我が家のある団地の道筋や近辺の花咲通りには、様々な街路樹があります。例年メインストリートの街路樹である夏みかんの花が初夏に咲き始めます。柑橘系というのは、香水などにもお馴染みの香りで、果実の香りを指すことが多いのですが、花もとても素敵な香りを出しています。文部省唱歌、鯉のぼりにある「橘香る朝風に、高く泳ぐや鯉のぼり」そのままの香りを含んだ風情となります。更に少し過ぎると、甘い強めの香りの小くちなしなど。花咲通りには香りで有名なキンモクセイが、初冬に南中学校付近に2本咲き誇ります。当団地では大きなアカシヤや、オリーブなども強めのフローラルな香を漂わせますが、最近次々と伐られてしまったのが残念です。
今回は花の香りのお話。
どうも香りを表現するのは、具体的な比喩を用いるくらいしか考え付かないのは、わたくしの語彙が貧弱なせいかもしれませんが、例えば薔薇の香とか、甘い桃の香の梔子(くちなし)という即物的な具合でしか表現できません。きれいに撮れた花の写真で香りが想像できるように、本当に香が漂うばかりの見事な薔薇というようなのは、あながち間違いではないですよね。
さて、バラやユリ、キンモクセイなど、花の名前で香りをイメージできる花はいくつかありますが、バラの香り、ユリの香りという成分があるわけではありません。色々な香気成分が混ざり合って'バラの香り'や'ユリの香り'が出来上がるわけです。
花の香りは、昆虫などを引きよせるための、いわば'香気成分のカクテル'だそうです。
人間にはどちらかといえば少し癖が強いと感じるような、例えば栗の花の香りも、それを好む虫たちがいるから、秋には栗が食べられるわけですね。(これも南中の付近の花咲通りに1本)
花の香りは、植物精油という、揮発性の芳香油成分で成り立っています。花が香るのは、花のある場所を視覚だけでなく嗅覚(きゅうかく)でもわかるようにするためです。香りに誘われた昆虫が花のまわりに集まり、受粉を媒介したり、できた種子を運んだりといったことを狙ってのことです。
夜強く香る花はガ、昼強く香る花はハチなど、決まったポリネーター(花粉を運ぶもの)の誘因に役立っています。昨年生涯大学校の遠足で訪れたトマト農園(温室)や、現在クーポンを配布しているいちご農園では、蜂を購入して受粉に用いていることも、知りました。
ユリは、花びらから香りを出しているそうです。花びらの中でも、先端よりも付け根の方が強く香ります。この付け根のところに無色透明のみつがあり、みつも香ります。 花の香りがどこから来るのかは、花の種類によって異なります。
まだ冬の最中に見ごろを迎える梅の花は、花びらやみつからも香りが出ていますが、雄しべからも強い香りが出ているのが特徴です。ユリの雄しべは香らないのに、梅では香る理由については、開花時期の違いが関係していると推定されています。ユリはもともと、7~8月ごろに咲くのに対し、梅は厳冬期とも言える2月に咲きます。夏に比べて昆虫が少なく、香りに誘われてやってくる昆虫を、できるだけ遠くから呼ぶために、雄しべまで動員して強い香りを出そうとしているのではないかというわけです。昆虫と人間では、昆虫の嗅覚の方が優れています。人間には無臭に感じられる花でも、虫は香りを感じているということもあるそうです。
香水の原料としても花が使われます。観光地に行くとその土地で著名な花をメインにした香水が土産物として売られています。北海道のスズランの花を封入した瓶などですね。大量の花を原料としてそれを蒸留した原液を調合して、いろいろな香水が出来上がるわけです。そのために香水の原料としてバラなどが栽培されているのですが、香水用のバラは何トンという単位で取引されるようです。
さてこれからが花のシーズン。姿を愛でるだけでなく、密かな香りもお楽しみくださればと思います。