アジア映画巡礼

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ワンダー・フルなインド映画『エンドロールのつづき』💫1💫

2022-11-26 | インド映画

怒濤のインド映画ラッシュだった2022年も、あと1ヶ月ちょっとになりました。で、2023年に公開を控えているインド映画第1号がこちらでもちょっとご紹介した、『エンドロールのつづき』です。実はこの映画、インド映画ファンなら本筋だけでなく、細かいトリビア部分で大いに泣ける映画なんですね。先日、【BANGER!!!】のお仕事で本作のパン・ナリン監督にインタビューさせてもらったのですが、いろいろとうかがったお話の面白かったこと! 広く映画ファンの心を動かす作品だというのがよーくわかると共に、インド映画ファンあるあるをいっぱいうかがえてとても楽しかったです。インタビュー記事が出るのはちょっと先になりますが、まずは何回かにわけて、映画の背景や見どころをご紹介していきましょう。

『エンドロールのつづき』 公式サイト
2021年/インド・フランス/グジャラート語/112分/原題:Chhello Show/英題:Last Film Show
 監督・脚本:パン・ナリン
 出演:パヴィン・ラバリ、バヴェーシュ・シュリマリ、リチャー・ミーナー、ディペン・ラヴァル
 応援:インド大使館
    配給:松竹
2023年1月20日(金)より新宿ピカデリー他全国公開

©2022. CHHELLO SHOW LLP

本作の主人公は9歳の小学生サマイ(パヴィン・ラバリ)。「サマイ(時、時間)」というちょっと面白い名前を持つこの少年は、父(ディペン・ラヴァル)、母(リチャー・ミーナー)、妹と共に、インド西部グジャラート州のカティアワル半島の田舎町チャララに住んでいます。ここは鉄道が通り、本数は少ないながら大きな町アムレリにも数十分で行けるため、地元に小学校がないサマイたちはアムレリの小学校まで、列車に乗って通学しています。サマイの父はチャララ駅のプラットフォームで乗客向けのチャイ屋を営み、サマイも学校がない時は売り子として手伝っていました。父はバラモン階級(「四種姓」と呼ばれるカースト制度の一番上の身分)の出身なのですが、身内に騙されて財産を取られてしまい、細々とチャイ屋を経営しています。でも誇りは高く、サマイにも勉強をさせ、きちんとしたしつけをしようとしますが、サマイはつい遊ぶ方が忙しく、いつも叱られてばかりでした。

©2022. CHHELLO SHOW LLP

ところがそんなある日、父が「今日は映画に行こう」と言い出します。「信仰するカーリー女神様の映画だからな、これは見ないと」と言う父に、サマイだけでなく母や妹も大喜び。やってきたのはアムレリにあるギャラクシー座という映画館で、初めて映画館に来たサマイには、すべてが珍しいものばかり。そして映画が始まると、映画の内容よりも、小窓からさす光がスクリーンに映って像を結ぶという映画の不思議に、サマイはすっかり魅了されてしまったのでした。それからというもの、サマイは先生の目を盗んで授業を抜け出し、ギャラクシー座に行って映画を見たりする映画少年になってしまいます。しかし、お金が続くはずもなく、ある時潜り込んでみていたのが見つかり、館主と案内係に外にほうり出される羽目に。そんなサマイを見ていたのは映写技師のファザル(バヴェーシュ・シュリマリ)で、ファザルはサマイに取引を提案します。それは、サマイの母が作るお弁当を食べさせてくれれば、映写室から映画をそっと見せてやる、というものでした。こうしてサマイは狭い映写室で、映画と映画の仕組みに触れていくことになります...。

©2022. CHHELLO SHOW LLP

このあたりから、「インド版”ニュー・シネマ・パラダイス”」風になっていくのですが、ここに至るまでのパートでも、20年ほど前のグジャラートの田舎の風景が印象的に重ねられていって、映画に引き込まれます。例えば、線路に釘を置いていき、列車がその上を通過するのを待って、ぺちゃんこになった釘を回収する、という子供の遊び。今の日本では到底できませんが、昭和の時代には、線路が走っている地方の悪ガキたちはよくやっていました。本作ではこの平たくなった釘をサマイは矢じり代わりにするのですが、関西の田舎の悪ガキたちは、ただただ釘が変形するのを楽しんでいたような...。列車というものの重量とスピードが見せてくれる魔法と、「あぶないから線路入ったらあかんで!」という大人たちの教えに逆らうスリルとを楽しんでいたように思います。ほかにもサマイは、色つきのセルロイド板やガラス瓶などを通して景色を見たりと、映画少年になる片鱗をいろいろ見せてくれます。

©2022. CHHELLO SHOW LLP

ところでこの映画の舞台となっているグジャラート州ですが、場所がおわかりにならない方もいるかと思いますので、インドの地図を付けておきましょう。下の州別地図で、真ん中辺の左端にあるピンク色の州がグジャラート州です。アラビア海に接している部分が3つに分かれていますが、その真ん中に舌のようになって出ているのがカティアワル(カーティヤーワール)半島です。その半島の中心点からちょっと南にいったところに、チャララ(チャラーラー)はあります。

グジャラート州の州都はガーンディーナガルです。以前は一番人口の多い都市アーメダバード(アフメダーバード)が州都だったのですが、独立後しばらくしてル・コルビュジエの弟子だった二人のインド人が設計にあたり、1970年に州都移転となりました。インド独立運動を率いたマハートマー・ガーンディーはグジャラート州の出身なので、彼にちなんでガーンディーナガル(ガーンディーの町)と名付けられました。一方アーメダバードはムンバイとの間でインド高速鉄道計画が進み、日本のJRが協力していることでも知られています。グジャラート州の言葉はグジャラート語(グジャラーティー語)で、独自の文字も持っています。文字はヒンディー語のデーヴァナーガリー文字と少し似ているのですが、今回この映画の音声を聞いてみたら全然わからず、ヒンディー語とはまったく違う単語がかなり多いようです。文字は例えば「グジャラート」は、ヒンディー語のデーヴァナーガリー文字なら「गुजरात」、グジャラーティー文字なら「ગુજરાત」となります。

グジャラーティー語の映画が日本で公開されるのは初めてで、映画祭上映でも、1985年のインド映画祭で『おとぎ話(Bhavni Bhavai)』(1980)が上映された程度です。ただ、グジャラート州を舞台にした映画は結構あって、有名なところでは上にDVDカバーを付けたアーミル・カーン主演作『ラガーン(Lagaan)』(2001)や、大阪アジアン映画祭で上映された故スシャント・シン・ラージプート主演作『わが人生三つの失敗(Kai Po Che!)』(2013)など、いろいろあります。本作『エンドロールのつづき』で、グジャラート州の人々と生活にぜひ触れてみて下さいね。あ、『RRR』(2021)ではトラが活躍しましたが、本作にはライオンが出てきますよ~。いろんなワンダー(驚き)が詰まったのが、『エンドロールのつづき』です。最後に予告編を付けておきますので、お楽しみ下さい。

アカデミー賞インド代表‼1/20公開『エンドロールのつづき』60秒予告【公式】

 


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