地球という星の発明家が素晴らしい発明をした。
素晴らしいことに世の中の全ての悲劇を消せる薬だ。
早速大量生産され世界中のほとんど全ての人間がそれを飲んだ。
かくして悲劇の世界は終わった。
交通事故も飢餓もエネルギー問題も残ったままだが
この世界に悲劇はなかった。
両親が死んでも子供は泣かなかったし
不当な税金にも民衆は放棄しなかった。
一年が経った。
発明家の助手は発明家の家を訪ねた。
彼だけは発明家の言いつけで薬を飲まず
一年間、記録をとるように命じられていたのだ。
「先生、素晴らしい効果ですよ。間違いなく世界から悲劇は消えました」
発明家は興味なさげに「そうか」と呟いた。
「記録もつけ終わりました。私にも薬を下さい」
発明家は無造作に薬を差し出した。
助手は少々躊躇い・・・何しろ彼が世界で唯一、悲劇を知るものなのだ。
しかし、最後には一気に薬を飲み干した。
「ふぅ・・・しかし先生、一体どうやって悲劇を消す薬なんて作ったんですか?」
「あぁ、これは正確には人々が物事を気にしなくなる薬なんだ
文明社会では気を病む事が多すぎたからね。いい薬だろう?」
助手は本当に自分はこの薬を飲んでも良かったのだろうかと思ったが
やがて薬が効きはじめ
「はい先生。この薬は人類を悲劇から救いました」と嬉しそうに微笑んだ。