邦楽、洋楽共に80年代は音楽を浴びるように青春を過ごした中で、マイケル・ジャクソン、プリンス、マドンナ、デュラン・デュランなど多くのアーティストに熱中していたアメリカでのハイスクール時代が懐かしいが、当時は毎週アメリカのラジオで放送していた『American Top 40』という、ビルボードのランキングに従って40曲をオンエアしていたラジオ番組にかじりつき、カセットテープにも録音して週末を過ごしていたのが何とも懐かしい思い出である。ラジオからヒット曲をカセットに録音するような時代である。
そんな輝かしい80’sの中で、ひと際思い出深いアルバムがある。1985年にリリースされたフィル・コリンズの大ヒットソロアルバム、『No Jacket Required』である。フィル3枚目のソロアルバムだった為、日本でのタイトルは『Phil Collins III』。先日レコード店で見つけて、思わず購入した。フィル・コリンズの赤い顔面どアップで、なかなか不気味なジャケットがインパクト大である(笑)。タイトルは、“ジャケット着用不要”という意味なのだが、ある意味“レコードのアルバムジャケットに凝らなくても、自分の才能・個性だけで勝負出来る“、という宣言でもあったような気がしており、顔のどアップもその自信を象徴しているのかもしれない。
あのプログレロックバンドであった『Genesis』のドラムだったフィルが、ボーカルでもリードマンとなり、プログレバンドを一躍華々しいポップシーンの舞台に上げ、1986年にアルバム『Invisible Touch』も大ヒットしたのも思い出深い。この80年代はバンドでもソロでも、フィル・コリンズのキャリアにおけるピークだったと言えるだろう。
そんな中、この『No Jacket Required』は今聴いても、全曲ヒットシングルかのようなポップクオリティで、全世界で2,000万枚を売り上げたメガヒットアルバムとなった。誤解を恐れずに言えば、フィル流“究極のパクリアルバム“であった。収録されているのは下記11曲 (11曲目は後にCD化の際に収録され、レコードには収録されていない)。
- Sussudio
- Only You Know and I Know
- Long Long Way to Go
- I Don’t Wanna Know
- One More Night
- Don’t Lose My Number
- Who Said I Would
- Doesn’t Anybody Stay Together Any More
- Inside Out
- Take Me Home
- We Said Hello Goodbye *(CD化以降から収録された曲)
何故“究極のパクリアルバム”かと言えば、多くの曲が、“あれ、どこかで聴いたことがあるような・・・”と思ってしまうフレーズやメロディが満載なのだ。例えば、『Sussudio』はプリンスの『1999』をちょっと明るくしたようなサウンドで、当時はパクリ疑惑で有名だった。しかしこの1曲だけではなく、他にも『Only You Know and I Know』はシンセを印象的に使っており、ちょっとヴァン・ヘイレンの『Jump』の高揚感にかなり似ている。『I Don’t Wanna Know』は、ちょっとオリビア・ニュートン・ジョンの『Physical』を思い出してしまうようなメロディ。『Who Said I Would』も、プリンスの大ヒットアルバム『Purple Rain』に収録されている『Baby I’m a Star』を思わせるようなノリとメロディである。他の曲も、初めて聴く筈なのにどこか王道のポップス、ヒット曲の法則を見事に踏襲した曲になっているせいか、ある意味フィル流の産業ポップへのオマージュ、或いは自分が本気を出せば、ヒット曲を生み出すことはたやすいとでも主張しているかのような、そしてそれを楽しんでいるかのような、まさに究極のお手本のようなポップアルバムになっているのだ。
僕はやっぱり『Sussudio』、『Only You Know and I Know』、『Don’t Lose My Number』のノリと、テッパンのバラード『One More Night』、一定に刻み続けるシンセのリズムが心地良い『Take Me Home』などのメロディセンスが特に好きだった。『Long Long Way to Go』ではスティングとのデュエットが実現しているのも見逃せない。
しかし、さすがドラマーのフィル・コリンズである。このアルバムも改めて聴き直してみると、ドラムワークがなかなか素晴らしいことに気が付く。当時はあまりにもポップなメロディばかりに耳が行ってしまい、ドラムをそんなに気にしていなかったが、改めてレコードで聴くと色々と気づきがあった。
40年経った今聴いても色褪せない80’sのポップス。その中でも売れ筋ポップスの教科書的なアルバム『No Jacket Required』は優れたアルバムだったことを改めて痛感した。そのタイトル通り、“ジャケット着用不要”で、万人が楽しめる堅苦しくないポップスの素晴らしさが証明された名盤であると言えよう。