彼女が庭に来るようになって 半年位になる頃。
きりっとした顔立ちと気品の漂うたたずまいが割と気に入っていた。
最初のころは窓をあける音に反応してあっという間に姿を消した。
もうだいぶ慣れてきたころ、庭でたばこを吸う僕に間をおいて坐り、
吐き出す煙を不思議そうに見ていた。でも近づくと逃げる。
微妙な距離感はスリリングで、毎回楽しみな時間だった。
その日、たばこを吸う僕の視界の中の彼女が急に シャーっと
言いながら庭の隅に飛んだ。
追いかけてガタイの大きな黒ずんだ猫が飛んだ。
彼女は 追い詰められ、腰が引けながらも立ち向かおうとしていた。
思わずそばにあったしゃべるをつかみ、”この野郎”と 立ちふさがると
一瞬、無頼猫がひるんだすきに彼女は股の間をすり抜けて
隣の庭へ駆け込み消えていった
しばらく向き合った無頼の目はふてぶてしく、
いかにも生き延びてきた自信に満ちていた。
この付近では見かけない猫だった。(避妊されていない雌猫を探して
縄張りを超えることもあるとは 後で知った。)
にらみ合った後プイと向きを変え 去って行った。
決して逃げる風ではなく、どうどうと去って行った。
今思うと 黒ずんだ色は汚れで、白地に手足と耳がこげ茶、
ちょこの父はこいつなのかもしれない。
そんなことがあってから、彼女との距離はまた一つちじまったような気がした。
相変わらず近寄ると逃げるけど。
そしてある日 倉庫の前で出会った彼女は 母になっていた。
この場所を彼女は選んだ。
つづく・・・