8月27日(土)二十六夜 メキシコ
アメリカ中部、ユカタン半島にはマヤという謎に包まれた文明が存在していました。マヤ人は星々の動きやその働きをよく知っていたようです。マヤ人の石の棺には、宇宙船を運転する人のような絵が描いてあったり、天王星や海王星という最近知られるようになった星をすでに知っていた、など不思議なことがたくさんあります。そこからマヤ人は宇宙人と友達だったとか、宇宙からやってきたのではないかと思われたりしています。
しかし、それとともに恐ろしい話もあります。いけにえの儀式が盛んにおこなわれていたということです。人が殺されて神様に捧げられるのです。そのために、他の部族と戦っていけにえのための人を連れてきたそうです。
ルーモがそんな話を風さんから聞いてククルカン神殿の近くを散歩していると、美しい花嫁衣装に身を包んだ少女がやってきました。この少女はもうこの世にはいない人でした。ルーモは妖精ですからそんな存在を見ることが出来ます。
少女はルーモに話しかけました。
「私ね、雨の神に捧げられたの」
「どうして?」
「ひでりが続いて作物が枯れ始めたからよ。雨の神ユムチャクの怒りをおさめるためにね」
「私の最期の時の話を聞いてくれる?」
ルーモはこれから始まる少女の最期の時の話に神妙に耳を傾けました。
少女は話し始めました。
~今から800年も前のことよ。
生け贄の儀式は、夜明けとともに始まったわ。
何十段もある急な石段をゆっくり下りていくと、聖なる泉に続く4百メートルほどの石畳に出るの。私はいすに腰掛けたまま、神輿をかつぐように若いお供連中に運ばれていったの。その行列に音楽の列も加わり、太鼓の音、笛の音、雨の神を讃える歌などとともに、大勢の人々の見守る中、密林の中の聖なる泉に向かってゆっくり行進してね。石の道が終わる頃には、周りはうっそうとしたジャングルに入り込んだわ。
朝もやの中に聖なる泉が現れ、青黒い水面が不気味だった。そこで、すべての音楽は鳴り止み、祭司長の雨の神を敬う祈りの声だけが響きわたったわ。それが、終わると、再び音楽が始まり、祭司長の合図とともに、私は連れ出された。
6人の祭司が私を前後に揺さぶって、太鼓の音、笛の音がクライマックスに達した瞬間、私は暗い泉の中に投げ込まれたの。大きな弧を描いて何十メートルも落下してゆき、大きな音と水しぶきとともに暗い水中に沈んだの。私が覚えてるのはそこまでよ。~
話し終えると少女はすーっと消えてしまいました。
少女の魂は、自分の最期の時の想いを抱えたまま、今もまだこの地に残っているようでした。ルーモは、この少女に何と言ってあげたらよいか何も浮かびませんでした。少女が最後に泉に落ちていく姿が目に浮かびました。
この時、ルーモの心に初めて生まれた感情。
それは、怒りでした。
怒りはルーモの心を熱く重くし、同時に、ルーモの目から水がほとばしり出ました。
ルーモは初めて怒りが悲しみとなり、涙になることを知りました。
そばですべてを見ていた風さんは、ルーモが怒りを学んだことを悟り少し寂しげな表情でした。
泉の底には、青年男女の痛ましい骸骨が今でも多数発見されています。
アメリカ中部、ユカタン半島にはマヤという謎に包まれた文明が存在していました。マヤ人は星々の動きやその働きをよく知っていたようです。マヤ人の石の棺には、宇宙船を運転する人のような絵が描いてあったり、天王星や海王星という最近知られるようになった星をすでに知っていた、など不思議なことがたくさんあります。そこからマヤ人は宇宙人と友達だったとか、宇宙からやってきたのではないかと思われたりしています。
しかし、それとともに恐ろしい話もあります。いけにえの儀式が盛んにおこなわれていたということです。人が殺されて神様に捧げられるのです。そのために、他の部族と戦っていけにえのための人を連れてきたそうです。
ルーモがそんな話を風さんから聞いてククルカン神殿の近くを散歩していると、美しい花嫁衣装に身を包んだ少女がやってきました。この少女はもうこの世にはいない人でした。ルーモは妖精ですからそんな存在を見ることが出来ます。
少女はルーモに話しかけました。
「私ね、雨の神に捧げられたの」
「どうして?」
「ひでりが続いて作物が枯れ始めたからよ。雨の神ユムチャクの怒りをおさめるためにね」
「私の最期の時の話を聞いてくれる?」
ルーモはこれから始まる少女の最期の時の話に神妙に耳を傾けました。
少女は話し始めました。
~今から800年も前のことよ。
生け贄の儀式は、夜明けとともに始まったわ。
何十段もある急な石段をゆっくり下りていくと、聖なる泉に続く4百メートルほどの石畳に出るの。私はいすに腰掛けたまま、神輿をかつぐように若いお供連中に運ばれていったの。その行列に音楽の列も加わり、太鼓の音、笛の音、雨の神を讃える歌などとともに、大勢の人々の見守る中、密林の中の聖なる泉に向かってゆっくり行進してね。石の道が終わる頃には、周りはうっそうとしたジャングルに入り込んだわ。
朝もやの中に聖なる泉が現れ、青黒い水面が不気味だった。そこで、すべての音楽は鳴り止み、祭司長の雨の神を敬う祈りの声だけが響きわたったわ。それが、終わると、再び音楽が始まり、祭司長の合図とともに、私は連れ出された。
6人の祭司が私を前後に揺さぶって、太鼓の音、笛の音がクライマックスに達した瞬間、私は暗い泉の中に投げ込まれたの。大きな弧を描いて何十メートルも落下してゆき、大きな音と水しぶきとともに暗い水中に沈んだの。私が覚えてるのはそこまでよ。~
話し終えると少女はすーっと消えてしまいました。
少女の魂は、自分の最期の時の想いを抱えたまま、今もまだこの地に残っているようでした。ルーモは、この少女に何と言ってあげたらよいか何も浮かびませんでした。少女が最後に泉に落ちていく姿が目に浮かびました。
この時、ルーモの心に初めて生まれた感情。
それは、怒りでした。
怒りはルーモの心を熱く重くし、同時に、ルーモの目から水がほとばしり出ました。
ルーモは初めて怒りが悲しみとなり、涙になることを知りました。
そばですべてを見ていた風さんは、ルーモが怒りを学んだことを悟り少し寂しげな表情でした。
泉の底には、青年男女の痛ましい骸骨が今でも多数発見されています。