blue deco design lab

心を揺さぶられる傑作映画、『52ヘルツのクジラたち』!

出張中のJAL機内で、今年の3月に公開された映画、『52ヘルツのクジラたち』を観賞した。この映画は、2021年に『本屋大賞』を受賞した、町田そのこのベストセラー小説が原作。この小説は前から気になっていたが、結局読めていなかったので、今回この映画がむしょうに観たくなった。

映画を観て、思わず想定以上に心を動かされてしまった!恐らく、ここ数年で観た映画の中ではNo.1ではないかと思う。それくらい激しく感動してしまった。久しぶりに素晴らしい邦画に出会った思いだ。

映画タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの孤独なクジラのこと。親からの虐待、トランスジェンダーなど、なかなかSOSが伝えられない孤独を抱えた人間の深いテーマを取り上げながら、繊細な人間模様が丁寧に紡がれていく。自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚(きこ)。ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年と出会う。貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれた安吾(あんご)との日々を思い起こしていくという物語。

貴瑚は親からの虐待と父の介護によって、自殺を図るまでに至るが、安吾に助けられ、名前も貴瑚(きこ)から、きなこという名前になり、母との決別を決意する。そして安吾は貴瑚を救う中で彼女に心の深いところで繋がるようになるが、実は彼も実はトランスジェンダーであることを隠しながら生きており、貴瑚を自らは幸せに出来ない状況に苦悩する。安吾はアンと呼ばれているが、きなことアン(あんこ)という2人の名前もまた映画のテーマに沿って象徴的に使われているのも秀逸。また、ムシはやがて本当の名前が愛(いとし)だったということが判明するが、これもまた象徴的な名前として映画全体のテーマを見事に表現していた。

貴瑚を演じているのが杉咲花。僕は杉咲花が結構好きで、彼女の見事な演技力は毎回引き込まれ、感情移入してしまう。演技力で言えば、同年代の若手女優の中でもダントツではないかと思っているが、素晴らしい才能を持った女優だ。今回も感動的な映画になっているのは当然見事な原作と脚本による部分もあるが、杉咲花の高い演技力による部分も大きなウェイトを占めていると痛烈に感じた。これを他の女優が演じても、恐らくここまでの傑作にはならなかったのではないかと思う。特に杉咲花の泣きの演技や、繊細で豊かな感情表現は見事としか言いようがない。

そして、杉咲が演じる貴瑚を救おうとするアンさんこと岡田安吾を志尊淳、貴瑚の初めての恋人となる上司・新名主税を宮沢氷魚、貴瑚の親友・牧岡美晴を小野花梨、「ムシ」と呼ばれる少年を映画初出演の桑名桃李が演じており、なかなか芸達者な役者陣が揃った。それぞれが繊細な役どころを見事に演じており、特に志尊淳も今まで観た中では一番魂のこもった演技を見せてくれたように思う。また、貴瑚を虐待していた母を真飛聖、アンの母を余貴美子、ムシと呼ばれる少年を虐待する酷い母を西野七瀬が演じており、特に西野は役者としての新境地を見事に演じていた。また、貴瑚が住む海辺の町で貴瑚と少年を支えていくことになる女性を倍賞美津子、そして町の若者を金子大地が演じている。

「八日目の蝉」「銀河鉄道の父」でも高い評価を得た成島出監督がメガホンをとり、「四月は君の嘘」「ロストケア」の龍居由佳里が脚本を担当しているが、キャストに加え、良いスタッフが揃った。

虐待やトランスジェンダーを扱った映画やドラマは結構多いが、ここまで心の機微を豊に捉え、魂が揺さぶられた作品は今まで少なかったように思う。それくらい感動的な映画に仕上がっていたが、9月にブルーレイがリリースされたら、ぜひ購入してまたじっくりと家で観賞したいと思ってしまった。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「映画」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事