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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

『ガリーボーイ』発見ノート①ライムは何語で書くのか?

2019-10-02 | インド映画

いよいよ、あと2週間でやってくる『ガリーボーイ』。今朝、ゾーヤー・アクタル監督と共同脚本家リーマー・カーグティーのインタビュー記事を「BANGER!!!」に入稿したので、ちょっとひと息ついてます。もうあちこちにこの映画のパブが出ていることから、どんなお話か、というのは皆さんご存じではと思うため、この映画を見ていて発見した、小さなネタを3回ほど書いてみたいと思います。その前に、まずは映画のデータを書いておきましょう。

『ガリーボーイ』 公式サイト
 2019年/インド/ヒンディー語/154分/原題:Gully Boy
 監督:ゾーヤー・アクタル
 出演:ランヴィール・シン、アーリアー・バット、シッダーント・チャトゥルヴェーディー、カルキ・ケクラン、ヴィジャイ・ラーズヴィジャイ・ラーズ
 配給:ツイン
※10月18日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー

この映画の主人公、ムラド(ランヴィール・シン)のモデルとなったのが、ムンバイのラッパーNaesy(ネィズィー)です。そして、ムラドのメンター(師匠)とも言えるラッパー、MCシェール(シッダーント・チャトゥルヴェーディー)は、Naezyと共に「Mere Gully Mein(メーレー・ガリー・メーン/俺の路地で)」を歌ってヒットさせたラッパーDivine(ディヴァイン)がモデルと思われます。必ずしも彼ら自身がそのまま移し込まれている、というわけではなく、細部はいろいろ変更がなされていますが、ムラドとMCシェールは、NaesyとDivineにインスパイアされたキャラクターであることは確かです。Naezyの本名はナヴェード・シェイクで、それからもわかるようにイスラーム教徒です。そして、『ガリーボーイ』のムラド(正確に音引きを付けると「ムラード」)もイスラーム教徒で、父親とモスクで祈るシーンが出てきます。Divineは本名をヴィヴィアン・フェルナンデスと言い、キリスト教徒です。一方MCシェールは、途中で本名が明かされるのですが、それでキリスト教徒ではないことがわかります。さて、彼の宗教は? わかった方はぜひコメントをお寄せ下さい。

では、ここでちょっと、NaesyとDivineのMV「Mere Gully Mein」を見てみましょう。

Mere Gully Mein - DIVINE feat. Naezy | Official Music Video With Subtitles

オリジナル曲は、いかがでしたか?  黒いセーターがDivineで赤いセーターがNaezyなんですが、途中でNaezyも同じオソロの黒いセーター姿になったりしています。『ガリーボーイ』の中でも、同じようにスラムで映像を撮ってこの曲をMVにする、というシーンが出てきますので、これと比べてみて下さいね。


それにしても、ラップはものすごく舌が回らないと歌えそうにありません。例えば、「Mere Gully Mein」のサビ部分というか、リフレイン部分はこんな歌詞です。リフレインながら、出てくるたびに少しずつ歌詞が変わっていますが、最初のメイン歌詞のあとに出てくる部分は下の通りです。 

"Mere Gully Mein"
Lyrics: Divine, Naezy
Music: Divine, Naezy, Sez on the Beat
Singer: Ranveer Singh, Divine, Naezy

......

メーレー・ガリー・メーン、ガリー・ガリー・ガリー・メーン
Mere gully mein gully gully gully mein
俺の小路で 小路、小道、路地で 

メーレー・ガリー・メーン、ガリー・ガリー・ガリー・メーン
Mere gully mein gully gully gully mein
俺の小路で 小路、小道、路地で 

テーレー・シュータローン・カー・カース・メーレー・ガリー・メーン
Tere shooteron ka khaas mere gully mein
お前の狙撃手たちの中でピカイチがいる 俺の小路に 

プーレー・シャハル・キー・アーワーズ・メーレー・ガリー・メーン
Pure shehar ki awaaz mere gully mein
街中の声が集まる 俺の小路に 

メーレー・ガリー・メーン、ガリー・ガリー・ガリー・メーン
Mere gully mein gully gully gully mein
俺の小路で 小路、小道、路地で

メーレー・ガリー・メーン、ガリー・ガリー・ガリー・メーン
Mere gully mein gully gully gully mein
俺の小路で 小路、小道、路地で 

ポリス・アーイー・ラギー・ワート・メーレー・ガリー・メーン
Police aayi lagi waat mere gully mein
ポリ公が来始めると風が騒ぐ 俺の小路で 

エーク・ナンバル・サーリー・バート・メーレー・ガリー・メーン
Ek number saari baat mere gully mein
何でもかんでも一番さ 俺の小路は

.........

実は「ガリー」という単語は女性形なので、正しくは「メーリー・ガリー・メーン」としないといけないのですが、「メーレー・ガリー・メーン」の方が「ガリー」の音が強調されるため、こちらにしたのではないかと思われます。こういうラップの歌詞は「ライム」と言って、インドでは脚韻を踏むのが一般的です。上の歌詞も「~メーン(~の中で)」で最後が終わるので、リズミカルになりますね。

今回映画を見ていて興味を引かれたのは、ムラドが歌詞をノートに書き付けるシーンです。言葉はヒンディー語なのですが、書いている文字は何だろう? ヒンディー語のデーヴァナーガリー文字なのか、それともローマナイズのヒンディー語なのか? YouTubeにアップされている映像をスチルにして大きくしてみると、どうやらローマナイズらしいのですが、一部にデーヴァナーガリー文字みたいな形も見えます。インド映画好きの方ならご存じのように、インド映画ではタイトルもローマナイズで書いたもの、例えば「Gully Boy」がメインの顔となります。映画のオープニングタイトル(インド映画の場合は、これが映画開始10分とかひどい時には30分ぐらいして登場するので、「オープニング」とは言えないことも多いのですが)もまずローマナイズが出てきて、それからインド諸語の文字で出てくるものが圧倒的に多いですね。

ローマナイズにすると、インド全土のみならず、全世界の人が読めるからなんですが、反対にデーヴァナーガリー文字で書いてしまうと、インドでも読めない人が出てきます。一応、国全体の共通語なので、ヒンディー語はみんな小学校で習っているはずなんですが、普段使わない地域も多いので、すんなり読めない人がいるんですね。そして、実はヒンディー語が母語の人でも、デーヴァナーガリー文字が書けない人もいるのです。というのも、普段の生活では、ヒンディー語で文章を書く機会がほとんどないのが当たり前。英語ならすらすら書けるのに、ヒンディー語となると綴りがあやしくなり、それどころか文字も一字一字書くようなことになってしまいます。これを知ったのは、30年ぐらい前、ある映画監督夫妻と親しくなって、新年カードにヒンディー語でお祝いの言葉と共にあれこれ書いて送った時。相手から返礼カードが来たものの、非常にたどたどしいデーヴァナーガリー文字で新年の挨拶が書いてあったんですね。それまで英語の手紙は何度もやり取りしていたので、その落差にびっくりしました。その後気をつけていると、学歴の低そうな人の方が、かえってヒンディー語ですらすら書けることもわかりました。


というわけで、スラムの大学生ムラドはどんな文字で心の叫びを書き留めていたのか、に関心があったのですが、やはり普段英語の授業を聞いているので、ローマナイズのヒンディー語だったようです。しかし、このローマナイズのヒンディー語もクセもので、日本のようにヘボン式ローマ字とかの基準的書き方があるわけではなく、みんな勝手気ままに書き表しているのが実情です。「Gully Boy」というタイトルからして、そのままヒンディー語をローマナイズすれは「Gali Boy」または「Galii Boy」なんですが、上記のような綴りにしてあるわけで、元のヒンディー語の単語を知っていないとなかなか読めるものではありません。「Gully Boy/ガリー・ボーイ」を間違っても、「グッリー・ボーイ」とか読まないで下さいね。では、最後に予告編をどうぞ。

『ガリーボーイ』予告編



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2 コメント

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デーヴァ・ナーガリー文字。 (サントーシー)
2019-10-04 11:40:59
現地企業で働いていた時の同僚が、
ナーガリー文字を書けなかったので驚いた記憶があります。
最近ではボリウッド映画の台本も、
ローマナイズ文字で書かれているそうですが、
ご覧になりましたか?
若い俳優たちがナーガリー文字を読めないからだそうです。
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サントーシー様 (cinetama)
2019-10-05 10:55:10
コメント、ありがとうございました。

インド映画の字幕を作る時に届くヒンディー語の原語台本は、21世紀になる前は手動タイプで打ったデーヴァナーガリー文字のものが多かったのですが、コンピュータが普及するとほぼ全部ローマナイズになりました。
たまにデーヴァナーガリー文字もあったりしますが、メールでファイルが届いても文字化けしていたりして、『パッドマン』の時は友人に変換してもらうなど苦労しました。
また、ローマナイズとデーヴァナーガリー文字の両方が入っているという親切な脚本もあったものの、デーヴァナーガリー文字の方に綴り間違いが多く、添削しながら訳したこともあります。
ローマナイズ脚本に鍛えられたおかげで、ローマナイズ・ヒンディー語の読み書きがすごく早くなりましたが、これってインドでは何の役にも立たないですね(笑)。

タミル語映画など南インド映画は、セリフは今でもそれぞれの文字で書いてありますので、ト書き以外にセリフまでもローマナイズしてしまうのはヒンディー語映画だけかも知れません。
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