昨日の記事の続きです。『囚人ディリ』を紹介するためにアマゾン沼でいろいろ確認していたら、あれ? 知らないインド映画ソフトが出ているではありませんか。『ザ・フライト』のDVD。原題は「The Flight」? そんなボリウッド映画、聞いたことないし、南インドの映画でしょうか?? いやいや、スタッフ・キャスト名を見ると、どうやらヒンディー語映画のようです。というわけで即、買い。するとピューッと届きました。アマゾン沼、流れが早いぞ~。これです。
発売・販売がツインであることを確認して、早速見てみたのですが、始まりから30分ぐらいまでは脱力しっぱなし。このあたりまでのストーリーを、<内心の声>を入れながら書いてみましょう。(画像はIMDbのサイトから取りました)
航空機メーカーのアディティアラジ(アーディティヤラージ/以下ADと略)社製の旅客機によるフライト815便が墜落、乗客250名中70人が死亡するという大事故が起きます。乗客はほとんどがインド人。抗議の声が巻き起こり、インドのテレビ局だけでなく、ロシアやアメリカでも大きく報道されて、大騒ぎとなります。専門家は「ブラックボックス、つまりフライトレコーダーが墜落原因を知る鍵になる」と指摘しますが、ブラックボックスはいまだ行方不明でした。この大事故を巡って、AD社では役員会が開かれていました。主導権を握るのは役員のカンナ(ザーキル・フセイン)。社長に当たるMD(マネージング・ディレクター)は先代社長の遺児ランヴィール(モーヒト・チャッダー)なのですが、彼は役員会には姿を見せず、ランヴィールの後見人であるバルラージ(パワン・マルホートラー<『ミルカ』のコーチ役で、先日の『シティ・オブ・ジョイ』でもご紹介。多分、忠実な人間役のはず>)だけが出席しています。新聞に女性がらみのスキャンダルをすっぱ抜かれたりするランヴィール、社内ではまったく信用がないようです。
その頃ランヴィールが何をしていたかと言うと、彼はAD社の倉庫に姿を現します。そこでは工員たちがブラックボックスを解体しようとしていました。<このあたりから、映画はチープ感満載となっていきます。工員たちはボスの坊主頭男性のほかは、モンゴロイド系の顔立ちの男たち。一目で悪い奴とわかるのはいいのですが、ひょっとして香港からスタントマンを呼んだ?と期待していたら、せいぜいが回転飛び降りぐらいで、ものすごくショボいアクションシーンが展開します。北東インド出身の俳優たちだったのかしら?>その時外で物音がして、それに気を取られている間にブラックボックスが盗まれます。外に出てみると、ブラックボックスを脇にして座っているのはMDのランヴィールでした。彼は役員らの悪巧みを見抜き、ブラックボックスを押収するためにやってきたのです。<主人公の饒舌なセリフ、ハリウッド映画を引き合いに出すこじゃれ感――この主人公を演じる俳優がやってみたかんだろーなー、とは思うものの、いや増すトホホ感>ランヴィールは工員たちをたたきのめしますが、その途中、恋人から電話がかかってきたりしてもう大変。<恋人役の女優が、えー、これが「ベイビー」なの?と思うトウの立ち方で、もうげんなり。笑うどころかさむ~くなりました。あとで調べたら、ランヴィール役のモーヒト・チャッダーの妻イシター・シャルマーが演じていました。イケイケのお姉ちゃん俳優を雇うお金を節約したのね>で、ランヴィールはブラックボックスを持って役員会に登場、815便の墜落原因を指摘し、その日の夕方ドバイで行われる投資家への説明会に出席するため、プライベート・ジェット機でムンバイを発ちます...。
もう< >を取り払って書いてしまいますが、このプライベート・ジェット機の機内がこの映画ではメインの舞台になるものの、そこに辿り着くまでが冗長すぎる作品です。このジェット機が姿を現してからも、後見人であるバルラージとの亡き父を偲んでのやり取りや、乗り込んでからの2人のロシア人CA(なぜロシア人?とツッコむのはやめましょう。「ダスビダーニャ(до свидания=さようなら)」をセリフに使いたかったためだと思われます)とのやり取りなど、こちらを疲れさせるシーンが続きます。このあたりで私が想像したのは、きっとこれは、主人公役のモーヒト・チャッダーが一度でいいからやってみたかったヒーロー役をやり、華麗なアクションで悪人をやっつける、大企業の役員会で一席ぶつ、スポーツカーからカッコよく降りる、プライベート・ジェットでCAをからかうetc.etc.を実現させるための映画ではないか、ということでした。と、そこで疑問に思ったのが、ツインほどの会社がなぜこんな超B級映画を買ったのだ? ということで、何かの作品との抱き合わせだったのだろうか、等々、雑念ばかりが浮かんできます。プライベート・ジェットがしつこく映るので、う~ん、レンタル料が高かったのね、きっと、と思ったり。自分をだましだまし、辛抱して見ていると、開始から29分でやっとタイトルが出ます。
このタイトル後、離陸時にお酒を飲んで寝入ってしまったランヴィールが目を覚ますのですが、そこからが俄然面白くなります、とだけ書いておきましょう。そこからの約80分は、十二分に楽しめます。ただし、ラストは賛否両論が出ると思いますが、この映画の脚本家たちはこれ以上思いつけなかったのでしょう。別のラストにして欲しかったな、というのが正直なところですが。そしてその後に、「次のフライトは2023年」という画面が出て、続編を作る気満々というのが示されます。次の作品は、もっともっと脚本を練ってね、と言うしかありませんが、十二分に楽しめる、と書いた80分間にも「バスタブの栓」のような素晴らしいアイディア(これも科学的にはいかがなものか、ですが、一瞬おおお~、とのけぞった)もあれば、ツッコミどころも結構あり、楽しませてもらいました。というわけで、冒頭30分とラスト5分を除けば、見る価値は十分ある作品です。なお、原題は「Flight」なのにタイトルが「ザ・フライト」となったのは、デンゼル・ワシントン主演作で『フライト』(2012)という映画がすでにあったためと思われます。
ま、レンタルしてご覧になってみて下さいね。初めの方で「ハリウッド映画を引き合いに出すこじゃれ感」と書いたのですが、シャー・ルク・カーン主演作『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007)のセリフも引用されますし、インドのテレビドラマ『シャクティマーン』(1997-2005)も出て来たり(予告編に使われています)と、いやもうあんたたちが映画オタクだってことはよーくわかったから、というしつっこさで、字幕翻訳者の方も大変だったと思います。ランヴィールが後見人であるバルラージを呼ぶ時の「ダーダー(父方の祖父、目上に対する敬称、兄貴、等の意味)」が「ダディ」という字幕になっているのですが、英語字幕がそうだったのでしょうか。亡き父親が実の弟のように遇していた、ということから、英語では父親代わりということで「ダディ」になったのかも知れません。最後に映画のデータと予告編を付けておきます。
『ザ・フライト』 ( )内は正確に音引きを付けた表記です。
2021年/インド/ヒンディー語/114分/原題:Flight
監督:スラージ・ジョシー(スーラジ・ジョーシー?)
主演:モヒト・チャッダ(モーヒト・チャッダー)、イシタ・シャルマ(イシター・シャルマー)、パワン・マルホトラ(マルホートラー)、ザキール・フセイン(ザーキル・フセイン)
発売・販売:ツイン
価格:DVD 4,378円(税込) アマゾン紹介サイト
『THE FLIGHT ザ・フライト』2022/2/18(金)DVDリリース!