ある缶詰の側面、内容表示欄の下に、内容表示の文字より大きめの文字で「缶切不要」の表示があった。缶切不要? 確かにこの缶詰はプルトップ式(イージーオープンエンド)の缶詰で、缶切りは必要ない。必要はないけれど、今時プルトップ式の缶詰は当たり前で、わざわざ「缶切不要」などと書いてあるのは見たことがなかった。私の認識不足かも知れないが、このような表示は他の缶詰にもされているのであろうか。
私の子供の頃は、缶詰は「缶切り」で開けるのが当たり前だった。缶詰の上部面に刃を食いこませ、ぐいぐいと金属を切り裂いていく。結構コツがいるもので、小さい子供は上手くいかず、缶切りが上手くできるようになったときは、少し得意な気分になったものだ。しかし今では、プルトップ式の缶詰が当たり前。台所の缶切りも使われないまま、引き出しの奥に眠っている。
缶切りも、シンプルなものばかりでなく、ネジ付きのちょっと高級なものもあった。缶詰の上部面に刃を食いこませた後、脇のネジを回して切っていくもので、スムーズに切れるのだが、缶の縁の形状によっては上手くいかないものもあり、シンプルな缶切りも欠かせないものであった。
そういえば、コーンビーフの缶は、付いている鍵で側面を細長く切っていくのが当たり前だったが、これも最近は簡単にあけられるものに変わっているようだ。
すべてが簡単で便利になっていくのは、ありがたいことかも知れないが、一抹の不安も覚える。缶切りを使えない子供、マッチを使えない子供、小刀で鉛筆を削れない子供が増え、彼らはインターネットの世界で生き、AIがすべてを答えてくれる。そんな世の中で、必要ないものは消えていくだけなのであろうか。