現在<インディアンムービーウィーク2025>がキネカ大森で開催中です。もう半ば近くになってしまったのですが、先日仕事をサボって(「地球の歩き方:インド」編集の皆さん、ごめんなさい!)どうしても見たい作品、『チェンナイの夜』(2017)を見に行ってきました。どうしても見たかったのは、監督がローケーシュ・カナガラージだったからで、このブログを読んで下さっている方なら、わかる、わかる、と言って下さると思います。
今回上映された『チェンナイの夜』は原題を「Maanagaram(大都会)」と言い、ローケーシュ・カナガラージはこの作品で第10回ヴィジャイ・アワードの最優秀新人監督賞を獲得しています。監督としてのデビュー作は2016年の『Aviyal(非現実的)』ですが、この映画はオムニバスで、ローケーシュ・カナガラージはそのうちの1本『Kalam』の監督だったのでした。とはいえ、この『Aviyal』も『ピザ 死霊館へのデリバリー』(2012)や『ジガルタンダ』(2014)のカールティク・スッバラージ監督が製作を担当した作品で、タミル語映画が面白くなってきた頃に作られた作品です。で、第2作がこの『チェンナイの夜』、そしてそれに続く第3作『囚人ディリ』(2019)でローケーシュ・カナガラージ監督は大ブレイクすることになります。
というわけで、『チェンナイの夜』はまだブレイク前だったためか、主役級の出演者はおらず、ちょっと地味な作品になっています。特に前半は、若手俳優たちがあまり上手ではない演技を延々と見せてくれるため、少々退屈でもあります。ところが、インターミッション(今回はカットしてありますが)あたりから、俄然面白くなるんですね。ストーリーは大都会チェンナイにあるIT企業のリクルート風景から始まります。会社の新人採用を担当している若い女性に惹かれて、面接にやってくる青年、地方から出て来て履歴書や大学の成績証明を持ち、IT企業の求人に応募する青年。一方、中年の子持ち男性はタクシー運転手を志願し、P.K.パディヤンというヤクザが社長のタクシー会社に採用され、「PKP」というマークのついたタクシーを支給されてIT企業の送迎専用車になります。そして、あるギャングの一味は、金持ちの息子を小学校から誘拐し、身代金をせしめようとします。これに警察がからんで、チェンナイという大都会の夜が手に汗握る一夜になっていきます...。
後半は、あれよあれよという間に物語が転がっていき、脚本のうまさにうならされます。最初は人の区別をつけるのが難しいかも知れませんが、見終わったあとはかなりの充足感が得られますので、ぜひ劇場でご覧下さい。私が見た時の客席は8割強の入りで、皆さん物語に引き込まれ、終了後は拍手がおきるというとてもいい雰囲気でした。予告編はこちらです。
Maanagaram - Official Trailer | Sundeep Kishan, Sri, Regina Cassandra | Lokesh
あと2回ほど上映がありますので、劇場のサイトでスケジュール等をご確認の上、キネカ大森までお運び下さい。残忍なギャングも出てくるのですが、「善意あるところに救いあり」という感じで、とても後味のいい映画です。さすが、ローケーシュ・カナガラージ監督、この後に『囚人ディリ』(2019)、『マスター ――先生が来る!――』(2021)、そして今年日本公開予定のカマル・ハーサン主演作『Vikram(ヴィクラム)』(2022)、さらにはヴィジャイの『Leo(リオ)』(2023)と、ガンガンヒットを飛ばしまくるその根元が見えてくるような作品でした。