『プレーム兄貴、王になる』が、昨日、2月21日(金)から公開中です。新宿ピカデリーでは、昼間の上映回は本日も明日もすでにほぼ満席状態。月曜日も休日なので、よく埋まっています。多幸感溢れるこの作品、暗い気持ちも吹っ飛ばしてくれるのでお薦めです。まずは、予告編にプラスされてアップされている、人形劇ダンスシーンをどうぞ。
「プレーム兄貴、王になる」人形劇ダンスシーン
「カトプトリー(kathputli)」と呼ばれるこの糸操りの人形劇は、インド西部のラージャスターン州に古くから伝わるもので、王国がいっぱいあった土地柄から、王様が主人公の物語も多いとか。プレーム役のサルマン・カーンと、マイティリー王女役のソーナム・カプールが、「人形振り」を上手に演じていますね。この2人が主役の『プレーム兄貴、王になる』ですが、実は脇を達者な俳優陣が固めています。公式サイトにもニール・ニティン・ムケーシュとディーパク・ドブリヤルが紹介されていますが、他の人や、またこの2人ももう少し詳しく、ここでご紹介しておきましょう。
ニール・ニティン・ムケーシュ Neil Nitin Mukesh(ヴィジャイ王子の腹違いの弟アジャイ役)
1982年1月15日ボンベイ(現ムンバイ)生まれ。父は有名なプレイバックシンガー(映画の歌の吹き替え歌手)のニティン・ムケーシュですが、そもそも祖父のムケーシュ(1923-76)が、インドを代表するプレイバックシンガーでした。「世紀の歌声」と賞賛されたムケーシュは、『放浪者』(1951)や『詐欺師』(1955)の監督・俳優として知られるラージ・カプールの歌を数多く吹き替え、「Awara Hoon(僕は放浪者)」や「Mera Joota Hai Japani(私の靴は日本製)」等、たくさんの曲をヒットさせました。1950年代から80年代にかけて、インド映画界は、女性歌手ならラター・マンゲーシュカルとその妹アーシャー・ボースレー、男性歌手ならムケーシュ、ムハンマド・ラフィー、キショール・クマールという5人が大スターとして存在していたのです。ニール・ニティン・ムケーシュは祖父の死後に生まれましたが、父が祖父のあとをついでプレイバックシンガーになっていたこともあって、彼の「ニール」という名前はラター・マンゲーシュカルが、アメリカの宇宙飛行士ニール・アームストロングにちなんで付けたそうです。
ニールは子役を経て、2007年に『Johnny Gaddaar(裏切り者ジョニー)』でデビュー、注目を集めます。本格的に演技が評価されたのは2年後のカビール・カーン監督作『New York(ニューヨーク)』(2009)からで、以後、多くの作品でその端正な顔を見せています。2014年からは南インド諸言語の映画にも進出、間もなく日本公開されるプラバース主演作『サーホー』(2019)でも、重要な役柄を担っています。欧米人かと思われる顔立ちですが、両親ともにインド人(上位カースト出身者らしい)です。ただ、祖父の芸名と言うかよく知られたファーストネームのみの名前「ムケーシュ」を、父親が姓のように扱ってさらにニールもそれを踏襲しているので、10年前のフィルムフェア賞授賞式では司会のシャー・ルク・カーンから「君の姓は何なの?」と皮肉られ、「それって、侮辱ですよ」と言い返して会場を凍り付かせたこともありました。まあ、アミターブ・バッチャンなんかも同じようなケースなので、もう少しうまくいなせばニールの株があがったのですが、根が真面目な人のようです。最近は弟ナマンが監督する映画で、主演と共にプロデューサーも務めるなど、活躍の場を広げています。
ディーパク・ドブリヤル Deepak Dobriyal (プレームの劇団仲間で親友のカンハイヤ役)
正確に音引きを付けると、ディーパク・ドーブリヤールとなりますが、本作以外にもいろんな作品に出ていますので、顔をご存じの方も多いことでしょう。1975年9月1日、現在はウッタラーカンド州の山の町ポウリーの生まれ。デリーに移り住んでから演劇に興味を持ち、1994年から舞台に立ち始めます。どうりで、本作でもノウタンキー(村芝居)の役者姿が板に付いていると思いました。映画出演は2003年のヴィシャール・バールドワージ監督作『Maqbool』から。「マクベス」を翻案したこの映画の主演はイルファーン・カーンだったので、『ヒンディー・ミディアム』(2017)で共演する以前からの顔なじみだったんですね。脇役で徐々に存在感を示し、『タヌはマヌと結婚する』(2015)と『ヒンディー・ミディアム』(下の写真)でフィルムフェア賞の助演男優賞にノミネートされます。また、日本でDVDが出ている『タイガー・バレット』(2018)でも、印象的な役を演じています。主人公の友人役を演じさせると抜群にうまい人ですが、本作ではそれに加えて、舞台の女形役者としても実に達者な面を見せています。映画冒頭の「ラーマーヤナ」のシーター役、じっくりとご覧下さい。
『ヒンディー・ミディアム』より
※別の作品なのにお借りしてすみません。4月8日に発売される『ヒンディー・ミディアム』DVDの宣伝、ということでお許し下さい。
スワラー・バースカル Swara Bhaskar (ヴィジャイ王子の腹違いの妹たちのうち、姉チャンドリカー王女役)
上写真の一番左の彼女です。1988年4月9日生まれの31歳なのですが、撮影時は5歳ほど若かったわけで、まあ、OKのキャスティングでしょうか。しかし、実は彼女、2016年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映された『ニュー・クラスメイト』(2015)には、中学生の娘がいる役で主演しており、そちらを先に見たもので、本作の役柄は少々違和感があったのでした。演技がうまいと定評があるので、それでスーラジ・バルジャーツヤー監督にキャスティングされたのでしょうか。デリーに生まれ育ち、デリー大学とJNU(ジャワーハルラール・ネルー大学)で学んだ才媛で、演劇を経験したあと2009年から映画に出演。『タヌはマヌと結婚する』(2011)シリーズなど、いろんな作品で若き名脇役として活躍しています。
ほかには、大ベテランのアヌパム・ケール(お城の執事)、サンジャイ・ミシュラ(芝居一座の座長)、スハーシニー・ムレー(マイティリー王女の祖母)はじめ、ディープラージ・ラーナー(護衛長サンジャイ)、アルマーン・コーフリー(悪巧みをする王宮の事務長)らが出演しています。脇役の人たちの名演技も、楽しんで下さいね。では、こちらでチェックして、上映館へどうぞ!