「THE MILL & THE CROSS」 ※ネタバレ
この映画、予告を観て わくわくしたので
前々から観たいと思っていたのに なかなか観れずにいた。
ブリューゲルの書く絵は、人がまんまるで
あたしは大好きだ。とは言え絵の詳細などは知らない。
キリスト教のことや、時代背景のことに
まったく疎いままで、無謀かと(笑)思いつつも鑑賞。
ところがやばかった。凄かった。退屈する暇も無かった。
今回、映画に登場するのは、ブリューゲルの
「十字架を担うキリスト」と言う作品。
この絵に限らずだが、好き嫌いは別にして、
何の背景も歴史も分からずに絵を見た時、
ただの絵であって、そこに描かれている人や物が
遠い昔のどこかのこと、でしか、なかったりする。
なのに、この映画を観ると、その中に描かれている
人達が、一人ひとり、生きていた、ことを目撃する。
日常から切り取られる窓の外の景色や、映画全体の景色、
それにワンシーン毎のアングルも何もかもが絵画みたいだ。
絵の中に入り込んで、その世界を、
姿無く観察しているようだ。
いやもう、絵の中に完璧に入ってしまっている。
ブリューゲル自ら絵を説明してくれる台詞がある。
「観る者の目を捉えるべく
蜘蛛の巣のように巣を張っている」
こんな感じのことを言ったり、描かれているそれぞれの
物について解説したり。
画家が、絵を描きながら、その絵を自分で解説しているのが
(観ているこちらは有難いが) 何だか可笑しかった。
まるいものが、印象に残る。
蜘蛛の巣や、風車、車輪みたいなものなど
(後で言う、鳥葬された男がくくりつけられた物)。
作品は、BGMが殆どなく、台詞も殆どない。
日常の生活の音があって、進んでいく。
これが まず素敵と思ったひとつ。
観たくても、そうでなくても、いやに画面に
ひきつけられてしまい、展開が予測不可能。
特に、風車の中で、回転する軸の音であったり、
何か聞こえると思い、耳を澄ましていると、
馬の駆けてくる音が 荒い鼻息と混じって
近づいてくる音だったり、
これらが怖いほどの迫力があった。
その馬に乗ってやって来た赤い格好の兵士たちが
いきなり、道端から逃げ出す男を追って、馬で囲み、
ボコボコにする。
登場するアートコレクターの男(何だか物凄い金持ちのようだ)
ヨンゲリンクが、この土地の人達は、どんな宗派の人間とも
共存できるものと信じている、けれどスペインの王は
異端を許さずに処刑する、みたいなことを言っていた。
この赤い兵士は、あたしの頭でスペインの仕業と片付けた。
前に読んだ本(ここでも紹介した「名画の謎」)にある
「イカロス墜落のある風景」その解説の中では
ブリューゲルの生きた時代のフランドル地方では
スペイン・ハプスブルク家の圧政に喘いでいたらしく
反乱や処刑などは日常だったとある。
あたしの頭はハプスブルク家やスペイン、フランドル地方
等々、こう言う物の歴史が いまいちのみこめていないので
詳しくは分からないが、スペインの王は、どうかしているんでは。
ぼこぼこにされた男は、消え入りそうな うめき声を上げるのだが
その声が、妙に生々しく、ぞっとする。
その後、鳥葬と言うのかな?車輪のような物に括り付けられ
高い木のてっぺんに置かれる男。後は鳥に食われるがままに。
この男の奥さんが、木の下で泣き崩れている。
このシーンと、タイトルの夢のあるような感じ
(勝手なイメージ)のギャップ。
こうした残酷な風景も、日常の中に当たり前のようにあり、
無常な時間が、犠牲となった人達だけを 異次元の穴に
落っことしたみたい。
他にも、生き埋めにされてしまう女性が出てきたりする。
淡々と事務的に進められていく作業に、何の躊躇も無いから
それが凄く悲しい。
スペインの王とやらが信じる神は
無秩序に、宗派の違う者をぶっ殺せ
と言いまくってる神なんだろうか?
宗派が違うと言うことは、派の問題だから
信じる神は同じなはずでは。
政治的な理由があるのかは分からないが、
自分が良いと思うもの以外は
許さないから殺す、って事と、あんまり変わりない。
救いようの無い犯罪人だ。
おまけに自分の信じる神の顔に泥を塗っているのだから哀れ。
そんなのが権力者だと、本当にロクな事が無いのだろうと思う。
今の世界にも、ろくでなしの権力者はいるが。
とにかく、この映画の中で、スペインの王や兵士
は人間の形をした悪そのもの。
王は出てこないけれど(そのように記憶している)。
こいつが処刑されたら良かったのに。
ところで印象的だったシーンの数々と言えば。
母親が、子供をあやしている風景は 本当に微笑ましい。
でも、この映画、油断できない緊張感があって
あたしが何も分かっていないせいか、ともかく誰が
いつ、いきなり殺されるか等 さっぱり分からないから、
無駄に安心できない。この辺が、展開が予測不可能なところ。
何がそこまで奇妙に感じるのか、よく分からないが
キリストが処刑された現場にいる、見張り役のような
男達がゲームに興じているシーンでは、一瞬
理解に苦しむ。ストーリーの中に、撮影クルーと監督
一同がいきなり登場するのにも近いほどの、違和感。
何を見ているか分からなくなる。
何だか、印象的なシーンだ。
景色の緑がとても美しいのに、空が曇っているみたいな
憂鬱な色をしているように見える。
映画の中では、ブリューゲルのいた時代に生きてた
その地方の人達の日常等にまじって、
マリアやキリストがと言ったキリスト教の人物が出てきたり、
彼の作品の中に登場する人物達の様子が展開されている。
あたしには謎も多かった。
パンを売る男、と言うのがいたが、彼は目が見えないのだろうか?
後、協会で金を数えている男がいるが、その男は
キリストの処刑のあとで、自分の金を教会の床に投げ捨てて
自ら首を吊っていた。この人はキリストが処刑されることに
関わっている裏切り者か何かなのだろうか?
そして、いちゃつきまくってる男女のオープンなこと(笑)。
物語すべてのそれぞれの事情については、
ついていけない点も多くあったが、分からなくても
気にならなかった。
何故ならもう感動したシーンが圧巻で。
この映画、最初にも言ったように、とにかく凄かった。
日常などの音で表される展開はもちろんのこと、
事情もよく分からないのに こんなに感動することが。
特に感動したのは、風車が止まった瞬間に、景色が
人がみんな、停止するシーン。
あれはいったい何?泣いてしまった。
ラストで、美術館にある、「十字架を担うキリスト」の絵が
登場するシーンも、同様に泣いてしまう。
胸に迫ってくるものの大きさに、驚く。
それは衝撃で、文字通りに息をのむ。
風車が止まった時なんて、呼吸も忘れてしまうくらい。
なんか、有得ないほど凄いものを観てしまった。
この先何度も観てしまうこと決定。
次は、もう少し この絵について色々知ってから
観たら、もう少し楽しめるかもしれない。
ああ、後、シモンも。今更になるけど、
ところでシモンって一体誰?(笑)
また、次回観た時に、色々と意味が分かったりした事があれば
その時は、そのときで感想を書くつもりでいる。
ちなみに、この映画の監督は、あたしの大好きな
「バスキア」の原案・脚本を手掛けている。
2011年 ポーランド・スウェーデン
監督 レヒ・マジュースキー
出演
ルトガー・ハウアー /Pieter Bruegel
シャーロット・ランプリング/Mary
マイケル・ヨーク /Nicolaes Jonghelinck
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