昔、料理飲食等消費税(料飲税)というものがあった。宿泊や飲食で一定額(免税点)を超えると課税された。事業者は課税行為があった場合、客から料飲税を徴収し、申告納付しなければならない。しかし、全ての事業者が適正に申告納付していたわけではない。
私が料飲税を担当していた当時は、飲食の免税点が2000円であった。1人2000円を超える飲食をした場合10パーセントが課税される。開店したばかりのお店は、料飲税に対する理解も浅いことから、申告状況を見て指導するのが慣例であった。
ある時、開店して数か月のスナックの経営者(女性)を呼び出し、指導した。スナックであるにも関わらず、開店以来料飲税の申告がないため、業態からして課税がないとは考えられないこと、料飲税はきちんと徴収して申告納付することを話した。
後日、その女性の夫が、事務所にやって来た。真っ白いスーツを着て、襟には代紋のバッジ、若い衆をひとり連れてきていた。私に対し「うちの女房をいじめたのはお前か」といってきた。話がこじれそうだと思った私は、二人を隣の部屋に案内し、話をすることにした。現在であれば複数人で対応するのが常識だが、当時はそういった場合のマニュアルもなく、私ひとりで対応した。
相手は、自分の女房がいじめられたことに腹を立てており、「こっちは切った張ったが仕事だ。ムショに入ってしまえば税金なんぞ関係ねえ」と息巻いた。私は、けっして奥さんをいじめていないこと、料飲税はどこの店でも申告納付してもらっており、そうしたことを開店したばかりのお店に対しては呼び出して指導しており、今回の一件もそうしたなかの一つであることを説明した。それから、いろいろと話しをして、最後には相手が「よし、話は分かった。俺も男だ。了解した以上はきちんとやる。今度おれの店に飲みに来い。」と言って帰っていった。もちろん、その店に飲みに行ったりはしなかった。
当時は、ハワイやロンドンといったピンクサロンが華やかなりし頃であった。ピンクサロンは接待があるため免税点がなく、売り上げに10パーセントが課税された。そのため、そうしたお店は売り上げをごまかして申告することがあった。そこで、明らかに怪しいと思われるお店の売り上げを調べるため、1日の売り上げを何処の銀行の夜間金庫に持って行くか調べることにした。銀行が分かれば、職権で調査依頼し、預入額を調べることができる。
そこで、同僚と車に隠れて閉店を待ち、売り上げを持ったと思われる車の後を追った。夜中、刑事ドラマばりに車のあとをつけ、銀行を特定した。その後、その店はしっかり追徴課税された。
私の若かりし頃の思い出である。