーのサウンドが心地よい「インフィディル」。
グラミー賞受賞曲「ガッタ・サーヴ・サムバディ 」が収録されている「スロー・トレイン・カミング」。
話のタネに「セルフ・ポートレイト」(この時のアウトテイクを集めた「ディラン」というカバーアルバムは今現在廃盤だが、実はけっこう私のお気に入りではある)。
オーソドックスに楽しめる「ニュー・モーニング」。
個人的には、デビューアルバムの「ボブ・ディラン」も案外捨てがたいが、これはかなりのディラン通になってからでもいいかも。
90年代中期以後に発表されたアルバム群も、評価は高い。ただし、声質には好き嫌い出るかも。
その他、ディランのアルバムは多数ある。
興味の向くアルバムに向かっていただけば、いいのでは。
以上、私なりに「これまでディランを聴いたことがない女性に、ディランを勧める場合の、聴くアルバムの順番」について書いてきた。
一番最初に「ナッシュビル・スカイライン」を持ってきた点など、ディランファンからは異論もあるだろうとは思う。
でも、とりあえず、私なりに苦労してリストアップした順番ではあるのです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます