アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

オススメのソフトが2本出ました!~『ポライト・ソサエティ』&『火の道』

2025-01-30 | インド関連映画

昨年はインド映画の日本における公開本数が19本となり、また、インド関連映画(インド周辺の国々の映画や、他国に住むインド・パキスタン系の人が主人公の作品など)も複数公開されて、毎月2本はインドの香りがスクリーンから、という幸せな年でした。その「インド関連映画」とは、ロンドン在住のパキスタン系イギリス人社会を女子高生リアを主人公に描いた『ポライト・ソサエティ』(2023年/イギリス)や、アメリカ映画ながらインド人の青年ダンサーを追ったドキュメンタリー『コール・ミー・ダンサー』(2023)などですが、そのうちの『ポライト・ソサエティ』のソフトを、何と頂戴してしまいました。まずは、ソフトのカバー写真をどうぞ。

痛快シスターフッド映画とでも呼ぶべきこの作品、私はすごく気に入ってしまったのですが、実は「コメントを下さい」と配給会社であるトランスフォーマーの方に言われながら、とうとうお役に立てなかったのです。それなのにソフトを頂戴してしまって、申し訳ない限りです。一緒に入っていたトランスフォーマーの担当者Kさんのお手紙には、「宣伝について多大なるご協力を頂き」と書いて下さっていて、このブログでこちらこちらこちらの記事をアップしたのがお役に立ったのかな、と思っています。で、早速特典映像を見せてもらったのですが、これがまためっぽう楽しいニダ・マンズール監督と、主演の二人、女子高生の妹リア役プリヤ・カンサラ&姉のリーナ役リトゥ・アリヤのインタビューという、内容も濃くて楽しいものでした。レンタルとかでは付いてこないかも知れませんが、本編をご覧になってからこの特典映像をご覧になると、映画がさらに楽しめると思います。来日も果たしたプリヤ・カンサラ、このインタビューでもとってもチャーミングです! よかったらぜひ、アマゾン沼でお求め下さい。この特典映像も一部引用されている、メイキング映像を付けておきます。

8.23㊎公開『ポライト・ソサエティ』メイキング映像|“格闘の芸術”

 

こんな映像見てると、また本編が見たくなってしまいますが、私の友人たちの中にも劇場公開時に見た人が多く、インド亜大陸の音楽にメチャ詳しい軽刈田梵平さんは、こちらに長い紹介記事を書いてくれています。その中であれ? と思ったのが次のくだりの後半です。
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それから、これはいくら特筆してもしすぎることはないと思うのだけど、主演のプリヤ・カンサラがすごく良かった。
きっと彼女はこの後もアクションやコメディや、いろいろな映画で活躍することと思うが、この映画を超えるインパクトを得ることは難しいのではないか、と本気で思ってしまうくらい、役にはまっていた。
「I am the fury」(私は怒りそのもの)という決め台詞がたくさん出てくるのだが、彼女がなんで怒っているのか、じつはよく分からない。
「抑圧された女性たちの怒り」というメッセージもあるのだろうけど、若者が持つ理由のない怒りの戯画的な表現にもなっているような気がする。
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ここの「fury(怒り)」ですが、おそらくブルース・リーの『ドラゴン怒りの鉄拳(原題:Fist of Fury)』(1972)から取ったのでは、と思います。字幕が「”私は怒りの権化だ”」と正統派の翻訳だったのと、この決め台詞に至る前段が「神々が戦士にささやく」「”怒りには逆らえない”」「戦士はささやき返す」となっていたため、違うかも知れないのですが、私は初めて『ポライト・ソサエティ』を見た時、「これは、『Fist of Fury』から取ったに違いない。意訳すれば、『私こそは女ドラゴン!』とか?」と思ったのでした。香港映画好きの方、ブルース・リーのファンの方、ぜひ『ポライト・ソサエティ』をご覧になって、ご意見をお聞かせ下さい。こんなことを書いてしまいましたが、この映画の字幕はとってもこなれていて面白く、特に主人公リアを巡るガーリートークの翻訳は素晴らしいです。私も一度、こんな女の子言葉を使った字幕をやってみたかったなあ、とうらやましくなったほど。字幕翻訳者を目指しておられる方なら必見の字幕は、田渕貴美子さんという方の手になるものです。ソフトでじっくりと味わって下さいね。『ポライト・ソサエティ』の公式サイトはこちらです。下はポーズも決まっているリア役のプリヤ・カンサラちゃんです。

©2022 Focus Features LLC. All rights reserved.

そして、もう1本いただいたのが、ヒンディー語映画『火の道』(2012)のBlu-rayディスクです。こちらは私が字幕を担当したので、いただけるのは当然なのですが、やはり送付して下さった担当者さんが丁寧なお手紙を付けておいて下さり、今の若い方も皆さん「できる人」が多いなあ、と感心した次第です。『火の道』は2012年の第25回東京国際映画祭で上映され、監督のカラン・マルホートラーが来日し、インタビューに答えてくれました。インタビューはこちらにアップしてあります。おっとその前に、この映画のあらすじをちょっとご紹介しておきましょう。

ムンバイの南の位置するマンダワ島。この島は塩の製造ぐらいしか産業がないのですが、塩産業は村長が牛耳っており、その息子カーンチャー(サンジャイ・ダット)は村のボス的存在でした。そんなカーンチャーに目を付けられたのは、島の小学校の教師ディーナーナート・チャウハーン。チャウハーン先生はいつも小学生の息子ヴィジャイに「火の道」という詩を暗唱させ、つらくとも正義の道を歩むよう心構えを説いていたのでした。実はカーンチャーは、この島を麻薬取引の基地にしようとしていたのですが、それにはチャウハーン先生が目の上のこぶ。カーンチャーは彼を罠に掛け、女子生徒を殺した罪を被せて民衆裁判の末、絞首刑にします。家も焼かれたヴィジャイは妊娠中の母と一緒にムンバイに逃れ、下町で母は女の子を産み、町の人々に助けられながら暮らして行きます。成長したヴィジャイ(リティク・ローシャン)はいつか父の仇を討つことを胸に秘め、地元のヤクザであるラウーフ(リシ・カプール)の手先となっていましたが、母がそれを嫌ったことから家を出、母と妹をそっと見守りながら暮らしていました。そんなヴィジャイを支えてくれるのは、地元で美容院を開いているカーリー(プリヤンカー・チョープラー)でした。ヴィジャイはマンダワ島のカーンチャーへの復讐も視野に入れながら、ラウーフのもとでのし上がっていきます...。

『火の道』は、1990年のアミターブ・バッチャン主演作のリメイクですが、前作はアミターブ・バッチャンの父であるハリワンシュラーイ・バッチャンの書いた詩「火の道」(こちらでヒンディー語の詩が見られます)をテーマに使い、ムクル・S・アーナンド監督が初めてアミターブ・バッチャンと組んで作ったもので、興収第4位とアミターブ人気でヒットはしたものの、古くさいタイプのギャング劇になっていて、あまり印象には残らない作品でした。この作品のリメイクを思いついたカラン・ジョーハル監督は、自分がやるのではなく、監督としては新人のカラン・マルホートラーを起用し、脚本も彼に書かせます。カラン・マルホートラーはまず、敵役のカーンチャーにサンジャイ・ダットをキャスティングし、しかもその姿を非常に特異な形にします(上写真)。まるで恐怖の塊のような、日本の僧侶のような黒い衣裳に丸坊主の頭をさらす不気味なカーンチャー。そのインパクトは絶大で、加えてそれまで善人役ばかりだったリシ・カプールにムスリム・マフィアの親分役をさせるなど、キャスティングと脚本のうまさがこの映画をヒットに導いたのでした。

もちろん、ヴィジャイ役のリティク・ローシャンの復讐に燃える姿も見応えがあったのですが、ベテラン2人の貫禄と演技力には到底かなわず、リティクとプリヤンカーは清涼剤的存在として光っていたと言えます。あと、マンダワ島にやってきたヴィジャイを歓迎する宴で、カトリーナ・カイフがアイテムソングを踊るシーンや、リティクとプリヤンカーが踊るソング&ダンスシーンも見どころとなっています。さらに見どころとなるのが、2000年以降の作品では珍しくなったカッワーリーの歌のシーンで、ラウーフの長男の結婚式の日に抗争が起こり、その場に出張る長男と彼を補佐するヴィジャイ、そして宴会場で彼の帰りを待つラウーフと知的障害がある次男、という切り返しの図で、見事に彼らの力関係とその移譲を描くシーンです。ラウーフらが手に持って踊るのは、「チムター(火箸)」と呼ばれる打楽器で、宗教的な音楽の時よく用いられます。ちょっとネタバレになるのですが、ご覧になってみて下さい。

Ajay-Atul - Shah Ka Rutba Lyric Video|Agneepath|Hrithik, Rishi Kapoor|Sukhwinder Singh

 

ついでに予告編も付けておきます。『火の道』全編を、このソフトでたっぷりと楽しんで下さいね。

Agneepath - OFFICIAL Trailer

 


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