東京幻想の画集を紹介したばかりだが、もう1冊最近とても気に入っている画集があるので紹介したい。背景グラフィッカー・イラストレーター/吉田誠治による画集、『ものがたりの家 –吉田誠治 美術設定集-』という画集である。
建築デザインがとても好きな僕は、これまでにもマイクロハウスについて取り上げたり、想像力を掻き立ててくれる建築デザイン本には目が無いのだが、まさにこんな楽しい本を探していたような気がする。またまた大きな刺激を受けた本だ。
作者のまえがきにもあるのだが、絵本や小説など、子供の頃から無数に触れてきた物語には、必ずといっていいほど印象的な建物が登場する。この画集は、そんな絵本や物語に登場しそうな空想の家を描いたもの。どれも個性的な設定で、一度は住んでみたいと思ってしまうような空想の家が30点以上収録されており、 今までにない画集と言える。それはまるで何か具体的な映画や物語の設定用に描かれた美術設定イラスト集のようで、さすがは背景グラフィッカーによる作品だ。
細部の設定まで見事に制作されており、建物の外観と、内装の断面と特徴などのポイントがメモされている。内装の断面を見ていると、まるで子供の頃、ままごとをしている最中にトイハウスの中を除きこんだかのようなワクワク感があるし、単なる建物デザインに終わらず、そこに住む人物設定が描かれている為、“生命の息吹”が感じられる建物たちが活き活きと描かれているのが特徴的だ。
目次も各建物のイラストで紹介されており、とても楽しい。どの建物も面白いし、想像力を掻き立ててくれるが、幾つか特に気に入ってしまったものがあった。
そびえ立つ物凄い崖の上に住む天文学者の家は何とも孤独だろうが、星空を観測しながら、ヤギを飼育して自給自足の生活を送っているようだ。どうやって地上に降りるんだろうと思ったが、どうやら裏側に階段があるようだ。しかし、それにしてもエレベーターも無い中で簡単に登り降りは難しいだろうし、高齢になればなおさら難しいだろう。きっとこの天文学者は本当の仙人なのかもしれないなどと、色々と妄想が膨らむ。
巨石を壁にして家を建ててしまった“巨石と暮らす家”も、旦那に先立たれたおばあさんが独りで住んでいる設定。シンプルな創りながらとても微笑ましく、和んでしまう。
他にも、何処かにありそうな小さな小屋、取り残されたお城、レトロな書店、湖畔に建つ寡黙な整備士の別荘など、実に仮想の国や設定も様々で見ているだけでも楽しいし、多彩でバラエティーに富んでいる。それぞれに物語性を想像してしまうので、まるでたくさんの絵本を覗きこんだかのようでもある。
本の最後に、作者のアトリエなども紹介されており、これもとても楽しい。クリエイティブな作品がこういったアトリエで産まれたと想像しながらまた見返すのも楽しいものである。
先に紹介した『東京幻想』とは全く趣向が違う本だが、こちらの方は絵本のような魅力と、建築デザイン好きにとってもかなり参考になる素晴らしい作品集であった。久しぶりに良い刺激を受けて、また絵本の制作意欲が湧いてきた。