正直に言うと、僕は小説をそうたくさん読む方では無い。実は子供の頃から長編小説を読むのがかなり苦手で、根気良く、長い小説を最後まで読み続けるというのがあまり得意ではなかった。一部のマニアックな本や漫画以外はなかなか読破出来ずに途中で辞めてしまうケースも多かったし、小学生の頃から漫画ばかりを描いていたので、読むのも自然と漫画が多かった。そんな時、小学校高学年で星新一のショートショートに出会い、本を読むことに対する変な苦手意識が薄れたのを今でも良く覚えている。そういう意味では、星新一との出会いは僕と本の関係を大きく変えるきっかけとなった。また、小学生であった1981年当時、将棋にハマっていたが、大山康晴名人の著書、『己に勝つ』を読んで、子供ながらに感銘を受けたのを良く覚えている(正直、内容は今あまり覚えていないが、小学生から随分と渋い本を読んだものである。。)。
最近でもそうたくさんの本を決して読んでいるわけでは無く、また好きな作家もかなりの偏りがある。良く好んで読む作家は、村上春樹、東野圭吾、市川拓司。中でも村上春樹の作品は良く読んでおり、最近出版された『職業としての小説家』も購入して、ちょうど読み終わったところである。村上春樹の作品に出会ったのは、『ノルウェーの森』を大学に入る直前の1987年に読んだ時で、ーまあ、これもかなりミーハーで、流行りを押さえるという下心が読むきっかけになったことは否定しないがー、それ以降、村上春樹の作品の虜になってしまった。とは言っても、まだ読んだことの無いメジャーな村上春樹作品も数多くあるので、とてもじゃないが“ハルキスト”のレベルには全く達していない。しかし、『ノルウェーの森』を読んで衝撃を受け、かなりの長編である『1Q84』でも相当村上春樹ワールドに打ちのめされた一人であることだけは間違いない。村上春樹の代表作でもあるこの2作品以外にも、『ねじまき鳥のクロニクル』(これは読むのに相当苦労したが)、『アフターダーク』、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』などはタイムリーに読んでいる。
やはり村上春樹ワールドの醍醐味は、長編小説で味わうのが一番良いとは思うのだが(長編小説が苦手だった僕が言うのも説得力に欠けるが(笑))、実は彼のエッセイもかなり好きである。以前にもブログで紹介したが、『村上ラヂオ』シリーズのショートエッセイ集はかなり好きで、3作品とも何度か読み返している。不思議なものだが、僕は何故か村上春樹の文章だと頭にすんなりと入りやすいのだ(何故なのかうまく説明出来ないのだが。。)。他の作家の作品も時々読んだりはしてみるのだが、村上春樹ほどすんなりと頭に入って来ない(東野圭吾を除いては)。また、一人の“アーティスト”として、オリジナリティー溢れる、独特な世界観を創造し続ける村上春樹自身にもかなり興味を持っている。彼のエッセイは小説の世界とは異なり、自身の考えや性格等、私的な部分を垣間見れる貴重な機会でもあり、この理由から僕は彼のエッセイが好きなのではないかと思う。彼の書くエッセイはとても共感出来る要素が多いのも好きな要因の一つ。村上春樹が若い頃に読んでいた米国作家のJ.D.サリンジャー(ライ麦畑でつかまえて)やS.フィッツジェラルド(華麗なるギャツビー)等は、僕もアメリカで過ごしたハイスクール時代に学校で読んだ(読まされた)経験が有り、妙に親近感が湧いてしまったし、また彼が過ごしたボストンやニューヨークでの共感出来るようなエピソードが多いことが、エッセイから読み取れるのがとても面白かった。
今後も『1Q84』的な新作長編小説を待ちわびるファンが多いとは思うが、今回出版された『職業としての小説家』も実に興味深く拝読した。今回は初めて真正面から“小説家”である自分の考えを語っており、小説を書き始めた理由や、小説家として生きていくことを決意した経緯、文学界そのものや、又吉が最近受賞したことでも何かと話題の芥川賞、或いは毎年受賞候補として騒がれているノーベル文学賞についての見解や、海外進出に取り組んだ時期の話など、ファンが知りたい内容について、本人の言葉で正直に語られている点が大変興味深い。まあ、これも村上春樹に興味が無ければ、あまり面白くないのかもしれないが、僕はこの本の中で彼の生き方そのものに、自分に参考になる要素 ≠サれは何か教養本/ビジネス本としての普遍性ー が盛り込まれていると感じた点も有り、単なるエッセイを超えて心に響くものがあった。全てはなかなかうまく語り尽くせないが、その例を幾つか挙げてみたい。
1) 小説の書き方、そして書き直し方
村上春樹はまず一通り小説の章なりを一気に書き上げ、その上で何度も何度も見直しながら修正を加えて全体を整えて行く作業を行っていることが語られている。また、基本一日5時間程度は集中して執筆に当たり、初稿は奥様や編集者に読んで貰い、指摘のあった点は何らかの形で必ず手を加える (指摘を受けた内容では無くとも、指摘を受けた箇所には、小説全体の流れを妨げる何らかの要素があるとの解釈から必ず手直しをするとのャ潟Vー。指摘とは真逆の方法で修正することも)。これは小説だけの話では無く、ビジネスでの資料/プレゼン作成などにも言えることで、プロセス自体には妙に共感してしまった。
2) オリジナリティーとは?
