携帯を捨ててもう35分にもなろうか。
いま僕は独立している。
世界から独立している。
視界は六面体の白だ。
僕らは箱庭の世界で生活している。
生存に必要なエネルギーは箱が自動的に供給する。
知識も。栄養も。欲望さえも。
ただ繋がりだけが欠落している。
それを補う為に携帯は箱の中の唯一の異物として許された。
発信される電波。
受信される電波。
付随される感情。
送信される愛情。
僕はそれを破棄した。
僕はそれを拒絶した。
別に孤独主義者じゃない。
一人は怖い。
もう電波は届かない。
繋がりは失われ、僕は箱の中で成長していく。
僕はなぜ携帯を捨てたのだろう。
僕はなぜ幸福を捨てたのだろう。
肉体は充足し精神は枯渇していく。
情報は充足し他人は枯渇していく。
僕は携帯を廃棄した。
僕は手の平を広げていく。
僕は携帯を廃棄した。
僕は大きく背伸びをする。
僅かでも電波を吸収するために。