オリジナリティーについて語っているが、ビートルズやビーチボーイズが例に出されて説明されているのがわかりやすいが、どんなジャンルのアーティストでも、オリジナリティーを持つ人には共通したものが有り、またわかりやすかったのは、『新鮮で、エネルギーに満ちて、そして間違いなくその人自身のものであること』というオリジナリティーの定義。またこの章で、自分のオリジナルな文体なり話法なりを見つけ出すには、まず出発点として『自分に何かを加算して行く』よりはむしろ、『自分から何かをマイナスして行く』という作業が必要、と語られているが、これはブルース・リーの教えでもある、『武道家とは彫刻家のようなものだ。付け足すのでは無く、自らの無駄をそぎ落として行くプロセス』という教えと同じであり、実に見識深い。ブルース・リー師匠は確かに間違いなく“オリジナル”な存在であった。
3) 恐るべし『E.T.』方式のイノベーション
映画『E.T.』を引き合いに出し、E.T.が物置のガラクタ(傘、電気スタンド、レコードプレイヤー等)をひっかき集めて、即席の通信装置を作ってしまうシーンを例に、優れた小説というのはこのように、物置にある一見個々にはガラクタに見えるものでも一種のマジックを使うことで、素朴なマテリアルを洗練された装置に変えて行くようなものだと。また、物置とは自分における知識や経験の“抽斗”であり、これをどのくらい持っていて、どのように組み合わせられるかが大事とも語っている。これは今僕が仕事で取り組んでいるITクラウド事業にも共通して言えることで、様々な技術やソリューションを如何にクラウド上で組み合せられるかでサービスの善し悪しが決まるわけで、そのセンス=マジックが使えるかどうかに鰍チてくるのだ。E.T.師匠、恐るべしである。
4) 一番大事なこと = 自分が楽しむこと
村上春樹はファンも多いが、逆に文学界やマスコミから色々と作品が酷評されたり、マスコミの前に出たがらないことから色々な批判もされるようだが、自分ではあまりそう言ったことを気にしていないといいながら、それなりに語っていることはやはり気にはなる面もあるようで、逆に人間的で面白かった。また、一貫しているのは、色々と作品が批判も受ける中で、万人に気に行って貰うのは不可能だとすれば、『自分で楽しむ、自分で納得するしかない』と説明しているが、これも小説家に限らず、普遍性のあるテーマであり、僕も仕事であれ、趣味であれ、やはり自分で納得し、大いに楽しむことが結果的には良い方向に導かれるのだと改めて感じた。
5) 海外進出における末ニの役割
村上春樹が積極的に海外展開を図った経緯などが語られているが、偶然かもしれないが、結果的にその国の社会基盤が揺らぐようなタイミングで、村上作品が受け入れられてきた傾向にあるというのは大変興味深かった。文学がもたらす影響はそんなところにヒントが隠されているのかもしれず、村上春樹がノーベル文学賞を取れるか否かも、この辺りの傾向や世界からの捉えられ方と無縁では無いのかもしれないと感じた。また、優秀な二人の末ニに出会ったことが大きかったとのエピソードがある。これは今自分がやっているビジネスにおいては、正に商社が末ニ的な役割を担っており、末ニとしての目利きや知見、そして作家としては良い末ニに巡り合うことが重要と。これも捉え方によってはとても興味深い。
村上春樹は『職業としての小説家』の中で、小説家としての職業やこれまでの経験を説明しているだけなのかもしれないが、内容は小説家に限らず、また、プロアマ問わず、何らかのクリエイティブなものを制作する言わばアーティストには共通する部分があることを、本全体を読んでいた改めて痛感。僕はプロのアーティスト等では無いが、イラストを描いたり、クリエイティブなことをするのが好きな自分としては、村上春樹がどのように考え、小説という媒体でクリエイティブな制作を実践しているかというのは、とても共感出来る要素が多く、大変刺激的でもあった。またまた村上春樹から良いインスピレーションを得ることが出来た。
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